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第26話:皆の優しさが身に沁みます

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ホールに戻ると、両親が私の元へと飛んできた。後ろには、ライアンのご両親もいる。

「マリア、大丈夫か?王太子殿下にダンスを誘われて踊ったかと思ったら、急に走ってどこかに行ってしまうから、心配したよ」

「心配かけてごめんなさい。とにかく、私は大丈夫だから」

「おじさん、おばさん、マリアはお妃候補に名乗りを上げている令嬢に絡まれ、暴言を吐かれていたよ。これ、録音しておいたから。この話を聞いて、各家に抗議するなら抗議しろよ」

「まあ、そうだったの?マリア、大丈夫だった?」

ライアンの言葉を聞き、不安そうな顔のお母様。お父様も、怖い顔をしている。

「ええ、私は大丈夫よ。暴言と言っても、大したことはないから…」

そう、私が一度目の生の時、クラシエ様に吐いた暴言に比べれば、私が言われた事なんて大したことはない。そういえばクラシエ様は、いらっしゃらないのかしら?

ふと周りを見渡すが、人が多すぎて姿を確認できない。

「ねえ、お母様、王太子殿下はあの後、誰かとダンスを踊った?」

もしかしたら、あの後クラシエ様と踊っているかもしれない、そう思ったのだ。

「いいえ…たくさんの令嬢に囲まれていたけれど、誰とも踊っていなかったわよ」

「そうですか…」

一体ヒューゴ様とクラシエ様の仲はどうなっているのかしら?

「それよりも、ライアン。マリアと踊って来い。ほら、早く」

なぜかライアンのお父様が、私たちが踊りに行くよう、背中を押している。

「ライアン、せっかくだから、一緒に踊りましょう」

「そうだな。行くか」

ライアンと手を繋いで、ホールの真ん中に来た。そして、音楽に合わせてゆっくり踊る。

「おい、マリア。極力俺に密着しろ。それから、笑顔を作れ。皆が俺たちを見ている」

ふと周りを見渡すと、確かに大勢の貴族が、私たちの方を見ていた。これは、どういう事かしら?

「いいか、お前はさっき、王太子殿下と踊ったからな。注目されているのだろう。でも、お前はお妃候補には名乗りを上げないと明言しているから、あまり気にする必要は無い」

なるほど。1度目の生の時王太子殿下と最初にダンスを踊ったクラシエ様も、かなり注目されていた。彼女は身分が低いからと言う理由で、お妃候補にも入れなかった。

それでも、ヒューゴ様の側室になり、子供まで産んだのだから、ある意味立派よね。結局私は1度目の生の時、子宝に恵まれなかった。王妃に子供がいない場合、第一王子が王太子になるというのがルールだから、きっと彼女の子供が次の王太子になったのだろう。

「マリア、ダンスに集中しろ。お前今、別の事を考えていただろう?」

さすがライアン。ずっと一緒にいるだけの事はある。

「ごめんごめん」

とりあえず謝っておいた。その後もライアンと数曲踊って、2人仲良くホールの隅までやって来た。

すると、リリアたちが私の元へと駆けつけてくれた。

「マリア、あなたが王太子殿下にダンスに誘われたときはびっくりしたわ。でもライアン様と楽しそうにダンスをしていたから、ホッとしたわ」

「そうだよな。なあ、マリアちゃん。俺とも一緒に踊ろうぜ」

「それじゃあ、次は俺と」

「おい、どうしてマリアがお前たちと踊らないといけないんだよ!」

すかさず怒るライアン。

「バカか!王太子殿下に最初にダンスに誘われたんだぞ。その後、ライアンとだけ踊っていたら、ある事ない事噂する奴もいるだろう。とにかく今は、色々な人と踊るのがベストなんだよ」

「それじゃあ、ラアイン様は私と踊りましょう」

そう言って再びホールの真ん中にやって来た。そして、時間が許す限り、色々な令息と踊った。

やっと解放されたときには、クタクタだ。何とか馬車に乗り込んだが、疲れすぎて馬車に体を預ける。

「マリア、大丈夫?あの後ずっと色々な令息と踊っていたのもね。でも、たくさんの令息と踊った事で、王太子殿下があなたにとって特別な存在ではないという事を、他の貴族にも示せたはずよ。ただ…ライアンはかなり不満そうだったけど…」

なぜか苦笑いのお母様。そうか、私と王太子殿下を特別な関係と思わせないために、わざと皆が私をダンスに誘ってくれたのね。全く気が付かなかった。

皆の優しさに、胸の中が温かい物で包まれた。今回の生では、いつの間にか私の為に色々と考え動いてくれる友人がたくさんできたのだ。それが嬉しくてたまらない。

私も皆が何か困っていたら、そっと手助けできる様な人間になりたいな…
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