全てを失ったと思ったのですが…騎士団の隊長に拾われ溺愛されました

Karamimi

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第29話:街に出ます【5】

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 一体どこに向かうのだろう。よくわからないまま、2人で馬車に乗り込んだ。しばらく進むと、目の前には真っ青な海が広がっていたのだ。

「まあ、海に連れて来てくださったのですか?本当に美しいですね。この街に来る前、汽車の窓からずっと見ていたのですが、あの時も光に照らされてキラキラとかがいて本当に綺麗でしたわ。まさかこんな近くで見られるだなんて」

 汽車の中からも、海が見えて興奮したのを覚えている。

「せっかくだから、砂浜まで行ってみよう。砂浜は歩きにくいから、気を付けて」

「はい、ありがとうございます。十分気を付けますわ」

 ゆっくり馬車から降り、砂浜を歩く。

「この砂、とてもサラサラなのですね。こんな綺麗な砂、初めて見ました。あら?あそこにいるのは何かしら?」

「あれはカニだよ。海には色々な生き物がいるからね。せっかくだから、海に足を付けて見るかい?」

「いいのですか?」

「ああ、足くらいなら大丈夫だよ。ただ、あまり奥の方に行くと危険だから、気を付けてくれ」

「はい」

 早速靴を脱ぐ。砂がサラサラで気持ちいい。そのまま海の方に歩いていく。すると


「冷たい!でも、気持ちいいです。海の水はこんなに気持ちがいいのですね。それにとっても綺麗です」

「確かに、綺麗な青色をしているな。その…君の瞳の色の様に…」

「何かおっしゃいましたか?」

「いや、何でもない。リリア、あまり奥の方に行くと危険だ。それに波に足をとらない様に気を付けろよ」

「ええ、大丈夫ですわ。これくらい…きゃぁ」

「リリア!」

 つい調子に乗って、波に足をとられてしまったのだ。転びそうになったところを、間一髪のところでゼルス様に受けとめてもらった。

「ゼルス様、申し訳ございません。ちょっと調子に乗り過ぎましたわ。海があまりにも気持ちよくて」

「いや、俺の方こそ油断してしまったから。さあ、そろそろ海から出ようか。足が濡れているから、一度乾かさないとな」

 そう言うと、私を抱きかかえたのだ。

「あの、自分の足で歩けます。それに私、重いですし…」

 こんな風に男性に抱きかかえられるだなんて!一気に心臓の音がうるさくなる。

「足が濡れているから、このまま砂浜を歩くと砂が付いてしまうから。あそこに座って少し乾かそう」

 確かに濡れた足で歩くと砂が付くけれど。それにしても、ゼルス様の腕はとても立派だ。胸板も。それになんだか温かくて落ち着く。ただ、やっぱり心臓の音がうるさい。私、一体どうしてしまったのかしら?

「さあ、ここに座って。足を軽く拭かないと」

「あの、自分で…」

 拭きます!そう言う前に、ゼルス様が足を拭いてくれたのだ。どうしてゼルス様は、こんなに私に優しくしてくださるのだろう…

「ゼルス様は、本当にお優しい方なのですね。こんな私に、ここまでして下さるだなんて…」

 つい本音が漏れてしまう。唯一の肉親でもある叔父さん家族からは疎まれ嫌われていた私。ずっと信じていた幼馴染には裏切られ、私は無能で役立たずで、誰からも必要とされていない人間だと思っていた。

 こんな私に、なぜ騎士団の隊長でもある方が、こんなに良くしてくださるのだろう。それがどうしても不思議で仕方がないのだ。これは夢なのかしら?そう思う事もあるくらいに…

「俺は優しい男なんかじゃないよ…リリアこそ、こんな俺の為に色々としてくれているだろう?美味い料理を作ってくたり、家中を綺麗にしてくれたり。それに何よりも俺は、君の笑顔が好きなんだ。君が笑ってくれると、俺も幸せな気分になれるというか…」

「私が笑っていると、幸せな気分になれるですか?」

 “リリア、私の可愛いリリア。あなたの笑顔は本当に素敵よ。あなたが笑っていてくれたら、私はとても幸せな気持ちになれるの。だからいつも、笑顔でいてね!”

 まだ幼かったころ、いつもお母さんが私に言ってくれていた言葉。その言葉が、脳裏によぎったのだ。その瞬間、なんだか胸が熱くなり、涙が溢れだす。

「急に泣き出してどうしたんだい?俺が気持ちの悪い事を言ったから、引いてしまったのかい?すまない、君を悲しませるつもりは…」

「違うんです。私の亡くなった母も、いつも“私の笑顔を見ると幸せな気持ちになれる”と言ってくれていて…私の事をそんな風に思って下さる方がいるというのが、なんだか嬉しくて…」

 誰も私の事なんて見ていない、興味がない。ただの働き手としてしか見られていない。そんな世界でずっと生きてきたのだ。そんな中、ゼルス様と出会って、こんなに良くしてもらえて、その上私の笑顔まで褒めてくれて。

 それが嬉しくてたまらないのだ。
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