これ以上私の心をかき乱さないで下さい

第47話：胸が痛いです

　翌日、モヤモヤした気持ちのまま、学院へと向かった。

　すると

「おはよう、ユーリ。昨日は急に帰ったから、心配したよ」

「ユーリ、おはよう。顔色があまり良くないようだけれど、大丈夫かい？」

　馬車から降りると、私を待ち受けていたのはディアンとアレックス様だ。

「おはようございます、アレックス様、ディアン。昨日はちょっと急いでいて。せっかく心配して様子を見に来てくれたのに、対応できずにごめんなさい。私は元気だから、心配しないで」

　極力２人に笑顔を向けた。

「でも…」

「おはよう、ユーリ。ディアン様、アレックス様も、おはようございます。ユーリ、早く教室に行きましょう」

　私達の前に現れたのは、レーナだ。私の腕を掴むと、スタスタと歩き出した。

「ユーリ、何かあった？何だか今、気まずそうな顔をしていたから、気になって。もしかして、ディアン様から気持ちを…いいえ、何でもないわ」

　どうやらレーナは、私の異変を察知して、連れ出してくれた様だ。レーナったら、本当によく見てくれているのね。

「ありがとう、レーナ。特に何かあった訳ではないの。ただ、昨日寝不足で、頭がボーっとしちゃって」

　さすがにディアンとセレナ様の事で、モヤモヤしているだなんて話辛い。

「そうだったの、私の取り越し苦労だったのね。ユーリ、何かあったらいつでも相談してよ」

「ええ、もちろんよ。ありがとう、レーナ」

　私のちょっとした変化でも、すぐに気が付いてくれるレーナ。そんなレーナの優しさが、身に染みる。

　気を取り直して、２人で教室に向かった。しばらくすると、アレックス様とディアンも教室に入って来た。

　すると…

「ディアン様、おはようございます。今から少しお時間を頂けますか？」

　あろう事か、セレナ様がディアンに笑顔で話しかけたのだ。

「ちょうど僕も、話したいと思っていたのだよ。それじゃあ、行こうか」

　そう言うと、2人で教室から出て行ってしまったのだ。

「ちょっと、一体どうなっているの？どうしてディアン様がセレナ様と一緒に？」

「ユーリ、大丈夫？」

　友人たちが、一斉にこちらにやって来たのだ。

「皆、落ち着いて。私は大丈夫よ。セレナ様、本当にお美しいものね。きっとディアンも、セレナ様の美しさに惹かれてしまったのね。私はディアンとセレナ様の恋の行方を、応援するわ」

　私、上手に笑えているかな？ディアンをセレナ様に取られたくはない。でも、それは私の我が儘だ。ずっと領地で生活していたディアンが見つけた、大切な人。だから私も、応援してあげないといけないのだ。

　分かっている…分かっているが、まだ心が付いていかないのだ。

　それでも必死に笑顔を作った。友人達にはただでさえ、アレックス様の件で心配をかけたのだ。これ以上、いらぬ心配をかけたくはない。

　本当は２人がどこで何をしているのか気が気ではないが、全く気にしていない風を装った。

　しばらくすると、教室に戻ってきた２人。ディアンもセレナ様も、嬉しそうだ。その顔を見た瞬間、胸がチクリと痛んだ。

　ダメよ、こんな事で悲しんでいては。とにかくディアンの幸せの為にも、私は平然を装わないと。それに友人達にも、迷惑をかけたくはない。

　それでもやはり、私はディアンとセレナ様の事が気になって仕方がない。この日はお昼休みも、ディアンはセレナ様と一緒に、どこかに行ってしまった。

　翌日も、その翌日も、時間を見つけては、ディアンとセレナ様が２人で過ごすようになった。分かっている、２人はきっともう、恋人同士なのだろう。私が入り込める隙など無い事くらい…

　そんな日々が、１週間ほど過ぎたある日。

　楽しそうに中庭で話をしているディアンとセレナ様を目撃した。嬉しそうにセレナ様がディアンに何かを渡している。きっとディアンに、プレゼントを渡しているのだろう。

　それをディアンは嬉しそうに受け取っている。完全に恋人同士だ。ディアンのあの顔、私しか知らないと思っていたのに…

　分かっている、ディアンはもう、王都で新しい世界を手入れ、歩み出しているという事を。でも、まだそうしても受け入れられないのだ。

　気が付くと、涙が溢れていた。

「ユーリは、ディアンの事が好きなのだね…」

　えっ？

　この声は…