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第16話:気持ちが次第に大きくなっていく~カイ視点~

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翌日も、アナスタシア嬢と楽しい朝食の時間を過ごした。本当に彼女は良く笑う。その笑顔を見ると、どうしても鼓動が早くなってしまうのだ。

動揺する心を必死に落ち着かせ、食後はいつもの様に稽古に励む。今は平和だが、いつ何時戦争が勃発するか分からない。その為、いつでも戦いに出られる様、日々危機感を持って稽古に励んでいるのだ。

そんな中、なんとクロハがアナスタシア嬢を連れて来たのだ。こんなむさ苦しい場所に、アナスタシア嬢を連れてくるだなんて。それも、ここにはたくさんのむさ苦しい男がいるのだぞ!

そんな思いから、急いで部屋に送ったのだが…
私が差し出した手をスッと握ってくれたアナスタシア嬢。柔らくて温かい感触が手から伝わり、一気に鼓動が早くなる。

冷静を装うのに必死で、正直何を話したのか覚えていない。無事アナスタシア嬢を送り届けた後、すぐに稽古場に戻ると…

「陛下、あの美しい令嬢は一体誰なのですか?陛下の顔を見ても怯えていませんでしたね。それどころか、自ら手を握っておられました」

「陛下、良かったですね。でも、あんな令嬢、この国いましたか?」

一気に騎士たちに囲まれた。騎士と言っても、ほとんどが貴族の令息たち。さて、なんと説明しようか?

「あの水色の髪色は、確か少し前に海岸に倒れていた女性ではないでしょうか?」

「そういえばそんな令嬢がいたと聞いた事がある。スパイではないのですよね?」

「ああ…スパイではない様だ。それにどうやら高貴な身分の様だし。ただ、理由があって国には帰れないらしい」

「令嬢が国に帰れないとなると、家が没落したか犯罪者かのどちらかでしょう。陛下、とにかくあの女性の身元が分からない限り、結婚は厳しそうですね」

「け…結婚だなんて…彼女だって選ぶ権利があるのだから」

どいつもこいつも、結婚結婚とうるさい奴らだ。

「とにかく、至急令嬢の調査を開始しましょう」

「それなら、もう調査を始めているよ。水色の髪色は珍しいからね。近いうちに見つかるだろう」

「さすが陛下、もう調査を進めていらっしゃるのですね。まあ、家が没落して本人に非がないのでしたら、陛下との結婚は問題ないですが、もし本人に非があるのだとしたら、結婚は厳しそうですね。でも、せっかく陛下を見ても怖がらない猛者が現れたのに、このチャンスを逃すわけにはいきませんね。どこかの貴族の養子に入れてから、婚儀を結べば問題ないかと」

「それがいいですな。あの令嬢を逃したら、きっと陛下は一生結婚できないでしょう。陛下、分かっていますね。あの令嬢の心を絶対に掴むのですよ!」

そう皆に言われてしまった。どいつもこいつもアナスタシア嬢の気持ちを無視して!

稽古が終わると、急いで湯あみをして昼食をとるため、食堂へと向かう。すると、既に彼女が来ていた。

「陛下、稽古お疲れ様でした。急に押しかけて、申し訳ございませんでした。それにしても、やはり国を守る騎士様はとても勇ましく、素敵ですわね。もちろん陛下も」

そう言ってほほ笑んでくれたのだ。この子は、本当に私を喜ばせる天才だな。そんな事を言われて、喜ばない男などいないだろう。

その後も嬉しそうに話をするアナスタシア嬢。食後はアナスタシア嬢を部屋まで送った。翌日も、その翌日も、一緒に食事をする。気が付くと、アナスタシア嬢と一緒に食事をするのが、当たり前になっていた。

それに彼女は話し上手で、一緒にいても話題が尽きる事がない。

さらに私の為に、刺しゅう入りのハンカチを10枚もくれた。私の前で、溢れんばかりの笑顔を向けてくれるアナスタシア嬢。彼女の笑顔を見るだけで、なぜか心が満たされるのだ。

日に日に私の中で、彼女の存在が大きくなっていくとともに、彼女と未来を歩めたら…そんな淡い期待を抱くようにもなった。

でも…私は弟と母親を殺した冷酷な男だ。そんな私に、アナスタシア嬢の様な令嬢は勿体なすぎる。だから、彼女が幸せになれる様、全力でサポートしよう。それが私に出来る唯一の事だから。

彼女が幸せなら、私も幸せだ。たとえずっと一緒にいられなくても。

そして私は、ある決断をする。そう、王族のみに代々伝わる、隠し部屋の存在を彼女に明かすことにしたのだ。

今は平和でも、万が一この国が再び戦わなければいけなくなった時、アナスタシア嬢の命を守るために。正直彼女の身分がまだ確定していない今、隠し通路を教える事はリスクも伴う。でも…それでもやはり、彼女にはこの通路の存在を知っておいて欲しいと思ったのだ。

もしもの時の為に、彼女を守れる様に…


※次回、アナスタシア視点に戻ります。
よろしくお願いいたします。
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