全てを失ったと思ったのですが…騎士団の隊長に拾われ溺愛されました

Karamimi

文字の大きさ
14 / 103

第14話:私の事

しおりを挟む
「リリア、その…リリアの事を…その…」

 ゼルス様が、急に何か言いたそうにしだしたのだ。一体どうしたのだろう。

「ゼルス様、一体どうされましたか?もしかして私があまりにもがつがつとタルトを食べていたので、引いてしまわれましたか?申し訳ございません、家政婦の分際で、図々しすぎましたよね」

 いくらタルトが美味しかったからと言って、さすがにがっつきすぎだ。恥ずかしい。

「いや、そうではなくて。その…君はどうしてシャールン市に来ようと思ったのかい?話したくないのならいいんだ。ただ…なんというか…その…」

 なぜ私がシャールン市に来たのかが、気になった様だ。助けてもらった恩もあるし、ゼルス様には正直に話しておいた方がいいかもしれない。

「私は元々、マルモル村という小さな村に住んでいたのです。両親を12歳の時に亡くし、叔父夫婦のお世話になっていたのですが…なんと申しますか、叔父夫婦は私の事を疎ましく思っていた様で…辛い生活の中、私を支えてくれたのが、幼馴染でした。彼は2年後必ず迎えに来ると約束して、シャールン市に行ったのですが…その後3年間音信不通になってしまって。

 そんな中、叔母から隣町のお金持ちの男性と結婚する様に命じられて。何もかもが嫌になり、幼馴染を頼って村を出てきたのですが。幼馴染は恋人と暮らしていて…それで途方に暮れていた所を、ゼルス様に拾われたのです。ですからゼルス様は、私の恩人なのです。本当にありがとうございました」


 今まで私に起こった事を、簡単に話した。

 なぜか口をあけて固まっているゼルス様。

「要するに、村では叔父夫婦から冷遇され、幼馴染を頼ってシャールン市に来たものの、その幼馴染にも裏切られていたという訳か…リリアは今まで、苦労してきたのだな…」

 ゼルス様が一気に怖い顔になった。まずい、ゼルス様を怒らせてしまった。

「確かに村では辛い生活を送ってきましたが、私を助けてくれる人たちもおりましたし。何よりもシャールン市に来てからは、自由に過ごさせていただいております。それもこれも、全てゼルス様のお陰です。ですが、いつまでもゼルス様に甘える訳にはいきません。ある程度お金が貯まったら、出ていきますのでご安心を」

「どうして出ていく必要があるのだ!ずっとここにいればいい!」

 急に机を叩き、声を荒げたゼルス様。完全にお怒りの様だ。私、何かまずい事を言ったかしら?

「あの…申し訳ございません。私が暗い話をしたのがいけなかったのですね」

「いや、俺の方こそ感情的になってしまって、すまなかった。俺はリリアが家の事をすべてやってくれて助かっている。だから、俺に迷惑をかけているとか、甘えているとかは考えないでほしい。本当に助かっているし、感謝しているのだから」

「ゼルス様はお優しいのですね。そう言って私の心の負担を、軽くしようとしてくださっているのですよね。ありがとうございます。ゼルス様にもっと快適に過ごしていただけるように、これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします」

 改めてゼルス様に頭を下げたのだ。

「美味い食事に綺麗な家、石鹸の香りがする服やシーツ、これ以上何を望むというのだ。俺はこれ以上何も望むつもりはない。故郷では辛い思いをしたかもしれないし、幼馴染に裏切られ、傷ついたかもしれない。でも、これからは新たな気持ちで、この地で生活してくれると嬉しい。今まで辛い思いをしてきた分、今まで出来なかった事をめいっぱい楽しんでほしいと俺は思っている」

「今まで出来なかった事ですか…」

「そうだ、そもそもリリアは完璧に家事をこなしすぎだ。もっともっと手を抜く家政婦はたくさんいるぞ。リリアほど完璧に家事をこなしてくれる人材なら、今の倍の給料を出してもいいくらいだ!」

「今の倍ですって!それはさすがにもらいすぎです」

「いいや、それくらいリリアには価値がある人間なんだ。どうかもっと自分に自信を持ってほしい。それから、この街でやりたい事を見つけてくれ。出来れば、家で出来る事がいいな」

 家で出来る事か…

「そうですね、せっかくシャールン市に来たのですから、私がやってみたい事をやってみます。ゼルス様、お気遣いいただきありがとうございます」

「俺は別に何もしていないよ。さあ、残りのケーキを食べてくれ。まだまだたくさんあるぞ」

「はい、頂きます。実は私、両親が亡くなってから一度もケーキを食べていなくて。こうやってケーキを食べられること自体、とても幸せな事です。勇気を出して村を出て、本当によかったです」

 村を出るときは不安だったが、ゼルス様という優しいご主人様に出会えたのだ。彼がもっともっと快適に暮らせるように、私も頑張らないと。


 ※次回、ゼルス視点です。
 よろしくお願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、 ある日、父親から結婚相手を紹介される。 そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。 彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。 そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……? と思ったら、 どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。 (なるほど……そういう事だったのね) 彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。 そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている? と、思ったものの、 何故かギルバートの元、主人でもあり、 彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……

狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します

ちより
恋愛
 侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。  愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。  頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。  公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

【完結】想い人がいるはずの王太子殿下に求婚されまして ~不憫な王子と勘違い令嬢が幸せになるまで~

Rohdea
恋愛
──私は、私ではない“想い人”がいるはずの王太子殿下に求婚されました。 昔からどうにもこうにも男運の悪い侯爵令嬢のアンジェリカ。 縁談が流れた事は一度や二度では無い。 そんなアンジェリカ、実はずっとこの国の王太子殿下に片想いをしていた。 しかし、殿下の婚約の噂が流れ始めた事であっけなく失恋し、他国への留学を決意する。 しかし、留学期間を終えて帰国してみれば、当の王子様は未だに婚約者がいないという。 帰国後の再会により再び溢れそうになる恋心。 けれど、殿下にはとても大事に思っている“天使”がいるらしい。 更に追い打ちをかけるように、殿下と他国の王女との政略結婚の噂まで世間に流れ始める。 今度こそ諦めよう……そう決めたのに…… 「私の天使は君だったらしい」 想い人の“天使”がいるくせに。婚約予定の王女様がいるくせに。 王太子殿下は何故かアンジェリカに求婚して来て─── ★★★ 『美人な姉と間違って求婚されまして ~望まれない花嫁が愛されて幸せになるまで~』 に、出て来た不憫な王太子殿下の話になります! (リクエストくれた方、ありがとうございました) 未読の方は一読された方が、殿下の不憫さがより伝わるような気がしています……

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

百門一新
恋愛
男の子の恰好で走り回る元気な平民の少女、ティーゼには、見目麗しい完璧な幼馴染がいる。彼は幼少の頃、ティーゼが女の子だと知らず、怪我をしてしまった事で責任を感じている優しすぎる少し年上の幼馴染だ――と、ティーゼ自身はずっと思っていた。 幼馴染が半魔族の王を倒して、英雄として戻って来た。彼が旅に出て戻って来た目的も知らぬまま、ティーゼは心配症な幼馴染離れをしようと考えていたのだが、……ついでとばかりに引き受けた仕事の先で、彼女は、恋に悩む優しい魔王と、ちっとも優しくないその宰相に巻き込まれました。 ※「小説家になろう」「ベリーズカフェ」「ノベマ!」「カクヨム」にも掲載しています。

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

処理中です...