美醜逆転~空っぽの私と、淋しい貴方

むぎてん

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『伯爵家の化け物』

俺は周りの者からそう呼ばれている。

この世の者とは思えぬほどに醜悪な見目を持つ俺は正しく ”化け物” だ。


母の命と引き換えに、伯爵家の次男として生まれてきた俺を、父は『化け物』と厭いながらも棄てることもできずにいた。

本宅から遠く離れた領地の端に小さな屋敷をあてがわれ、メイドのリズと、その夫で小間使いのボブと共に、ひっそりと暮らしてきた。


リズとボブは真面目で誠実で、この二人だけが俺を恐れながらも共にいてくれたのだ。

しかし二人は、俺が19歳の時に事故で同時に旅立ってしまった。


二人を亡くして2年。
あの日から俺は、心が底冷えするような淋しさに襲われ続けている。

俺にはもう誰もいない。
俺の名を呼ぶ者はおろか、話をする者も、顔を合わせる者すら誰も。

毎日、毎日、淋しさが雪のように降り積もる。

一人が気楽とか、一人になりたいとか、そんなことを思える者は、きっと本当の孤独を知らない。


ふらりと場末の娼館の敷居を跨いだのは、
降り積もる淋しさに埋もれて息すらも出来ないほどに苦しかったから。

娼館など行っても、俺を受け入れる娼婦は一人としていないだろう。
きっと、真っ青な顔で逃げ出されるか、泣き喚かれるか、吐かれるか。
悲惨な結果は見えているのに、それでも一人でいることに耐えられなかった。





『いらっしゃいま‥っ‥し‥』
女店主が俺を見て、一瞬喉を詰まらせた。

年増だが、それでも十分に美しい店主は、俺と目を会わせないように上手く誤魔化しながら応対する。
手のひらで口許を覆って吐き気を抑えている。

”化け物” の俺に、吐き気を抑えながら引きつった笑みで娼婦を斡旋する店主は、きっと性根逞しい守銭奴なのだろう。

その守銭奴が、釘を刺す。

『し、失礼ですが、お客さんはお貴族さまですよね。だったらこっちとしてはどんな理由があってもお断りすることは出来ません。ただ、娼婦がどうしても無理だと泣いたなら‥‥どうか慈悲をかけてやってはもらえませんかっ?』

『大丈夫だ。無理強いはしないと約束する。何もせずに帰ることになっても金はきちんと支払う』



しばらく待たされたあとに通されたのは薄暗い客室。

チェストもソファも無い、簡素なベッドだけがある ”そのためだけ” の部屋。

そのベッドの淵に腰掛ける女が、ゆっくりと振り向く。

美しい黒曜石のような二つの瞳が、俺を見た。

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