【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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プロローグ

03 能力開花

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 俺の中に眠っていた能力に気づいたのは、客の相手をするようになってしばらくしてから。酔客に無理やり犯されそうになったときのことだった。
 高級娼館には細かいルールがある。幼い見習いに手を出すことは禁じられているし、相手が一人前の男娼であってもすぐに関係を持てるわけではない。何度か通い詰めて馴染になってからようやくお楽しみにこぎつけることができる。
 にもかかわらず、ルール無用で襲い掛かって来る輩もいる。

「いやっ、やめてください……!」
「何を言う、男娼風情がもったいぶりおって。この私が情けをかけてやろうというのだ、大人しく股を開け!」

 こういうピンチのとき、男娼は無力だ。下手に抵抗して顔に怪我でもさせられたら仕事に差し支える。事が済んだら娼館のおかみさんにチクって賠償金を巻き上げればいい。
 自分にそう言い聞かせながら力を抜くと、俺にのしかかった髭面の男は酒臭い息を吐きながらにやりと嗤った。身なりからして貴族なんだろうが、その性根は死体の浮かぶドブ川よりも汚らしい。
 まあでも慣れてるのだ俺は。理不尽な目には散々遭ってきた。だからこの程度、大したことない。
 ――大したことないけど。悔しくないわけじゃない。
 前世でも虐げられて。生まれ変わってもこの仕打ちなんて。
 どうして俺はこんなにも無力なんだ。せめて俺にも魔法が使えたら、こんなクソ野郎、燃やしてやるのに。
 そう思った瞬間、男の顔面が火を噴いた。

「ぐわぁああああッ!?」

 のたうち回る男の叫び声に、娼館に雇われた用心棒たちが駆け付ける。髭面の男は顔面に大やけどを負って気絶したものの、命に別状はなかった。
 娼館のおかみさんに事情を聞かれた俺は、見た通りのことを話した。
 突然お客様が発火した。
 それだけでおかみさんも用心棒たちも、娼館の外で待機していた髭男の従者すら納得した。

「おお、なんと……旦那様が魔法を暴発させるとは……」
「あらまあ、さぞかし名のある御方でも魔法を暴発させることなどあるのですねぇ。燃え上がるのはアッチの方だけにしておいていただきたいものです」
「誠に……申し訳なく……」

 嫌味ったらしく詰るおかみさんに、普段は偉そうにしている従者も平身低頭だった。
 魔法を暴発させることは貴族にとってよほどの恥らしい。従者は「このことはどうにかご内密に」と口止めし、おかみさんに金貨の詰まった袋を渡して髭男を連れ帰った。
 全部丸く収めたあとで、おかみさんは俺に向き直った。

「とんだ災難だったねニール、怪我はなかったかい?」
「……あ、はい、俺は無事です」
「それならよかった。今日は疲れたろ、もう休んでいいよ」
「そうさせてもらいます。あと口止め料、いっぱい貰ってたでしょ。当事者の俺にも分け前をください」

 ただで転ぶな。図太いぐらいじゃないと男娼は務まらないと教えてくれたのはおかみさんだ。ふてぶてしい態度の俺に、おかみさんはにやっと笑い「こんなときでも抜け目ないね」と言って金貨を三枚くれた。

 俺は一刻も早くひとりになりたくて早めに寝床へ潜り込んだ。毛布を頭からかぶっていても、胸の高鳴りが外まで聞こえてしまいそうだった。
 胸を抑えながら、これまで魔法について聞きかじったことを思い出す。
 魔法は貴族だけが使える力。ごく稀に暴発させて自爆してしまうこともあるが、基本的に発動させた魔法は術者本人を傷つけることはない。
 暴力髭男の顔面が燃えたとき、至近距離にいたにもかかわらず、俺は火傷を負わなかった。それどころか熱くもなんともなかった。髪の毛一本すら燃えていない。
 ――つまり。あれは暴発じゃなくて、俺が髭男の顔面目がけて魔法を発動させたということになる。



 翌日。俺は早めに寝床を飛び出して、周囲に人気がないことを確かめてから浴室で魔法の発動を試した。

「……火! 燃えろ! ファイヤー!」

 色々ポーズをつけたりしながら試してみたけれど、浴室に俺の声がこだまするだけで、なにも起こらない。
 もしかしたら十歳を過ぎてからも魔力に目覚めることがあるのではないかと期待したけれど、俺の勘違いだったのだろうか。
 浴槽の淵に座り、手で冷たい水をパシャパシャ波打たせながら昨日のことを思い返す。
 あのときは、「俺にも魔法が使えたら」と強く念じた。
 そういえば前世でも同じことを考えたことがあった。アルティメット・ドラゴンというタイトルのRPGゲームをプレイして、主人公が初めて魔法を覚えたときに。
 その魔法は。

「ファイアボール」

 呟いてみると、水の中で何かが爆ぜたように、ごぼりと勢いよく水が沸き立った。

「うっわ!?」

 慌てて手を引っ込める。浴槽の水は湯になり、もわもわと湯気をたてていた。

「で、できた……!」

 やはり、昨日の発火は暴発ではなく、俺自身が放った魔法だったのだ。喜びを噛み締める前に、偶然でもまぐれでもないことを確かめるため、もう一度魔法を発動させる。
 今度は水の中ではなく、空中に手をかざす。頭の中で「ファイアボール」と強く念じると、手のひらに野球ボールほどのサイズの火球が現れた。指で触れても熱くはない。思い切って火球を浴槽の中に投げつけると、浴槽の湯がジュワアアと音を立てて沸騰した。
 ――間違いない。俺にも、魔法が使える。
 湯煙に包まれながら感動に打ち震える。しばらく動けずに立ち尽くしていたけれど、湯気で体が湿る頃には疑問が湧き始めた。
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