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第19話:どうして僕にそこまでしてくれるのだろう~アデル視点~

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その日のお昼、約束通り4人で昼食をとった。ローズ嬢はティーナのお弁当に興味が湧いた様で、2人でシェアしながら食べている。ティーナもお弁当を交換できたことが嬉しかったようで、とても喜んでいた。

食後は兄上が生徒会の活動があるとの事で、ティーナを連れてさっさと戻ってしまった。それを見たローズ嬢も教室に戻ろうとしている。

でも僕は、もっとローズ嬢と話がしたい、そんな思いから、彼女に話しかけた。そして、改めてティーナの友達になってくれた事のお礼を伝えた。それとなくティーナへの気持ちも彼女に話した。

なぜだろう…
昨日会ったばかりの彼女に、ティーナの事を話すなんて…万が一ティーナや兄上に僕の気持ちがバレてしまったら、大変な事になるのに。頭ではわかっていた。でも、なぜか口が勝手に動いてしまったのだ。

すると

「アデル様は、ティーナ様を心から愛していらっしゃるのですね…」

ポツリと呟いたローズ嬢。やっぱり彼女は、僕の気持ちに気が付いていたのか…
それがやはり嬉しい。でも、もしこの事を兄上やティーナに話されたら…そんな不安も。

そんな僕に対し、ローズ嬢は優しく語り掛けてくれた。気が付くと、今まで溜め込んでいた気持ちを、一気にローズ嬢にぶつけていた。こんな風に誰かに自分の気持ちを話したのは、初めてだ。

そんな僕の話を真剣に聞いてくれたローズ嬢。さらにティーナを喜ばせるため、偽の恋人役を買って出てくれた。確かに僕とローズ嬢が付き合えば、ティーナは喜ぶだろう。それに、ローズ嬢を通じて、ずっとティーナと一緒にいられる。

でも、それではローズ嬢に何のメリットもない。そう思ったのだが…

ローズ嬢は5年前、僕に助けられた、だから恩返しがしたいと言い出したのだ。そういえば5年前、言いがかりをつけられている少女を助けた事があった。そうか、あの少女はローズ嬢だったのか。

でも、あんな昔の話を、まだ覚えていてくれていたなんて。それもあの時の恩返しがしたいだなんて…本当に律儀な子だ。

でも、せっかく彼女が提案してくれているんだ。ここは素直に受け入れよう。そう思い、彼女の提案を承諾した。ただし、僕を好きにならない事と、嫌ならいつでも止めてもらっていい事を条件にだ。

その日の午後、ティーナに僕たちが付き合った事(契約だが)を報告すると、それはそれは喜んでくれた。あぁ、やっぱり僕はティーナのこの笑顔が好きだ。ローズ嬢も、嬉しそうに笑っている。

どうやらローズ嬢も、ティーナの笑顔を見るのが好きな様だ。その後、4人で話をした後、家路に着くため馬車に乗り込んだ。するとティーナが、僕に話しかけてきたのだ。

「アデル、あなたはこの国でも人気の高い令息よ。きっとあなたとローズ様が付き合っているという事が令嬢に知られれば、ローズ様を傷つける者が現れると思うの。だからお願い、ローズ様を守ってあげて」

真剣な表情で僕に訴えかけるティーナ。そういえばティーナも兄上と婚約したことで、令嬢から暴言を受けた事があると兄上が言っていた。

「わかったよ、ティーナ。僕が必ずローズ嬢を守るから、安心して」

「ありがとう、アデル」

ティーナが心底ほっとした表情を浮かべている。それにしても、ティーナがこんな事を言いだすなんて。なんだか意外だな…


そして翌日、ティーナが言った通り、ローズ嬢に対する令嬢たちの嫌がらせが始まった。早速お昼休みにローズ嬢を呼び出し、暴言を吐く令嬢たち。聞いているだけで虫唾が走る様な酷い暴言の数々。

証拠の為録音しているが、本当に胸糞悪い。それでも当のローズ嬢は、ただひたすら俯き、聞き流している様だ。

あの瞳…

彼女の瞳を見た瞬間、5年前の記憶が蘇ってきた。燃える様な真っ赤な髪の令嬢が、周りの皆から責め立てられていた。少女の瞳には、うっすら涙が浮かんでいた。それでも必死に耐える少女。その少女の悲しそうな瞳がやけに気になったのだ。

あの時と同じような瞳をしている。きっと彼女は今、ものすごく傷ついているのだろう。それでもただひたすら耐えている。その健気さが、どうしようもなく胸に突き刺さった。

もう我慢できない!

すぐに令嬢たちの元に向かい、令嬢たちを追い払った。僕のせいでこんな嫌な思いをさせてしまったのだ。もしかしたら、付き合う事を止めると言われるかもしれない。そう思ったのだが…

なぜか僕にお礼を言ったローズ嬢。さらにこの事を知ったらきっとティーナが悲しむだろうから、ティーナには言わないで欲しいと言うのだ。

この子はどこまで優しい子なんだ…
とにかく、これ以上ローズ嬢に辛い思いをさせる訳にはいかない。そんな思いから、彼女を傷つけようとするものを徹底的に排除した。

中にはローズ嬢の私物を傷つけようとした者もいた。もちろん未然に防ぎ、証拠を学院側に提出し、退学処分にしてもらった。

さらに彼女の悪口を言っている令嬢たちの音声を録音し、片っ端から学院に提示した。さすがに退学には出来なかったが、それでも厳重注意を受けた彼女たち。また、僕がローズ嬢にかなり惚れているという噂も流した。

こうした僕の努力のお陰で、1ヶ月もしないうちに、ローズ嬢に嫌がらせをする令嬢はいなくなったのだった。
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