これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi

文字の大きさ
48 / 75

第48話:私の気持ち

しおりを挟む
 ゆっくりと振り向くと、そこにはアレックス様が立っていた。

「あの…私は別に…」

「隠さなくてもいいよ。僕はこれでもユーリを一番近くて見て来たから、ユーリの気持ちくらい僕にはわかるよ。結局ディアンも、彼女の美しさに心を奪われてしまったのだね」

 はぁっとため息をつく、アレックス様。

「でも…僕が言えた事ではないね。僕はユーリの気持ちに気が付いていながら、彼女に夢中になった。その結果、一番大切なユーリを傷つけ、そして失った。ユーリ、君がディアンの事が好きなのは知っている。でも、もうディアンはセレナ嬢に心を奪われている。これ以上ディアンを思い続けても、君も辛いだけではないのかな?」

「私は…」

 私は別に、ディアンの事を好きだなんて思っていない。そう思っていた。でも、私は…

 再びディアンとセレナ様を見つめる。

 そうか、私はディアンの事が好きなのね…だからこんなに、胸が苦しいのだわ。まさかアレックス様の言葉で、その事に気が付くだなんて…

「ユーリ?大丈夫かい?散々君を傷つけた僕がこんな事を言うのは、図々しいかもしれないけれど、今度は僕がユーリの傷ついた心を癒させてくれないかな?僕がずっとずっと君の傍にいる。だからどうか、僕の傍にいて欲しい」

 真っすぐ私を見つめるアレックス様。その瞳は、どこか不安げだ。

「アレックス様、ありがとうございます。確かに私は、きっと…ディアンが好きなのですわ。ディアンの事を思うと、私はこのまま黙って身を引くべきなのでしょう。でも私は、このまま黙って身を引き、何食わぬ顔でディアンを今後も幼馴染として接する事が出来るほど、強くはありません。それに、きっとずっとディアンの事を引きずってしまうでしょう。昔の私の様に…」

 アレックス様が大好きだった時の私も、ずっとずっとアレックス様を諦める事が出来なかった。だからこそ、ディアンにも気持ちを伝え、すっきりさせたいのだ。

「ディアンに気持ちを伝えるという事は、今までの関係が変わってしまうかもしれないよ。それでもいいのかい?」

「ディアンの為には、気持ちを封印して今まで通り接するのがいいのでしょうが、生憎私はそんなに器用ではありません。気持ちを伝え、きっぱり断られたらきっと、前に進めると思うのです。それが私なので。それにディアンとの友情は、そう簡単に壊れたりしませんわ。もし壊れてしまったら、それだけの関係だったのです」

 きっとディアンなら、今後も私の事を幼馴染として受け入れてくれるだろう。もし受け入れてくれなかったら、それはそれで仕方がない事。そう考えている。

「ユーリは強いね…分かったよ。ユーリ、僕には頼りたくはないかもしれないが、もし辛くて泣きたくなったら、その時は僕が君の傍にいたいと思っている。もちろん、君の幼馴染兼友人としてで構わないから」

「ありがとうございます、アレックス様」

 きっと私がアレックス様を頼る事はないだろう。アレックス様は確かに変わった。昔の優しかったアレックス様に戻ったのは確かだ。でも…私はもう、前に向かって進みだしている。だからこそ、アレックス様と今後どうこうなりたいとはどうしても思えないのだ。

 それでもアレックス様の気持ちは嬉しい。

「それでは私は、これで失礼いたします」

 アレックス様に頭を下げ、その場を後にした。

 屋敷に帰って来ると、大切にしまってあったサンクトスの羽を取り出した。キラキラと輝いているサンクトスの羽。本当に美しい。

 この羽を持っていると、好きな人とずっと一緒にいられると言われているが、私には効果がなかったわね。

 いいえ…

 もしかしたら今後、もっと素敵な人が現れるかもしれない。未来の幸せの為にも、前に進まないと。

 明日にでもディアンに時間を作ってもらって、自分の気持ちを伝えよう。

 なぜだろう、ディアンの事が好きだと気が付いた今、なんだか今までのモヤモヤが嘘の様に、心が軽い。この気持ちに気づかせてくれたアレックス様には、感謝しないといけないわね。

 ディアンが貴族学院にやって来てから、アレックス様とも随分と普通に話しが出来る様になった。昔の関係に戻れたような気がして、嬉しかった。

 でも、これからはきっと、もうあの時の関係ではいられないだろう。それがなんだか寂しい。

 それでも私は、前に進みたい。そう思っている。

 さて、気持ちも固まったし、今日は穏やかに過ごそう。久しぶりに、小説でも読もうかしら。

 本棚から本を取り出そうとした時だった。

「お嬢様、カスタマーディス伯爵令息様がいらしております」

「えっ?ディアンが?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

人の顔色ばかり気にしていた私はもういません

風見ゆうみ
恋愛
伯爵家の次女であるリネ・ティファスには眉目秀麗な婚約者がいる。 私の婚約者である侯爵令息のデイリ・シンス様は、未亡人になって実家に帰ってきた私の姉をいつだって優先する。 彼の姉でなく、私の姉なのにだ。 両親も姉を溺愛して、姉を優先させる。 そんなある日、デイリ様は彼の友人が主催する個人的なパーティーで私に婚約破棄を申し出てきた。 寄り添うデイリ様とお姉様。 幸せそうな二人を見た私は、涙をこらえて笑顔で婚約破棄を受け入れた。 その日から、学園では馬鹿にされ悪口を言われるようになる。 そんな私を助けてくれたのは、ティファス家やシンス家の商売上の得意先でもあるニーソン公爵家の嫡男、エディ様だった。 ※マイナス思考のヒロインが周りの優しさに触れて少しずつ強くなっていくお話です。 ※相変わらず設定ゆるゆるのご都合主義です。 ※誤字脱字、気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません!

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

【完結】好きでもない私とは婚約解消してください

里音
恋愛
騎士団にいる彼はとても一途で誠実な人物だ。初恋で恋人だった幼なじみが家のために他家へ嫁いで行ってもまだ彼女を思い新たな恋人を作ることをしないと有名だ。私も憧れていた1人だった。 そんな彼との婚約が成立した。それは彼の行動で私が傷を負ったからだ。傷は残らないのに責任感からの婚約ではあるが、彼はプロポーズをしてくれた。その瞬間憧れが好きになっていた。 婚約して6ヶ月、接点のほとんどない2人だが少しずつ距離も縮まり幸せな日々を送っていた。と思っていたのに、彼の元恋人が離婚をして帰ってくる話を聞いて彼が私との婚約を「最悪だ」と後悔しているのを聞いてしまった。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

記憶喪失になった婚約者から婚約破棄を提案された

夢呼
恋愛
記憶喪失になったキャロラインは、婚約者の為を思い、婚約破棄を申し出る。 それは婚約者のアーノルドに嫌われてる上に、彼には他に好きな人がいると知ったから。 ただでさえ記憶を失ってしまったというのに、お荷物にはなりたくない。彼女のそんな健気な思いを知ったアーノルドの反応は。 設定ゆるゆる全3話のショートです。

処理中です...