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第82話:皆の優しさに感謝です

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「2人とも、落ち着いてちょうだい。あなた達が興奮してどうするの?それで、アデル様といいましたね?本当にローズを連れ戻しに来たのですか?」

2人の喧嘩を止めたのは、おばあ様だ。真剣な表情で、アデル様を見つめている。

「はい、連れ戻しに来ました。ローズは元々、おばあ様が怪我をして心配で様子を見にこの国に来ただけです。本当はすぐに帰国する予定だったのです。でも、帰国するタイミングを失ってしまい…この国で、寂しい思いをしておりました。どうかお願いです、ローズを返していただけないでしょうか?」

スッと立ち上がり、頭を下げるアデル様。

「おばあ様、ずっと黙っていてごめんなさい。アデル様の言う通り、私、本当はおばあ様の様子を見たら帰るつもりでしたの。もちろん、状況次第ではしばらくはこの国に留まるつもりで来ましたわ。でも…いつの間にか私がこの国にずっといるという話になってしまって…」

「ローズの気持ちも、アデル様の気持ちもわかったわ。でもローズ、国に帰ればあなたはまた1人であの広い屋敷で生活をしないといけないのよ。そんなの、寂しいでしょう?」

「その点は安心してください。帰国後は、ローズは我が家の離れで生活する予定で、手配しております。もちろん、ローズの母君にも許可を取っております。家の両親も、ローズがやって来るのを心待ちにしております。絶対に寂しい思いはさせません!」

アデル様が急にそんな事を言いだしたのだ。そんな話は聞いていない。そもそも、アデル様のお家でお世話になる何て、なんだか申し訳ないわ。

「アデル様、そのような事は…」

「ローズ、帰国したら、正式に婚約を申し込もうと思っているんだ。僕は…ずっと自分の気持ちを我慢して生きて来た。でも、もう我慢するつもりはないし、君を逃がすつもりはない。僕と婚約してくれるかい?」

真っすぐ私を見つめたアデル様、その瞳は、最初に学院で会った時とは比べ物にならない程、優しく温かな瞳だった。その瞳を見た瞬間、涙がこみ上げてきた。

「もちろんですわ、私は6年もあなた様に片思いをして来たのですもの。でも、本当に私でよろしいのですか?」

「君じゃなきゃダメなんだ。どうか、ずっと僕の傍にいて欲しい」

「もちろんですわ!これからはずっと一緒です」

溢れる涙を抑える事が出来ず、そのままアデル様に抱き着いた。まさか婚約という話になるだなんて。でも、嬉しいわ。これからはずっと、アデル様の傍にいられる。そう、ずっと!

「おい、ローズはまだ14歳だぞ。婚約だなんて…」

「ローランドは黙っていてくれるかい?アデル様、あなた様が6年前、ローズを助けてくれたグリースティン家の次男様ですね。あの節は、本当にありがとうございました。私がローランドに付いて来たばかりに、ローズには本当に辛い思いをさせてしまいましたわ。そんな中、ローズの心を救ってくださり、本当に感謝しております」

杖を突きながら立ち上がり、深々と頭を下げるおばあ様。

「そしてローズ、あなたには私の我が儘のせいで、辛い思いをさせてしまってすまなかったね。私がきっとローランドに“ローズも一緒に暮らせたら”と言っていたことを、実行しようとしてくれたんだね。全て私の我が儘のせいで、大切な孫を悲しませてしまった。本当にごめんなさい」

今度は私に頭を下げるおばあ様。その姿に、胸が締め付けられる。

「おばあ様、頭をあげて下さい。私の方こそ、ずっと傍にいられなくて、ごめんなさい」

「謝らないでちょうだい、ローズ。あなたは1ヶ月も、私の傍にいてくれたじゃない。それに、私にはローランドとアリサちゃんがいるから大丈夫よ。実はね、昨日アリサちゃんから、ローズの事を聞いたの。“ローズちゃんの幸せを、一緒に願ってあげましょう”てね。本当に、ローランドはいい子をお嫁さんにもらうよ」

「まあ、アリサお義姉様が。お義姉様、本当になりから何まで、ありがとうございます」

お義姉様に頭を下げた。

「ローズちゃん、頭をあげて。もう、おばあ様ったら、内緒にしておいてと言ったのに。アデル様、ローズちゃんはずっとあなたに会えずに、寂しい思いをしてきました。どうか、これからはずっと傍にいてあげて下さい。もしローズちゃんを泣かせたら、その時はグラシュ国に連れて帰りますからね」

「絶対にローズを泣かせませんし、傍から離れるつもりはありません。どうか安心してください。それにしても、ローズはこの国でも、見方を作っていたのだね。ローズは本当に、人を引き付ける天才だな。でも、男は引き付けないでくれよ。ただでさえ、マイケルの事で僕は気がきではなかったのだから」

ちょっとアデル様、どうしてそこで、マイケル様の名前を出すのよ。

「まあ、もしかしてマイケル様という方は、まだローズちゃんの事を諦めていないのかしら?ねえ、アデル様、ローズちゃんのどこが好きなのか、詳しく教えて下さる?そして、どうやってローズちゃんをゲットしたのかも」

急にはしゃぎ出したアリサお義姉様。ちょっと、そんな事、アデル様に聞かないでよ!

「アリサお義姉様、アデル様が困っておりますわ。どうかそんなお恥ずかしい話は…」

「僕は構わないよ。ローズはね、令嬢だけでなく令息にも優しくてね。次から次へと、皆を虜にしていくんだ。そのせいで、僕がどれほど苦労したか…ローズは本当に心優しくて、しっかりしていると思えば少し抜けていて。まあ、そこも可愛いんだけれどね。それから…」

「アデル様、どうかもうお止めください!恥ずかしいですわ」

「どうしてだい?僕はローズの魅力なら、何時間でも話せるのに?」

コテンと首を傾げているアデル様。この人、こんな感じだったかしら?

「ローズちゃんが、とてもアデル様に愛されている事はよくわかりましたわ。ローズちゃん、よかったですわね」

そう言ってアリサお義姉様が笑っている。もう、恥ずかしいったらありゃしない。顔を赤くする私に、何を思ったのかほっぺに口づけをしたアデル様。

ちょっと、何て事をするのよ!口をパクパクさせる私に、今度は唇に口づけをしようとしたところで…

「ストップ!さすがに俺が見ている前で、ローズに口づけをするのは止めてくれ!立ち直れなくなる」

なぜかお兄様からストップがかかったのだ。どうやら妹が恋人とイチャイチャするのは許せないらしい。

その後、5人でゆっくりと話をした。すっかりアデル様を気に入ったおばあ様とお義姉様。アデル様も笑顔を見せている。

私の為に色々と動いてくれたお義姉様、私の幸せを願ってくれたおばあ様、なんだかんだ言いつつ、私たちを認めてくれたお兄様。そして、私の為にわざわざグラシュ国まで迎えに来てくれたアデル様。

皆の優しさに、本当に感謝してもしきれない気持ちで一杯になったのだった。
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