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第23話:自分を守るために利用できるものは利用しよう

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翌日、メイドが起こしに来る前に目が覚めた私は、耳についていたイヤリングを外した。これはヴァンが私にくれた、大切な形見だ。万が一あの強欲な継母に取り上げでもされたら大変。

そっと箱にしまい、机の奥深くにしまっておいた。

「さあ、今日からまた頑張らないとね」

制服に着替え、髪をとかした。朝食を食べ終え、再度部屋で支度をしていると、メイドがやって来た。

「お嬢様、ネイサン殿下がお見えです」

「わかったわ、ありがとう」

どうやら今日は迎えに来たようだ。玄関に向かうと、ネイサン様が立っていた。ネイサン様を見た瞬間、言いようのない怒りがこみ上げてきた。あなたの醜い独占欲のせいで、ヴァンは!

それでも必死に怒りを抑え、笑顔を作る。

「ネイサン様、おはようございます。今日はわざわざお迎えに来てくださったのですね。ありがとうございます」

極力穏やかな笑顔を作り、頭を下げた。本当はこんな男の顔なんて見たくない。でも、今は我慢の時だ。

「おはよう、ジェシカ。元気になった様でよかったよ。実は昨日も迎えに来たのだが、体調がまだ戻らないとの事でね。侯爵からは、今日は必ず貴族学院に来るからって聞いて」

なるほど、だから昨日お父様が、“明日は必ず貴族学院に行け!“と言ったのね。本当にお父様はネイサン様の言いなりなのね…

ん?待てよ。お父様はネイサン様の言いなりという事は…

「さあ、ジェシカ、行こうか」

本当は触りたくもないが、仕方なく差し出された手を握り、馬車へと乗り込んだ。

「今回は随分と長い時間休んでいたんだね。そんなに酷かったのかい?」

「ええ…とても。それにしても、何だか今日は暑いですわね」

そう言って、お父様から殴られたあざが見える様、さりげなく袖を上にあげた。さらに首のアザを隠していたスカーフも取り払ったのだ。

「ジェシカ、そのアザ、どうしたんだい?」

目を大きく見開き、固まっているネイサン様。食いついてきたわね。

私は目頭を集中させる。そして瞳から涙を流す。

「実は、父から酷い暴力を受けていて…このアザは全て、父に殴られてできたものなのです。私が少しでも気に入らないと、殴られるのです。そうそう、ネイサン様が私と婚約破棄をしたいとおっしゃった時は、顔も殴られましたわ。後、ネイサン様がカミラ様の教科書を破いた犯人を、私だと決めつけた時も」

シクシクと泣きながら、そう報告した。どさくさに紛れて、あなたのせいで父親から暴力を振るわれていると伝えておいた。さあ、どんな反応を示すかしら?

「ああ…なんて可愛そうなんだ。そういえば、前にもそんな様なことを言っていたね。そもそも、君は僕の婚約者だ。そんな君に暴力を振るうだなんて!侯爵にはきつく抗議をしておこう。いいかい、万が一侯爵にまた暴力を振るわれたら、すぐに僕に言うんだよ。わかったね」

「はい…ありがとうございます」

やっぱり自分のせいで、私が暴力を受けていたというところはスルーしたわね。さすがだわ。でも、これで私は、あの家でも強く出られる様になった。これで少しは、あの家で動きやすくなるわね。

貴族学院に着くと、すぐに図書室に向かった。早速異国に関する本を借りる。本当はスパイに関する本なども借りたかったが、万が一誰かに見られたら大変だ。とりあえず、まずは異国に関する本で勉強をする事にしたのだ。

「ジェシカ、異国に関する本なんて読むのかい?」

なぜか私に付いて来ていたネイサン様が、そう聞いて来たのだ。

「はい、私はいずれ王妃になる身です。色々な国の事を知っておいた方が、貿易面でもお役に立てるかと思いまして」

「なるほど、さすがジェシカだ。そうだね、たくさん勉強をして、僕を支えていって欲しい」

誰があなたなんか、支えるものですか。そもそもあなたも王になる身なのだから、少しは異国の事も勉強しなさいよ!そう叫びたくなるのを必死に堪え、笑顔を向けておいた。

授業の休憩時間や昼休みなどを使い、本を読む。なるほど、この地域の大陸は、ほとんどが同じ言葉を使っているのね。通貨も基本的に一緒らしい。これは有難いわ。海外旅行に行った時、やっぱり困るのが言葉や文化の壁だものね。

言葉だけでも同じなら、後は何とかなりそうね。さらに、それぞれの国の文化についても書かれていた。へ~、この国は一夫多妻制なのね。あら、こっちは逆に多夫一妻制だなんて。

この国は観光で栄えているのか。なるほど。ただ他国の情報を仕入れているだけなのに、どんどんのめり込んでいく。やっぱり私、旅行が好きなのね。

早速今仕入れた情報を、ノートにまとめた。

これから色々な国の文化や風習、位置関係などをこのノートにまとめていこう。旅に出た時に困らないように。

そして放課後、本当は図書館に向かいたかったが、ネイサン様がお茶をしたいというので、付き合う事にした。彼と婚約破棄を無事成立させるまでは、この男を利用する事に決めたのだ。

人を利用するなんて、本当はしたくない。でも、今はそんな事を言っている場合ではないのだ。

そう、私は唯一の心の支えだったヴァンを失ったあの日から、もう良心というものは消え失せたのだ。利用するだけ利用して、ポイっと捨ててやるんだから!

その為にも、この男のご機嫌取りはしておかないと。私自身が幸せになる為に!
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