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62 新しい物語
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僕は枕に埋もれさせていた顔をちらりとシグファリスの方に向けて、懸念を口にした。
「その……僕の、中が……思ったより、気持ちよくなくても……がっかりしないでくれるか……?」
挿れたい、というシグファリスの願いを、これまでずっと断ってきた。ここまで拒み続けて、もったいぶって、いざしてみたらそうでもなかった、ということだってあるかもしれない。元々入れるための場所ではないのだし。落胆させてしまったら申し訳ない。そう思って確認してみたのだが、シグファリスは僕の言葉に硬直してしまった。
「……? シグファリス……?」
「何だそりゃ煽ってんのか!? がっかりなんてするわけねえだろうが!」
シグファリスはぐしょぐしょに濡れた僕の下着を剥ぎ取り、強引に僕の足を開かせた。
「や、優しくするって言ったくせに!」
「優しくする! 優しくするからもうこれ以上かわいいことを言うんじゃねえ!」
そう叫びながらほとんど破り捨てる勢いで自らの衣服を脱ぎ捨てる。見事なまでに鍛え上げられた肉体美に身惚れそうになるが、下肢からまろび出たものが目に入って、身がすくんでしまう。
もう何度も見たし、触れたことさえある。それでも慣れない。平均的な大きさなど知りようもないが、いくらなんでも大きすぎると思う。こんなもの、ほとんど凶器だ。本当に入るのか、信じ難い。
怯んでいる隙に腰を抱えられて、濡れそぼった場所に凶器があてがわれる。粘膜同士がひたりと吸い付いて、びくりと体が震える。
「ゆっくり、するから……力を抜いててくれ……」
「や――! ま、まて……ああっ!」
覚悟を決めはしたが、いざとなると怖気付いてしまう。胸板を押しても、シグファリスを押し留めることはできなかった。
先端が、僕の中に入り込んでくる。指で散々拡げられて、柔らかくなっていても、きつい。
「ひんっ! あ、ああ、うぁ……!」
言葉通り、シグファリスはゆっくりと腰を押し進めているけれど、僕は悲鳴を抑えきれなかった。全身に汗が吹き出る。シグファリスは逃げを打とうとする僕の腰をがしりと捕まえて、それでもけして急がない。
奥まで腰を押し進めて、やがてシグファリスが動きを止めた。
「は、ああ……アリス……アリスティド兄様……痛くねえか……?」
苦痛のあまりぎゅっと閉じたまぶたの上から、僕を気遣う声音が降ってくる。
苦しい。張り裂けそうだ。だがこれまで指で慣らされてきたおかげか、思ったよりも痛くはない。
「は、あ……だ、いじょう、ぶ……」
「そうか、よかった……それなら、全部挿れてもよさそうだな……」
「ふ、え……!? あああっ!」
全部入ったのだとばかり思っていたのに、まだこれ以上入ってくるのか!? 焦る僕の気も知らず、シグファリスはさらに腰を押し進めた。
「――っ!」
尋常ではないほど深く、指では届かない場所まで抉られて、衝撃で悲鳴も出ない。目の前がちかちかする。息をするのもやっとだ。
「はぁ、俺の……兄様の中に入っちまった……」
熱を帯びた声に誘われて、おずおずと目を開ける。動きを止めて荒く息をするシグファリスと、視線がかち合う。
かつて復讐心にまみれ、殺意に滾っていた眼差しは、今や見る影もない。精悍な顔立ちは幸福そうにほころんで、金色の瞳は恍惚に溶けている。
苦しいことに変わりはないけれど、こんなに気持ちよさそうにしてくれるなら、もっと早く繋がってしまえばよかったとさえ思ってしまう。
「やばい、気持ちいい……っ、溶けそうだ……」
唸り声をあげて、シグファリスが歯を食いしばる。僕の中で剛直が脈打つ。今にも暴走しそうに思えて、怖くて、ぎゅっとシグファリスにしがみつく。
優しくするって約束したんだから、大丈夫だよな? そう確認したかったのに、シグファリスは真逆の意味にとらえてしまった様子だった。艶めいた表情で、シグファリスが微笑む。
「はっ、あ、あああ……!」
シグファリスがゆっくりと腰を引く。たったそれだけの動きでも、圧迫感と異物感に打ちのめされる。シグファリスは抜ける寸前まで腰を引いて、一番太い先端だけが埋まっている状態から、再び中へ突き進んでくる。
「あ、ぐ……や゛ぁああっ……!」
僕の口からは、これまでの、どの悲鳴よりも無様な声が漏れる。あまりに苦しくて、シグファリスの背中に爪を立ててしまうけれど、それが歯止めになる様子はなかった。最初はゆっくりと小刻みだった動きが、どんどん大胆なものになっていく。
「ひぅうっ、アッ! ま゛、まって……ああッ!」
「ああ、くっそ……こんなの、持たねえ……っ、一回出していいか……?」
切羽詰まったシグファリスの声に追い立てられて、わけもわからず頷く。その後で、どうなるかなんて、想像もしないで。
「――ひぃっ! あっ! ああっ! やっ、ああッ……ああっ!」
かわいい弟が、獲物に喰らいつく飢えた獣にしか思えない動きで、僕を苛む。
だめだ、そんなに激しくしないでくれ。そう懇願する隙もなく、シグファリスは唸り声を上げた。
「は、ああっ……!」
「んッ、ああ……は、ふ……!」
腹の奥に、熱く、迸る感触がして。初めて味わう感覚に混乱して打ち震えている間も、シグファリスはゆるゆると僕を揺さぶり続ける。
「んうっ、あ、や、……! ま、まて、まって……ひううッ」
「は、あ……すげえ、中、うねって……アリスティド兄様も、気持ちいいみたいでよかった……」
シグファリスの腹筋に潰されている僕の性器は、ぴんと張り詰めて、はしたなく先走りを漏らしていて。自らの官能を目の当たりにして、うろたえてしまう。
僕の理性は、この行為について何も理解していないのに、体はとっくに快感にひたっている。
「んっ! うう……ああッ!」
困惑する僕を置き去りに、シグファリスは律動を再開する。
僕の腹の中は、シグファリスが放った精液で濡れて、さっきよりも抵抗なく剛直を飲み込んでしまう。
ぐちゃぐちゃとかき混ぜられて、繋がった場所がどうしようもなく疼く。シグファリスが激しく腰を打つたびに、そこからは香油と混ざった精液がぐちゅりと溢れる。いやらしい音に耳を塞ぎたくなる。ひっきりなしに漏れる自分の甘えた声も、あまりに恥ずかしい。
「い、やぁ……、も、やだぁ……」
「嫌じゃねえだろ……痛くねえよな? 気持ちいいからこんな甘えた声出してんだよな?」
「ああっ、ひう、……痛く、ない、けど……やああっ!」
繋がったまま、簡単に体を持ち上げられて、ひっくり返されて。あられもない姿勢で揺さぶられて。恥ずかしい姿勢を強いられることに文句を言いたくても、恍惚としたシグファリスの眼差しとぶつかると、なにも言えなくなってしまう。
「ひっ、んんうッ! し、しぐ、やあッ……ああっ!」
「ああ……、かわいい、アリスティド兄様……好き、好きだ、愛してる……アリスティド兄様に触れる男は全員殺してやる……」
耳元で囁かれる、物騒なうわ言に、体の芯が熱く疼く。
異物を飲み込まされているはずなのに、そこはもう受け入れるのが当たり前のように、ぐずぐずに溶けて。羞恥も、圧迫感も、何もかもが快感につながっていく。
悪魔だった頃のように、一方的に搾取するだけの快楽とは違う。お互いに与え合って、貪り合い、高みへと押し上げられていく。
「はっ、あっ、しぐ、シグファリス……! も、だめ、やぁあああ……ッ!」
散々に指でいじめられて、快感を覚えてしまった場所を強く抉られた瞬間、目の前が白く灼けて。
「はひっ、ああっ、やぁ……ふぁああっ……!」
あまりにも長く続く絶頂に震えながら、シグファリスにすがる。シグファリスは僕の喘ぎ声を食べるみたいに口付けて、さらに僕を激しく苛んだ。
それから、どれだけ揺さぶられたのか、わからない。
「く、ああ……っ!」
シグファリスが艶めいた唸り声をあげて、ようやく動きを止める。
もう何度となく放たれて、腹が重い。でも、これでようやく終わった。焦点の合わなくなった視界に、金色の瞳が映る。ぎらついた光はようやくなりを潜めて、穏やかに僕を見つめていた。
「ああ……ごめんな、アリスティド兄様、俺ばっかり……次は、もっとゆっくり、兄様を気持ちよくするから……」
「……! も、だめ……いやだ……!」
信じ難いことに、シグファリスはまだ続けるつもりでいるようだった。僕の中に収まったままの剛直は、いまだに硬く張り詰めている。
いくらなんでも、もう無理だ。体力も気力もとっくに限界を超えている。
「嫌か? 俺のこと、嫌いになった……?」
不安げに眉根を下げるシグファリスの顔を見ると、胸がきゅんと痛む。僕は震える手をシグファリスに伸ばして、両手で頬を包み込んだ。
嫌いになどなるものか。どれだけ痛めつけられても、一度だって、嫌いだと思ったことなどなかった。
「…………好き。シグファリス、好きだ……僕も、愛して、いる……」
今まで、言葉にすることはできなかった。一度でも口にしたら、もう二度と手放せそうになかったから。
僕の言葉に、シグファリスの目の色が変わる。獲物に飛び掛かる寸前の獣のような眼差しに、しまった、と思っても遅い。
愛していると伝えるにしても、今じゃなかった。
貪り尽くされた草食獣が、肉食獣に向かって「まだ食べられるところが残ってます」と身を差し出すようなものだ。
それからはもう、なにもわからなくなった。
§
――翌朝。
いや、翌日の昼だ。
結局あれから食事もせずにただひたすら貪られて、気絶するように眠り込んで。目覚めた僕の体調は当然の如く最悪。声は掠れ、発熱すらしていた。
「ごめんなさい……」
かいがいしく僕の看病をしながら、ひたすら謝るシグファリスを、僕は切々となじった。
「優しくするって、言ったくせに……嘘つき……」
あられもない声を出しすぎて、喋るだけで喉が痛んだ。
元々体力はない方だった。それでも辺境を旅するようになってからは僕なりにたくましくなったし、少しは成長して丈夫になってきたと思っていたのに。ささやかに積み上げてきた僕の自信を、シグファリスはたった一晩で全部砕いて更地にしてしまった。
「頼む、泣かないでくれ……」
はらはらと涙を流す僕に、シグファリスはこれまでにないほどうろたえていた。無類の力を秘めた光の加護も、こんな時はまるで役に立たない。
ふたりで旅をするようになってからは、いつだってシグファリスが僕の面倒を見ていてくれていたのだが、この時ばかりは従僕よりも腰を低くして、ことさら入念に世話をした。
僕の体は丁重に拭き清められ、真新しい衣服に包まれている。でもその下は惨憺たる有様だ。身体中に、花びらがくっついているみたいに口付けの跡が残っている。それどころか、歯形まで。
「……初めてだったのに、ひどい……あんなに、何度も……」
「そりゃアリスティド兄様が可愛すぎるのが悪いんじゃねえか……」
「ふええ」
「ぐ……! ごめん、ごめんなさい、俺が全部悪いです……!」
平身低頭。僕の涙に滅法弱いシグファリスは、文字通り床に額を擦り付けて謝る。
――まあ、嘘泣きなのだが。
手に握り込んで隠した小瓶から化粧水をこぼしているだけ。これもシグファリスが僕のために用意してくれた美容品であるのだか、こんな風に使う日が来るとは思わなかった。
「あああ……アリスティド兄様、もう、次は、絶対本当に優しくするし、絶対泣かせないから……どうか、許してくれ……」
本当はもうとっくに許しているし、シグファリスに土下座などさせたくはないのだけれど。でも、今は徹底的に反省してもらわねば。
――これからずっと、二人で生きていくのだから。加減を覚えてもらわなくては、僕の体が持たない。
シグファリスに幸せになってもらいたい。でも、罪を抱えた僕までもがのうのうと幸福に浸ることには抵抗がある。
それでも。歪んでいても、不恰好でも、ようやくたどり着いた未来を、今は受け入れようと思う。
ここからまた、新しい物語が生まれるはずだから。
「その……僕の、中が……思ったより、気持ちよくなくても……がっかりしないでくれるか……?」
挿れたい、というシグファリスの願いを、これまでずっと断ってきた。ここまで拒み続けて、もったいぶって、いざしてみたらそうでもなかった、ということだってあるかもしれない。元々入れるための場所ではないのだし。落胆させてしまったら申し訳ない。そう思って確認してみたのだが、シグファリスは僕の言葉に硬直してしまった。
「……? シグファリス……?」
「何だそりゃ煽ってんのか!? がっかりなんてするわけねえだろうが!」
シグファリスはぐしょぐしょに濡れた僕の下着を剥ぎ取り、強引に僕の足を開かせた。
「や、優しくするって言ったくせに!」
「優しくする! 優しくするからもうこれ以上かわいいことを言うんじゃねえ!」
そう叫びながらほとんど破り捨てる勢いで自らの衣服を脱ぎ捨てる。見事なまでに鍛え上げられた肉体美に身惚れそうになるが、下肢からまろび出たものが目に入って、身がすくんでしまう。
もう何度も見たし、触れたことさえある。それでも慣れない。平均的な大きさなど知りようもないが、いくらなんでも大きすぎると思う。こんなもの、ほとんど凶器だ。本当に入るのか、信じ難い。
怯んでいる隙に腰を抱えられて、濡れそぼった場所に凶器があてがわれる。粘膜同士がひたりと吸い付いて、びくりと体が震える。
「ゆっくり、するから……力を抜いててくれ……」
「や――! ま、まて……ああっ!」
覚悟を決めはしたが、いざとなると怖気付いてしまう。胸板を押しても、シグファリスを押し留めることはできなかった。
先端が、僕の中に入り込んでくる。指で散々拡げられて、柔らかくなっていても、きつい。
「ひんっ! あ、ああ、うぁ……!」
言葉通り、シグファリスはゆっくりと腰を押し進めているけれど、僕は悲鳴を抑えきれなかった。全身に汗が吹き出る。シグファリスは逃げを打とうとする僕の腰をがしりと捕まえて、それでもけして急がない。
奥まで腰を押し進めて、やがてシグファリスが動きを止めた。
「は、ああ……アリス……アリスティド兄様……痛くねえか……?」
苦痛のあまりぎゅっと閉じたまぶたの上から、僕を気遣う声音が降ってくる。
苦しい。張り裂けそうだ。だがこれまで指で慣らされてきたおかげか、思ったよりも痛くはない。
「は、あ……だ、いじょう、ぶ……」
「そうか、よかった……それなら、全部挿れてもよさそうだな……」
「ふ、え……!? あああっ!」
全部入ったのだとばかり思っていたのに、まだこれ以上入ってくるのか!? 焦る僕の気も知らず、シグファリスはさらに腰を押し進めた。
「――っ!」
尋常ではないほど深く、指では届かない場所まで抉られて、衝撃で悲鳴も出ない。目の前がちかちかする。息をするのもやっとだ。
「はぁ、俺の……兄様の中に入っちまった……」
熱を帯びた声に誘われて、おずおずと目を開ける。動きを止めて荒く息をするシグファリスと、視線がかち合う。
かつて復讐心にまみれ、殺意に滾っていた眼差しは、今や見る影もない。精悍な顔立ちは幸福そうにほころんで、金色の瞳は恍惚に溶けている。
苦しいことに変わりはないけれど、こんなに気持ちよさそうにしてくれるなら、もっと早く繋がってしまえばよかったとさえ思ってしまう。
「やばい、気持ちいい……っ、溶けそうだ……」
唸り声をあげて、シグファリスが歯を食いしばる。僕の中で剛直が脈打つ。今にも暴走しそうに思えて、怖くて、ぎゅっとシグファリスにしがみつく。
優しくするって約束したんだから、大丈夫だよな? そう確認したかったのに、シグファリスは真逆の意味にとらえてしまった様子だった。艶めいた表情で、シグファリスが微笑む。
「はっ、あ、あああ……!」
シグファリスがゆっくりと腰を引く。たったそれだけの動きでも、圧迫感と異物感に打ちのめされる。シグファリスは抜ける寸前まで腰を引いて、一番太い先端だけが埋まっている状態から、再び中へ突き進んでくる。
「あ、ぐ……や゛ぁああっ……!」
僕の口からは、これまでの、どの悲鳴よりも無様な声が漏れる。あまりに苦しくて、シグファリスの背中に爪を立ててしまうけれど、それが歯止めになる様子はなかった。最初はゆっくりと小刻みだった動きが、どんどん大胆なものになっていく。
「ひぅうっ、アッ! ま゛、まって……ああッ!」
「ああ、くっそ……こんなの、持たねえ……っ、一回出していいか……?」
切羽詰まったシグファリスの声に追い立てられて、わけもわからず頷く。その後で、どうなるかなんて、想像もしないで。
「――ひぃっ! あっ! ああっ! やっ、ああッ……ああっ!」
かわいい弟が、獲物に喰らいつく飢えた獣にしか思えない動きで、僕を苛む。
だめだ、そんなに激しくしないでくれ。そう懇願する隙もなく、シグファリスは唸り声を上げた。
「は、ああっ……!」
「んッ、ああ……は、ふ……!」
腹の奥に、熱く、迸る感触がして。初めて味わう感覚に混乱して打ち震えている間も、シグファリスはゆるゆると僕を揺さぶり続ける。
「んうっ、あ、や、……! ま、まて、まって……ひううッ」
「は、あ……すげえ、中、うねって……アリスティド兄様も、気持ちいいみたいでよかった……」
シグファリスの腹筋に潰されている僕の性器は、ぴんと張り詰めて、はしたなく先走りを漏らしていて。自らの官能を目の当たりにして、うろたえてしまう。
僕の理性は、この行為について何も理解していないのに、体はとっくに快感にひたっている。
「んっ! うう……ああッ!」
困惑する僕を置き去りに、シグファリスは律動を再開する。
僕の腹の中は、シグファリスが放った精液で濡れて、さっきよりも抵抗なく剛直を飲み込んでしまう。
ぐちゃぐちゃとかき混ぜられて、繋がった場所がどうしようもなく疼く。シグファリスが激しく腰を打つたびに、そこからは香油と混ざった精液がぐちゅりと溢れる。いやらしい音に耳を塞ぎたくなる。ひっきりなしに漏れる自分の甘えた声も、あまりに恥ずかしい。
「い、やぁ……、も、やだぁ……」
「嫌じゃねえだろ……痛くねえよな? 気持ちいいからこんな甘えた声出してんだよな?」
「ああっ、ひう、……痛く、ない、けど……やああっ!」
繋がったまま、簡単に体を持ち上げられて、ひっくり返されて。あられもない姿勢で揺さぶられて。恥ずかしい姿勢を強いられることに文句を言いたくても、恍惚としたシグファリスの眼差しとぶつかると、なにも言えなくなってしまう。
「ひっ、んんうッ! し、しぐ、やあッ……ああっ!」
「ああ……、かわいい、アリスティド兄様……好き、好きだ、愛してる……アリスティド兄様に触れる男は全員殺してやる……」
耳元で囁かれる、物騒なうわ言に、体の芯が熱く疼く。
異物を飲み込まされているはずなのに、そこはもう受け入れるのが当たり前のように、ぐずぐずに溶けて。羞恥も、圧迫感も、何もかもが快感につながっていく。
悪魔だった頃のように、一方的に搾取するだけの快楽とは違う。お互いに与え合って、貪り合い、高みへと押し上げられていく。
「はっ、あっ、しぐ、シグファリス……! も、だめ、やぁあああ……ッ!」
散々に指でいじめられて、快感を覚えてしまった場所を強く抉られた瞬間、目の前が白く灼けて。
「はひっ、ああっ、やぁ……ふぁああっ……!」
あまりにも長く続く絶頂に震えながら、シグファリスにすがる。シグファリスは僕の喘ぎ声を食べるみたいに口付けて、さらに僕を激しく苛んだ。
それから、どれだけ揺さぶられたのか、わからない。
「く、ああ……っ!」
シグファリスが艶めいた唸り声をあげて、ようやく動きを止める。
もう何度となく放たれて、腹が重い。でも、これでようやく終わった。焦点の合わなくなった視界に、金色の瞳が映る。ぎらついた光はようやくなりを潜めて、穏やかに僕を見つめていた。
「ああ……ごめんな、アリスティド兄様、俺ばっかり……次は、もっとゆっくり、兄様を気持ちよくするから……」
「……! も、だめ……いやだ……!」
信じ難いことに、シグファリスはまだ続けるつもりでいるようだった。僕の中に収まったままの剛直は、いまだに硬く張り詰めている。
いくらなんでも、もう無理だ。体力も気力もとっくに限界を超えている。
「嫌か? 俺のこと、嫌いになった……?」
不安げに眉根を下げるシグファリスの顔を見ると、胸がきゅんと痛む。僕は震える手をシグファリスに伸ばして、両手で頬を包み込んだ。
嫌いになどなるものか。どれだけ痛めつけられても、一度だって、嫌いだと思ったことなどなかった。
「…………好き。シグファリス、好きだ……僕も、愛して、いる……」
今まで、言葉にすることはできなかった。一度でも口にしたら、もう二度と手放せそうになかったから。
僕の言葉に、シグファリスの目の色が変わる。獲物に飛び掛かる寸前の獣のような眼差しに、しまった、と思っても遅い。
愛していると伝えるにしても、今じゃなかった。
貪り尽くされた草食獣が、肉食獣に向かって「まだ食べられるところが残ってます」と身を差し出すようなものだ。
それからはもう、なにもわからなくなった。
§
――翌朝。
いや、翌日の昼だ。
結局あれから食事もせずにただひたすら貪られて、気絶するように眠り込んで。目覚めた僕の体調は当然の如く最悪。声は掠れ、発熱すらしていた。
「ごめんなさい……」
かいがいしく僕の看病をしながら、ひたすら謝るシグファリスを、僕は切々となじった。
「優しくするって、言ったくせに……嘘つき……」
あられもない声を出しすぎて、喋るだけで喉が痛んだ。
元々体力はない方だった。それでも辺境を旅するようになってからは僕なりにたくましくなったし、少しは成長して丈夫になってきたと思っていたのに。ささやかに積み上げてきた僕の自信を、シグファリスはたった一晩で全部砕いて更地にしてしまった。
「頼む、泣かないでくれ……」
はらはらと涙を流す僕に、シグファリスはこれまでにないほどうろたえていた。無類の力を秘めた光の加護も、こんな時はまるで役に立たない。
ふたりで旅をするようになってからは、いつだってシグファリスが僕の面倒を見ていてくれていたのだが、この時ばかりは従僕よりも腰を低くして、ことさら入念に世話をした。
僕の体は丁重に拭き清められ、真新しい衣服に包まれている。でもその下は惨憺たる有様だ。身体中に、花びらがくっついているみたいに口付けの跡が残っている。それどころか、歯形まで。
「……初めてだったのに、ひどい……あんなに、何度も……」
「そりゃアリスティド兄様が可愛すぎるのが悪いんじゃねえか……」
「ふええ」
「ぐ……! ごめん、ごめんなさい、俺が全部悪いです……!」
平身低頭。僕の涙に滅法弱いシグファリスは、文字通り床に額を擦り付けて謝る。
――まあ、嘘泣きなのだが。
手に握り込んで隠した小瓶から化粧水をこぼしているだけ。これもシグファリスが僕のために用意してくれた美容品であるのだか、こんな風に使う日が来るとは思わなかった。
「あああ……アリスティド兄様、もう、次は、絶対本当に優しくするし、絶対泣かせないから……どうか、許してくれ……」
本当はもうとっくに許しているし、シグファリスに土下座などさせたくはないのだけれど。でも、今は徹底的に反省してもらわねば。
――これからずっと、二人で生きていくのだから。加減を覚えてもらわなくては、僕の体が持たない。
シグファリスに幸せになってもらいたい。でも、罪を抱えた僕までもがのうのうと幸福に浸ることには抵抗がある。
それでも。歪んでいても、不恰好でも、ようやくたどり着いた未来を、今は受け入れようと思う。
ここからまた、新しい物語が生まれるはずだから。
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最後までお読みいただきありがとうございました!
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素敵なお話ありがとうございました!
あわよくばエピローグ後の彼らの旅も見てみたいなんて…(欲張り)
なんてうれしいお言葉!最後までお読みくださってありがとうございました!
彼らの旅はきっとこれからも一波乱あったりなかったりすると思うので、何か考え付いたらおまけエピソードを書いてみます。
ご感想ありがとうございました!
鉄面皮だと思ってるのは自分だけな褒め上手・育て上手の身体の柔らかいお兄さま……序盤の拷問シーンではいやここからどうBLに!?ラブ!?とハラハラしつつも面白くて一気に読んでしまいました最初からラブだった 素敵な物語をありがとうございました!
お読みいただきありがとうございます!
色々大変なお話でしたが、結果的にラブに着地できてよかったです。お兄ちゃんの身体の柔らかさを今後のイチャラブに活かしてほしいと思います(笑)
ご感想くださってありがとうございました!