次こそあなたと幸せになると決めたのに…中々うまくいきません

Karamimi

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第8話:絶対にあなたを許さない!

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「さあ、今日泊まる宿が見えて来たよ。こうやってこの国で泊まるのも、今日が最後だ。ごめんね、あと少しでマーラル王国に着くから、それまではどうか我慢して欲しい」

「ダーウィン様はすぐにそうやって謝るのですから。私は大丈夫ですわ。それにダーウィン様が助けて下さらなかったら、私はきっと、今頃殺されていたでしょう。あの男に」

 ジョーン殿下の誘いを断った私は、きっとお父様と同じ運命をたどっていただろう。そんな中、ダーウィン様が助けてくれたのだ。

 確かに今までの生活とは180度変わってしまった。それでも私は、ダーウィン様が傍にいてくれるだけで、幸せなのだ。

 自分の気持ちを押し殺して、豪邸で綺麗なドレスを着て、使用人たちにお世話をしてもらいながら生活するよりも、質素な生活でも愛する人の傍にいる方がずっと幸せだ。今回ダーウィン様と過ごして、大切な事に気が付けた気がする。

「着いたよ、今日はこの宿に泊まろう。さあ、行こうか」

 今日のお宿は、森に囲まれた小さなお宿だ。毎回この様に人気の少ないポツンと建っている宿に泊まる。きっとダーウィン様が、この日の為に色々と調べてくれたのだろう。

 差し出されたダーウィン様の手を取り、2人で仲良く馬車を降りた。

 その時だった。

「やあ、久しぶりですね。兄上、それにシャレル嬢も」

 この声は…

 声の方を振り向くと、不敵な笑みを浮かべたジョーン殿下の姿が。後ろには複数の騎士たちの姿もある。

「ジョーン、どうして君がここに?」

 ダーウィン様が私を背に庇い、ジョーン殿下に向かって叫んだのだ。

「兄上が事前に色々と動いていたことは知っていたよ。まさか地下牢からシャレル嬢を連れ出すだなんてね。随分と大胆な事をしたね。犯罪者でもある彼女を地下牢から連れ出すだなんて、重罪だよ。その上、シャレル嬢を連れ出す手助けをした執事とその家族を、どこかに逃がしたよね。彼らの捜索もしたが、見つける事が出来なかったよ」

「そうか…うまく逃げてくれたのだな…よかった」

「何がよかったのだい?執事がどうなろうと、関係がない事だろう?それよりも、自分の心配をしたらどうだい?犯罪者でもあるシャレル嬢を連れ出したのだ。兄上もただでは済まされないよ。そうそう、シャレル嬢は裁判で極刑に処されることが決まったよ」

 私が極刑ですって…きっと誘いを断った事への腹いせね。この男の考えそうなことだわ。

「どうしてシャレルが極刑なのだい?彼女が一体何をしたのだい?もしかして、適当な罪をでっち上げたのかい?」

「ダーウィン様、落ち着いて下さい。私がジョーン殿下の愛人になる事を拒んだことによる、当てつけでしょう。ダーウィン様、どうやらここまでの様ですわ。最後にあなた様と過ごせた時間は、私にとってかけがえのない幸せな時間でした。ありがとうございました」

 ダーウィン様に頭を下げ、そして今度はジョーン殿下の方を向き直した。

「私はあなた様と共に、王都に戻りますわ。処刑でも何でも受け入れます。ですが、どうかダーウィン様だけは見逃してください。お願いいたします」

「シャレル、一体何を言っているのだい?僕は君と離れるつもりはない。君が王都に戻るのなら、僕も…」

「私は既に、極刑の判決が出ている犯罪者です。どのみち私は、殺される運命。それならせめて、ダーウィン様だけでも、自由に生きて欲しいのです。それが私の最後の願いなのです」

 どのみち殺されるのなら、せめてダーウィン様だけは幸せになって欲しい。

「いいだろう、兄上は見逃してあげるよ。兄上が王都にいると、何かと厄介だからね。今すぐシャレル嬢を捕まえろ」

 後ろに控えていた騎士たちが、私の方に一気にやって来た。その時だった。何を思ったのか、短刀を取り出したダーウィン様が、騎士たちに襲い掛かったのだ。

「シャレル、どうか逃げてくれ。僕は君を死なせたくはない。早く馬車に乗って」

「何をおっしゃっているのですか?どうかお止めください。私はもうよいのです」

「いいや、よくない。僕はもう、君無しでは生きていけない。どうか僕の分も生きてくれ」

「相変わらず愚かだね。どうやら兄上も死にたい様だ。やってしまってもいいよ」

 困惑している騎士たちに、あり得ない指示を出すジョーン殿下。殿下の指示を聞いた騎士たちが、一気にダーウィン様に襲い掛かったのだ。

「お願い、止めて!」

 何カ所も体を貫かれたダーウィン様が、その場に倒れ込んだのだ。

「ダーウィン様、なんて事なの?ごめんなさい、私のせいで」

「シャレル…のせいでは…ないよ…ごめんね…僕が弱くて…もっと強かったら…君を守れたのに…ゴホゴホ…」

「どうかもう、話さないで下さい。お願いです、ジェーン殿下、ダーウィン様をお助け下さい」

 このままでは、ダーウィン様のお命が…

「そうだな、それじゃあ、地下牢で断ったあの話を受け入れてくれるのなら、兄上を助けてあげてもいいよ。さあ、どうする?」

 あの時の話…私に愛人になれという話…

「シャレル…受けてはダメだ…どのみち僕は…」

「分かりました、そのお話、受けますわ。ですから、どうかダーウィン様を…」

「グワッ」

「えっ?」

 次の瞬間、何を思ったのかジョーン殿下がダーウィン様の胸を剣で貫いたのだ。


 どうして…なぜ…イヤよ…

「ダーウィン様、目を開けて下さい。どうして…」

 瞳を閉じたまま動かないダーウィン様に、泣きながら必死に訴える。

「兄上はもう死んだよ。残念だったね。君が悪いのだよ。優秀な僕よりも、愚かな兄上を選んだのだから。でも、最後は僕を選ぶと言ってくれたから、約束通り愛人にしてあげるよ」

 約束通り愛人ですって?この男、どこまで腐っているの?

 すっと立ち上がる。

「ふざけないで下さい…誰があなたの愛人になんてなるものですか。あなただけは、絶対に許さない!絶対に!」

 ダーウィン様が持っていた短刀を握りしめ、ギロリとジョーン殿下を睨んだ。

「僕を許さないだって?その短刀で僕と戦うのかい?面白い、やってみるといい」

「誰があなたと戦うと言いましたか?ダーウィン様、私も今、あなた様の元に向かいます」

 すっと短刀のどの元に当て、一気に突き刺した。

 ダーウィン様、どうかあの世で、幸せに暮らしましょう。そう願いながら、私の人生は幕を下ろしたのだった。
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