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21 リンと摩周④ ~トーマス目線

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※残酷な描写が含まれます。
ご注意下さい。


~トーマス目線

誰もが振り返るほどの美少女に成長したリンは、16歳でスカウトされて芸能人になった。

そう、テレビの世界。
あの頃、憧れて止まなかった世界。
いつでも皆が笑ってる、楽しい世界。


世間はリンのあまりの可愛らしさに熱狂し、あれよあれよという間にトップアイドルに登り詰めていく。
国民的アイドルと呼ばれるまでそう時間はかからなかった。

『あ!加々美リンだ!可愛いー!』
『ああ!リンたんがトイレットペーパー買ってる!』
『アイドルもトイレ行くんだね、夢壊れたわ』

芸能人はいつでも、どこでも誰かに見られている。
リンと俺は常に緊張を強いられた。

そんな俺たちの癒しは、たまにしかない休日に部屋に籠ってゲームをする事だった。

リンと俺は、仕事や大事な用事がなければ絶対に家から出ない。

家の中にいれば安心だ。
この世で唯一、誰にも侵されることのないリンと俺だけの空間。


・・・・・・なのに、その場所すら奪おうとする奴が現れた。

リンに付きまとうストーカーだ。

毎日のようにポストに届く手紙は、気持ちの悪い愛の囁きから始まり、口汚く罵る罵詈雑言を経て、最後は殺害予告に変わった。

毎晩かかってくる無言電話、カーテンの隙間から鋭く射し込む赤い光の線。

玄関のドアノブにかけられたビニール袋には、髪の毛と爪が大量に練り込まれたカップケーキ。


事務所に相談したら、マネージャーとの同居を勧められた。
マネージャーの瀬川さんはリンにとって唯一信頼出来る人間、父親のような存在だ。
下心なく、リンを大事にしてくれる。
でも一緒に暮らすのはさすがに無理だ。
他人がいては俺とリンは会話も出来ない。


電話番号は何度も変えた。
セキュリティのしっかりしたマンションに引っ越した。
警察が三日に一度、マンションの周りをパトロールしてくれることになった。

それでもストーカーは止まらない。

ある日仕事から帰ってきて覗いたポストに入っていたのは、子猫の死骸だった。
無数の虫が湧いたそれを見たリンは発狂し、倒れた。



誰だ、誰がリンにこんなことをする!
もう、限界だ。
もう、アイドルなんてやめよう?

何とかリンをモノにしようと舌なめずりをする男たち。
ニコニコと楽しそうに話をしながら、隙あらば蹴落としてやろうと画策する格下アイドル。
いつでもどこでもリンを見張り、有ること無いこと報道するマスコミ。

そんな奴らに囲まれて、ストーカーにまで付きまとわれて、アイドルなんか続ける事はない。

テレビの世界は楽しい世界なんかじゃなかったんだ。



── なぁ、リン、どっかの田舎に引っ込んでさ、ずっと二人でのんびり暮らそうぜ?

「うん、あたしは摩周と一緒なら何処でもいいよ」

そんな話をしていた時だった。


ピンポーーン

チャイムがなった。

「はい、どちら様でしょう」

リンがインターホンの受話器に返事をした。
モニターに映るのは有名な宅配業社の制服に帽子を被った男。

「お荷物です」

「それなら一階のロビーにある宅配ボックスにお願いします」

「いえ、着払いなので直接受け取りでお願いしたいのですが」


判子と財布を持って玄関を開けたリンの目の前にいたのは、狂喜の笑みを浮かべたアイドルグループ『CRASH』のマサヤだった。

マサヤは素早い動きでドアの間に足を滑り込ませると、玄関に押し入った。
そして抱えていた段ボールから大きな出刃包丁を取り出すと、躊躇いもなくリンの腹に突き刺し、抜いた。

一瞬だった。

マサヤ!お前か!お前がストーカーだったのか!

腹を押さえてうずくまるリンの、首に、背中に、腰に、その出刃包丁を振りおろす。
何度も、何度も、何度も、何度も。

── リン!俺と変われ!

リンを守ろうと前に出ようとしたが、リンに阻まれた。

(・・・・・・摩周、もういいよ。あたしのせいで痛い思いは・・・・もう、させない。摩周、手を繋いで・・・・・・抱き締めていて。あたしたちは、一心同体・・・・・・摩周、摩周、一緒に・・・・・・行こう)

俺はリンを強く抱き締めた。

── リン、一緒だよ、行こう、新しい世界に。今度こそきっと幸せな世界だよ

(うん・・・・・・)



横たわるリンの目の前に真っ赤な血飛沫が飛び散る。

マサヤが出刃包丁を自分の首に当て、勢いよく切りつけていた。

リンの上に重なるように倒れ込んだマサヤが言った。

「あ、あ・・・・リン・・・・儀式・・・・は・・成功だ」


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