殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi

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第9話:陛下の力になれたら嬉しいです

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「随分と話し込んでしまったな。そろそろ冷えてきた。部屋に戻るといい」

「そうですね、そろそろ戻りますわ。陛下、今日は色々とお話に付き合って下さり、ありがとうございます。あの…陛下、もしよろしければ、またこうやって話し相手になって頂けますか?私、クロハくらいしか話し相手がいなくて…」

「それなら、私より女性の方がいいだろう。早速誰か夫人か令嬢を…」

「まあ、それは素晴らしいです。そうですわ、せっかく同じ王宮に住んでいらっしゃるのですもの。お2人で食事をしたらいかがでしょうか?」

陛下の言葉を遮る様に、クロハがそんな提案をしてくれた。

「それは素敵ですわ。陛下がお嫌でなければ、是非ご一緒させていただきたいです」

「わ…私は決して嫌だなんて思っていない!君がそれでよければ…」

「よかったですわ。それでは早速今日の夕食から、ご一緒させていただいてよろしいでしょうか?」

「あ…ああ」

「それでは私はこれで失礼いたしますわ」

陛下に頭を下げ、そのまま去ろうとしたのだが…

「ア…アナスタシア嬢…その…もしよければ、部屋まで送らせてもらってもいいだろうか?もちろん、嫌ならいいのだが」

下を向いて呟く陛下。

「まあ、送って頂けるのですか?それは嬉しいですわ。それでは参りましょう」

スッと彼の手を取り、そのまま歩き出そうとしたのだが、なぜか固まって動かない。一体どうしたのかしら?

「どうかされましたか?」

「…イヤ…その…手が…」

「手?」

コテンと首をかしげる。通常男性にエスコートされる場合、腕を組んだり手を繋ぐのが普通のはずだが…もしかしてこの国では普通ではないのかしら?

「あの…」

「アナスタシア様、申し訳ございません。陛下は令嬢に全く免疫がありませんでして、貴族の常識をあまり理解できていないのです。陛下、貴族界では令嬢をエスコートする場合、腕を組んだり手を繋ぐことは、ごく一般的でございます。陛下も少しは男女に関するマナーを身に付けられた方がよろしいですわね」

クロハがため息を付きながら、陛下に話している。よかった、私の常識が間違っていた訳ではないのね。

「そうか…すまない。私はあまり令嬢と関わった事がなくて…その…」

「気にしないで下さい、陛下。でも、あまり令嬢に免疫がないとなると、今後奥様を迎え入れた時にお困りになりますね。そうですわ、どうか私で免疫を付けて下さい。私は本当に何の役にも立たない人間ですが、一応令嬢ですので、そういった事なら協力出来ますわ」

「君は何の役も経たない令嬢ではない!それに、私の為にそこまでしてもらうのは…」

「陛下、またその様な事を。せっかくアナスタシア様がそうおっしゃって下さっているのですよ。ここは素直に受けるべきです。それに21年間生きてこられて、やっとあなた様と普通に接してくれる令嬢が現れたのです!このチャンス、逃がしてどうするのですか?」

陛下って21歳だったのね。あまりにも勇ましいから、もっと年上かと思ったわ…て、そんな失礼な事を考えてはいけないわよね。

「陛下、あなた様は私の命の恩人です。どうか私に恩返しをするチャンスを与えて下さいませんでしょうか?それに私、誰かの役に立てると思うと嬉しいのです。私はもう、誰からも必要とされていない人間なので…」

生まれてからずっと、政治の道具として今まで生きて来た。それでも私を大切にしてくれたルイス様のため、必死に頑張って来たのだ。そんな彼も私から離れて行った。それに親友だと思っていたマルモットにも裏切られ、何より姉の様に慕っていたメイドのリーナも殺されてしまった。

本当にもう私は、誰からも必要とされていないのだ。

「アナスタシア嬢、どうかそんな悲しそうな顔をしないでくれ。君が私の為に協力してくれると言うのなら、ぜひ協力して欲しい。ただ…無理はして欲しくはない。君はとても、美しい女性だ…私の様な野獣と一緒にいて辛いと感じたら、止めてもらっても構わないから…」

野獣?

「怪物の次は野獣ですか。陛下、そんなに謙遜されなくても大丈夫ですわ。あっ、でも野獣の様にお強いという事なら納得いきますわね。それに私は、あまりひょろっこい人よりも、勇ましい人の方が男らしくて素敵だと思いますよ」

随分と陛下は自己評価が低い様だ。

「それでは、参りましょう」

陛下に負担がかからない様に、今度はそっと腕に手を添えた。

「ああ、行こうか」

どうやら緊張している様で、歩き方が若干変だ。それでも私の歩調に合わせてくれている。ちょっとした気遣いが嬉しい。

「お部屋まで送って下さり、ありがとうございます。それでは、また後程」

「…ああ…また夕食の時に」

部屋まで送ってくれた陛下に手を振って見送る。すると

ゴンっと、なぜか扉で頭を強打した陛下。

「陛下、大丈夫ですか?物凄い音がしましたが…」

「ああ…大したことはない。それでは失礼する」

陛下が頭を押さえつつ、すごい勢いで去って行った。本当に大丈夫かしら?

何はともあれ、陛下にきちんとお礼が言えてよかったわ。それに、しばらくはここに置いてもらえそうだし。ホッと胸をなでおろすのであった。
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