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34 夢を見ていた
夢を見ていた。
泣きわめく小さな私。
パパもママも困った顔で私を見ている。
手足をバタバタさせて激しく首を振る。
『イヤイヤイヤイヤぁぁぁ!』
気に入らない。
何がイヤだったのかも分からなくなってしまったけど、それもまた気に入らない。
力の限り泣き叫ぶ。
『うあぁぁぁああぁぁぁーん!!』
私と家族だけの世界は、私を中心に回っている。
パパもママもお兄ちゃんもみんな、私のためにここにいる。
だから私は感情のままに暴れて泣きわめく。
『このお子さんの個性ですよ。』
お医者さんが笑って言う。
『個性?ではゆかりは発達障害とかの病気ではないんですね?』
『ええ、ちゃんと検査もしましたから。これは単純に子どものワガママですよ』
パパとママがほっとしている。
『この年齢にはよく見られることです。』
『あぁ、良かった』
『とはいえ、あまりにひどいとお父さん、お母さんも大変でしょう。』
『はい、もう私も妻もヘトヘトで・・・・・・』
『学校に通うようになっても直らなければ、いじめや仲間はずれの原因になることもありますからね。早い内に矯正したほうがいいでしょう。』
こせい、はったつしょうがい、わがまま、がっこう、いじめ、なかまはずれ。
そして、パパとママはへとへと。
夢を見ていた。
あの日から、ずっと泣いている私に夫が言う。
「もういい加減泣くなよ。流れちゃったもんはしょうがないじゃん」
そんなこと言ったって無理だよ。
だって死んじゃった。
私の赤ちゃん、ここにいたのに。
「いつまでもグズグズ泣いてたってしょうがないだろ?」
「カズ君は悲しくないの?! 赤ちゃん、死んじゃったんだよ?!」
私は叫び、泣き続ける。
夫の涙にも気づかずに。
朝も昼も夜もずっと。
泣いて、泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いて
「もういいよ。俺と一緒にいるとゆかりは立ち直れない。離婚しよう」
夢を見ていた。
広いリビングのふかふかのソファで、裸の男にしなだれかかる裸の女。
『うちの夫ってホントつまらないの。
いくらT大出身のエリートでも陰気のコミュ障じゃね。全然会話も続かないし、プライドばっかり高くって。もう一緒にいるだけで気が滅入るわ。セックスだって独りよがりで全然良くないし。貴方くらい上手だったら、陰気なところも目をつぶれたかも知れないけど。もう、なんであんなのと結婚しちゃったのかしら。は? 離婚なんてしないわよ。生活水準は下げたくないもの。私の評判も悪くなっちゃうわ。ああ、もういっそ死んでくれないかしら。せっかく高い保険だって加入してるのよ』
美しい模様が浮かぶ大理石の床の上。
三宅冬馬は妻に馬乗りになって、その細い首を絞めていた。
妻の苦しそうに歪んだ顔の上に、ボタボタと雫が落ちる。
妻はしばらく手足をバタバタさせて暴れていたが次第に静かになり、動かなくなった。
そして死んだ妻の横にぶら下がる、三宅冬馬の足。
夢を見ていた。
今度は幸せな夢だった。
私は三宅冬馬に好きだと告白した。
そして、彼も私を好きだと言ってくれた。
彼の手が私の髪を撫で、涙を拭う。
クラスのみんなに冷やかされた。
私はきっと耳まで真っ赤になってるだろう。
三宅冬馬がみんなと言い合いをする。
笑ってる。
三宅冬馬も、私も、みんなも。
私はそんな彼の姿が嬉しくて嬉しくて、夢なら醒めないで欲しいと願う。
──────────
35~夢から覚めて へ
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