3 / 73
第3話:助けられた様です
しおりを挟む
「殿下、おやめください。いくら罪人の娘だからと言っても、まだ処遇の決まっていない令嬢を切り殺すだなんて。殿下が罪に問われる可能性もございます」
こちらにやって来たのは、ジョーン殿下の右腕、ディン・ガブディアン様だ。この男は公爵令息で、非常に優秀な男だ。計算高く主の為なら何でもすると聞いたことがある。それでもさすがに私を切り殺すことは、止めた様だ。
「分かっている。脅しただけだ。シャレル嬢、君の最期の願い、僕が叶えてあげるよ。最高の方法でね…」
ニヤリと笑うと、その場を去って行ったジョーン殿下。あの男、どこまで私をバカにすれば気になるのかしら?そういえばあの男、何度も私に近づいて来ていた。
お父様からも
“ジョーン殿下には気を付けなさい”
そう言われていた。
お父様…
“シャレル、私達貴族は、領民の為にいるのだよ。だからいつも、弱い者の味方でいなければいけない。そしていつもどんな時も、貴族としてのプライドを捨ててはいけない。その事だけは、覚えておきなさい”
いつもそう言っていたお父様が、どうして…
この国はおかしいわ、真面目に生きているお父様が無実の罪で殺され、権力に囚われた第二王子が、この国の王になるだなんて…
でも、どのみちあんな男が国を治めたところで、この国が良くなる訳がない。そんな国で、私自身も生きていきたくはない。ただ、残された民たちだけが心配だけれど…
私がそんな事を考えても、もう仕方がない。今の私には、何の権力はないのだから…
はぁっと、ため息が出る。
その時だった。
「シャレル嬢、すぐにここから出て下さい」
私の元にやって来たのは、ダーウィン様の専属執事だ。どうして彼が?
「あなたは…」
「時間がありません。さあ、早く」
執事に手を引かれ、そのまま小走りで地下牢を出ていく。人気の少ない場所を選びつつ、進んでいく。この方向は…
「もしかして、王宮の裏に向かっているのですか?」
「さすがシャレル嬢、そうです。とにかく急ぎましょう」
王宮の裏に着くと、そこには小さな馬車が停まっていた。あの馬車は一体…
「シャレル嬢、どうかこの馬車にお乗りください。それでは私はこれで失礼いたします」
馬車に私を押し込むと、すぐに執事が扉をしめたのだ。それと同時に、馬車が走り出した。
「待って、一体何が起こっているの?」
必死に窓に向かって叫ぶが、あっと言う間に執事の姿は見えなくなってしまった。よくわからないが、とにかく座ろう、そう思い、振り返ると…
「どうしてダーウィン様が?」
なんと馬車には、ダーウィン様が乗っていたのだ。一体どうなっているのだろう。
よくわからないが、彼の向かいに腰を下ろした。
恐る恐るダーウィン様の方を見るが、彼は俯いたまま何も話さない。相変わらずね。
「この馬車はどちらに向かっているのですか?どうしてあなた様が馬車に?私をどうなさるおつもりなのですか?」
俯いたままの彼に話しかける。すると…
「すまない…僕が不甲斐ないばかりに…僕のせいで、ガスディアノ公爵は…それに君だって、僕なんかと婚約さえしなければ、こんな思いをしなくて済んだのに…だからせめて君だけは、他国でなに不自由ない生活をして欲しくて。ここに僕の個人財産がある。この財産で、君は隣国、マーラル王国に向かうんだ。そこでどうか、幸せに暮らしてくれ」
ダーウィン様の足元には、かなり大きなカバンが。どうやらダーウィン様の全財産が入っている様だ。
「このお金を私にですか?という事は、ダーウィン様も一緒に、国を出て私と一緒にマーラル王国に向かうという事ですか?」
「いいや…僕はマーラル王国には向かわないよ。君を送り届けたら、僕は僕で違う国に向かうつもりだ。僕専属の執事も、家族ともども他国に逃げる様に手配はしたし。だから、どうか僕の事は心配しないでくれ」
そう言うと、ダーウィン様が悲しそうに微笑んだのだ。ダーウィン様は既に、自国に居場所がない事を悟っているのだろう。ましてや犯罪者の娘でもある私を逃がしたのだ。国に帰れば、ダーウィン様のお命も危ない。
とはいえ、他国で生きると言っても、並大抵な事ではない。特にダーウィン様は、ずっと王太子として生きれ来られたのだ。もちろん公爵令嬢として生きていた私にも、同じことが言える。
世間をあまり知らない私たちが、他国で暮らすというのは、相当大変な事。犯罪者の娘でもある私はともかく、ダーウィン様の場合、自国でひっそりと暮らすことも出来たはず。
それなのに、どうして私を助けてくれたの?
こちらにやって来たのは、ジョーン殿下の右腕、ディン・ガブディアン様だ。この男は公爵令息で、非常に優秀な男だ。計算高く主の為なら何でもすると聞いたことがある。それでもさすがに私を切り殺すことは、止めた様だ。
「分かっている。脅しただけだ。シャレル嬢、君の最期の願い、僕が叶えてあげるよ。最高の方法でね…」
ニヤリと笑うと、その場を去って行ったジョーン殿下。あの男、どこまで私をバカにすれば気になるのかしら?そういえばあの男、何度も私に近づいて来ていた。
お父様からも
“ジョーン殿下には気を付けなさい”
そう言われていた。
お父様…
“シャレル、私達貴族は、領民の為にいるのだよ。だからいつも、弱い者の味方でいなければいけない。そしていつもどんな時も、貴族としてのプライドを捨ててはいけない。その事だけは、覚えておきなさい”
いつもそう言っていたお父様が、どうして…
この国はおかしいわ、真面目に生きているお父様が無実の罪で殺され、権力に囚われた第二王子が、この国の王になるだなんて…
でも、どのみちあんな男が国を治めたところで、この国が良くなる訳がない。そんな国で、私自身も生きていきたくはない。ただ、残された民たちだけが心配だけれど…
私がそんな事を考えても、もう仕方がない。今の私には、何の権力はないのだから…
はぁっと、ため息が出る。
その時だった。
「シャレル嬢、すぐにここから出て下さい」
私の元にやって来たのは、ダーウィン様の専属執事だ。どうして彼が?
「あなたは…」
「時間がありません。さあ、早く」
執事に手を引かれ、そのまま小走りで地下牢を出ていく。人気の少ない場所を選びつつ、進んでいく。この方向は…
「もしかして、王宮の裏に向かっているのですか?」
「さすがシャレル嬢、そうです。とにかく急ぎましょう」
王宮の裏に着くと、そこには小さな馬車が停まっていた。あの馬車は一体…
「シャレル嬢、どうかこの馬車にお乗りください。それでは私はこれで失礼いたします」
馬車に私を押し込むと、すぐに執事が扉をしめたのだ。それと同時に、馬車が走り出した。
「待って、一体何が起こっているの?」
必死に窓に向かって叫ぶが、あっと言う間に執事の姿は見えなくなってしまった。よくわからないが、とにかく座ろう、そう思い、振り返ると…
「どうしてダーウィン様が?」
なんと馬車には、ダーウィン様が乗っていたのだ。一体どうなっているのだろう。
よくわからないが、彼の向かいに腰を下ろした。
恐る恐るダーウィン様の方を見るが、彼は俯いたまま何も話さない。相変わらずね。
「この馬車はどちらに向かっているのですか?どうしてあなた様が馬車に?私をどうなさるおつもりなのですか?」
俯いたままの彼に話しかける。すると…
「すまない…僕が不甲斐ないばかりに…僕のせいで、ガスディアノ公爵は…それに君だって、僕なんかと婚約さえしなければ、こんな思いをしなくて済んだのに…だからせめて君だけは、他国でなに不自由ない生活をして欲しくて。ここに僕の個人財産がある。この財産で、君は隣国、マーラル王国に向かうんだ。そこでどうか、幸せに暮らしてくれ」
ダーウィン様の足元には、かなり大きなカバンが。どうやらダーウィン様の全財産が入っている様だ。
「このお金を私にですか?という事は、ダーウィン様も一緒に、国を出て私と一緒にマーラル王国に向かうという事ですか?」
「いいや…僕はマーラル王国には向かわないよ。君を送り届けたら、僕は僕で違う国に向かうつもりだ。僕専属の執事も、家族ともども他国に逃げる様に手配はしたし。だから、どうか僕の事は心配しないでくれ」
そう言うと、ダーウィン様が悲しそうに微笑んだのだ。ダーウィン様は既に、自国に居場所がない事を悟っているのだろう。ましてや犯罪者の娘でもある私を逃がしたのだ。国に帰れば、ダーウィン様のお命も危ない。
とはいえ、他国で生きると言っても、並大抵な事ではない。特にダーウィン様は、ずっと王太子として生きれ来られたのだ。もちろん公爵令嬢として生きていた私にも、同じことが言える。
世間をあまり知らない私たちが、他国で暮らすというのは、相当大変な事。犯罪者の娘でもある私はともかく、ダーウィン様の場合、自国でひっそりと暮らすことも出来たはず。
それなのに、どうして私を助けてくれたの?
198
あなたにおすすめの小説
アンジェリーヌは一人じゃない
れもんぴーる
恋愛
義母からひどい扱いされても我慢をしているアンジェリーヌ。
メイドにも冷遇され、昔は仲が良かった婚約者にも冷たい態度をとられ居場所も逃げ場所もなくしていた。
そんな時、アルコール入りのチョコレートを口にしたアンジェリーヌの性格が激変した。
まるで別人になったように、言いたいことを言い、これまで自分に冷たかった家族や婚約者をこぎみよく切り捨てていく。
実は、アンジェリーヌの中にずっといた魂と入れ替わったのだ。
それはアンジェリーヌと一緒に生まれたが、この世に誕生できなかったアンジェリーヌの双子の魂だった。
新生アンジェリーヌはアンジェリーヌのため自由を求め、家を出る。
アンジェリーヌは満ち足りた生活を送り、愛する人にも出会うが、この身体は自分の物ではない。出来る事なら消えてしまった可哀そうな自分の半身に幸せになってもらいたい。でもそれは自分が消え、愛する人との別れの時。
果たしてアンジェリーヌの魂は戻ってくるのか。そしてその時もう一人の魂は・・・。
*タグに「平成の歌もあります」を追加しました。思っていたより歌に注目していただいたので(*´▽`*)
(なろうさま、カクヨムさまにも投稿予定です)
【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目の人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる