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第28話:アナスタシアがいなくなった~カイ視点~
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その日の夜は、ささやかだが晩餐を開いた。穏やかな表情でほほ笑むアナスタシア。その笑顔を見たら、無性に胸が苦しくなった。
やっぱりアナスタシアは、ルイス殿下と国に帰るのが楽しみなのだろう。アナスタシアが幸せになってくれるのなら、それでいい。そう何度も自分に言い聞かせた。
そして晩餐も終わり、自室へと戻ってきた。その時だった。
「陛下、こんな時に申し訳ございません。明日までに書類を確認して頂きたいものがございまして。執務室に準備してありますので、どうかよろしくお願いします」
「今からか…そういう書類は、もっと早く出してくれ」
「申し訳ございません。とにかくお願いします」
そう言うと、家臣が部屋から出て行った。書類の確認か…部屋にいてもきっとアナスタシアの事を考えてしまうだろうし、ちょうどいいかもしれない。
そう思い、執務室に向かった。そして、夜遅くまで仕事をこなした。自室に戻りそのままベッドに入ったものの、眠れるわけがない。目を閉じると、笑顔で私を真っすぐ見つめるアナスタシアの姿が浮かぶのだ。
彼女の幸せを願って国に帰るよう勧めたものの、やはり現実を受け止める事は出来ない。気が付くと再び涙が溢れていた。私はいつからこんな弱い人間になったんだ。父上が亡くなった時も、弟や母上を殺めた時も、ここまで心を取り乱すこともなかった。
とにかく、明日はアナスタシアを笑顔で見送ろう、そう自分に言い聞かせた。
だが翌日
「陛下、大変です。アナスタシア様の姿がどこにもありません」
「何だと?アナスタシアが?」
急いでアナスタシアの部屋へと向かう。するとそこには、一通の手紙が置かれていた。その手紙には、私に対する感謝の気持ちと、やはり自分は国には帰りたくないため、バーイン王国を出る事にしたと書かれていた。
「アナスタシア…どうしてだ?君はルイス殿下を愛しているのではないのかい?」
そうぽつりと呟いた。
「陛下、どうしてアナスタシア様はルイス殿下を愛していらっしゃると思われたのですか?本人から聞かれたのですか?」
私のつぶやきを聞いて、冷静に私に話し掛けてくるのはクロハだ。どうしてクロハは、アナスタシアがいなくなったというのに、こんなに冷静なのだろう…
「…いいや、聞いていない。でも、ルイス殿下はとても美しい。それに、アナスタシアを裏切った令嬢はもういないし、生まれ育った国で王太子殿下の正妻になれるのだよ…嬉しくないはずがないだろう?」
「それではどうしてアナスタシア様は、逃げ出したのでしょうかね。陛下、アナスタシア様は、見た目だけで人を判断する様な方ではないと私は思います。それに、ご両親との確執もある様ですし…きっと色々と思う事があったのでしょう」
はぁ~っとため息を付くクロハ。確かに両親との仲はあまり良くなかったみたいだけれど…全て解決したのに、まさか逃げ出すほど嫌だったなんて…
「クロハ、皆の者に伝えてくれ。アナスタシアを至急捜索する様にと。この王宮は警備がかなり厳重だ。きっとまだ王宮のどこかにいるはずだ。ただ…もしこの国を出るとしたら、海からだ。アナスタシアはいかだを持っていないが、万が一海から国を出た事を想定し、海の捜索もおこなってくれ」
「お言葉ですが陛下、今更アナスタシア様を見つけ出してどうなさるおつもりですか?まさか嫌がるアナスタシア様を、無理やりカルビア王国に帰すおつもりではありませんよね」
「そんなバカな事はしない。まずは彼女がどうしたいか、アナスタシアの話を聞こうと思っている。それから、謝罪もしたい…アナスタシアの話も聞かずに一方的に国に帰った方が幸せになれると思い込み、無理やり帰そうとした事を…」
「承知いたしました。至急家臣たちに伝えて参ります」
そう言って部屋から出て行ったクロハ。しばらくすると、騒ぎを聞きつけたカルビア王国のルイス殿下もやって来た。
「カイ国王陛下、これは一体どういう事ですか?アナスタシアが逃げ出したとは…」
「ルイス殿下、申し訳ない。どうやらアナスタシアは、カルビア王国に帰る事を拒んでいる様で…国を出て行こうとしているみたいなのです」
「なぜですか?アナスタシアを苦しめていたマルモットは、もうこの世にいない。それなのに、どうして…」
「それは本人に聞いてみないと何とも言えません。とにかく今、アナスタシアを懸命に探しておりますので…」
「分かりました…アナスタシアが見つかるまで、しばらく滞在させていただきます」
そう呟くと、ルイス殿下は去って行った。私もこんなところでじっとしていても仕方がない。アナスタシアを探さないと!
やっぱりアナスタシアは、ルイス殿下と国に帰るのが楽しみなのだろう。アナスタシアが幸せになってくれるのなら、それでいい。そう何度も自分に言い聞かせた。
そして晩餐も終わり、自室へと戻ってきた。その時だった。
「陛下、こんな時に申し訳ございません。明日までに書類を確認して頂きたいものがございまして。執務室に準備してありますので、どうかよろしくお願いします」
「今からか…そういう書類は、もっと早く出してくれ」
「申し訳ございません。とにかくお願いします」
そう言うと、家臣が部屋から出て行った。書類の確認か…部屋にいてもきっとアナスタシアの事を考えてしまうだろうし、ちょうどいいかもしれない。
そう思い、執務室に向かった。そして、夜遅くまで仕事をこなした。自室に戻りそのままベッドに入ったものの、眠れるわけがない。目を閉じると、笑顔で私を真っすぐ見つめるアナスタシアの姿が浮かぶのだ。
彼女の幸せを願って国に帰るよう勧めたものの、やはり現実を受け止める事は出来ない。気が付くと再び涙が溢れていた。私はいつからこんな弱い人間になったんだ。父上が亡くなった時も、弟や母上を殺めた時も、ここまで心を取り乱すこともなかった。
とにかく、明日はアナスタシアを笑顔で見送ろう、そう自分に言い聞かせた。
だが翌日
「陛下、大変です。アナスタシア様の姿がどこにもありません」
「何だと?アナスタシアが?」
急いでアナスタシアの部屋へと向かう。するとそこには、一通の手紙が置かれていた。その手紙には、私に対する感謝の気持ちと、やはり自分は国には帰りたくないため、バーイン王国を出る事にしたと書かれていた。
「アナスタシア…どうしてだ?君はルイス殿下を愛しているのではないのかい?」
そうぽつりと呟いた。
「陛下、どうしてアナスタシア様はルイス殿下を愛していらっしゃると思われたのですか?本人から聞かれたのですか?」
私のつぶやきを聞いて、冷静に私に話し掛けてくるのはクロハだ。どうしてクロハは、アナスタシアがいなくなったというのに、こんなに冷静なのだろう…
「…いいや、聞いていない。でも、ルイス殿下はとても美しい。それに、アナスタシアを裏切った令嬢はもういないし、生まれ育った国で王太子殿下の正妻になれるのだよ…嬉しくないはずがないだろう?」
「それではどうしてアナスタシア様は、逃げ出したのでしょうかね。陛下、アナスタシア様は、見た目だけで人を判断する様な方ではないと私は思います。それに、ご両親との確執もある様ですし…きっと色々と思う事があったのでしょう」
はぁ~っとため息を付くクロハ。確かに両親との仲はあまり良くなかったみたいだけれど…全て解決したのに、まさか逃げ出すほど嫌だったなんて…
「クロハ、皆の者に伝えてくれ。アナスタシアを至急捜索する様にと。この王宮は警備がかなり厳重だ。きっとまだ王宮のどこかにいるはずだ。ただ…もしこの国を出るとしたら、海からだ。アナスタシアはいかだを持っていないが、万が一海から国を出た事を想定し、海の捜索もおこなってくれ」
「お言葉ですが陛下、今更アナスタシア様を見つけ出してどうなさるおつもりですか?まさか嫌がるアナスタシア様を、無理やりカルビア王国に帰すおつもりではありませんよね」
「そんなバカな事はしない。まずは彼女がどうしたいか、アナスタシアの話を聞こうと思っている。それから、謝罪もしたい…アナスタシアの話も聞かずに一方的に国に帰った方が幸せになれると思い込み、無理やり帰そうとした事を…」
「承知いたしました。至急家臣たちに伝えて参ります」
そう言って部屋から出て行ったクロハ。しばらくすると、騒ぎを聞きつけたカルビア王国のルイス殿下もやって来た。
「カイ国王陛下、これは一体どういう事ですか?アナスタシアが逃げ出したとは…」
「ルイス殿下、申し訳ない。どうやらアナスタシアは、カルビア王国に帰る事を拒んでいる様で…国を出て行こうとしているみたいなのです」
「なぜですか?アナスタシアを苦しめていたマルモットは、もうこの世にいない。それなのに、どうして…」
「それは本人に聞いてみないと何とも言えません。とにかく今、アナスタシアを懸命に探しておりますので…」
「分かりました…アナスタシアが見つかるまで、しばらく滞在させていただきます」
そう呟くと、ルイス殿下は去って行った。私もこんなところでじっとしていても仕方がない。アナスタシアを探さないと!
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