【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

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三章

49 魂の色

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 ややこしいので転生の話は後回しにして、俺はこれまでのことを一通り話した。
 魔力なしで生まれたために軟禁され、虐待され、殺されかけたこと。生き延びて、新たな能力に目覚めたこと。その能力を活かして、俺を虐げた家族に復讐を誓ったこと。
 そしてようやく俺の兄を見つけた。それがアーサー王子だ。

「――そうか。それほどまでの事情があったとは……」

 すべて聞き終えたクロヴィスは、腕組みして目を閉じた。その表情は険しい。
 無理もない。俺の兄であるアーサーはミッドランドの王太子。父はミッドランドの現国王。そしてミッドランド国王の末弟であるクロヴィスは、俺の叔父ということになる。
 俺が復讐する相手は王子。そして王。王家への謀反で処罰されてもおかしくない。
 しばらく思考に沈み込んでいたクロヴィスだったが、やがて目を開き、重々しく口を開いた。

「知らぬことであったとはいえ、甥に手を出してしまったとは……」
「あっ、そこ気にしちゃうんですね」

 客の中には「パパ」とか「お兄ちゃん」とか呼ぶよう命令してくる奴もいたので、その辺の感覚はちょっと麻痺していた。
 しかし俺を「甥」と呼ぶということは。

「俺の話を信じてくれるんですか?」
「……国王陛下の御子が双子であったという噂は聞いていた。そのうちの片方が、魔力を持たずに生まれてきたということも」

 クロヴィスは腕組みを解いてティーカップに手をつけた。紅茶で喉を潤してから再び口を開く。
 
「ニールが持つ、人や魔物から能力を得られるという不思議な力も、王家の血筋だとすれば納得がいく。現国王である兄上は予言者であるし、アーサー殿下も魔物を召喚するという特殊な能力を持っている」

 俺の特性についてどう説明しようかと思っていたが、クロヴィスは腑に落ちたようだった。それに思いがけずアーサーのチート能力についても知ることができた。

「国王陛下と王太子殿下に敵対し、仇なす――その意味を分かった上で、この私に打ち明けたのだな」
「はい。それに、今はまだ打ち明けられない事案も抱えています」

 俺とアーサーが転生者であることや、この世界の成り立ち。神を倒し、この世界の輪廻を断ち切ろうとしていることなどについては後回しだ。
 ――俺の最優先事項は復讐。
 俺は立ち上がり、クロヴィスの足元に膝をついた。
 
「俺の望みは、復讐を果たすことだけです。どんな手も使うつもりでいますが……できることならば、無関係な人々に累が及ぶことは避けたい。そのために、クロヴィス様のお力添えをいただきたく存じます」
「――私が断ったら?」
「尻尾を巻いて逃げます。今は逃げても、どのような手を使おうと復讐は遂げます」

 俺の言葉に、クロヴィスは苦々しくため息をついた。
 王族に刃を向ける。そのために力を貸せと言われているのだ。軽はずみに請け合えるはずもないだろう。
 反逆者として今この場で斬り捨てられてもおかしくはない。しかしクロヴィスのことを調べた限りでは、俺の味方になってくれる確率のほうが高い。
 平民から絶大な人気を誇る閃光騎士団総長。魔力がない者を差別せず、奴隷制を撤廃しようと働きかけているため、王侯貴族から煙たがられている。ブルードラゴン討伐という危険な任務に送り込まれたのもそのせいだと耳にした。
 現国王の兄弟は、側室の子であるクロヴィス以外、みな不審死を遂げている。クロヴィスは騎士として王に忠誠を誓い、死地へも忠実に向かうからこそ暗殺を免れている。
 しばらく沈黙していたクロヴィスだったが、やがてテーブルの上に置いていた指輪を手にして、俺に差し出した。

「これは君が持っていてくれ」
「――本当に良いのですか?」

 俺の手に指輪を握らせて、クロヴィスは俺を隣に座らせた。

「ニール。私は君を信頼している。それは何も恩義や劣情に流されているわけではない。これまでの君の……商人のニールと冒険者イスミの活躍に依るものだ」

 俺がクロヴィスのことを調べたように、当然クロヴィスもニールとイスミについて調べていた。
 二人の足取りは偶然とは言い難いほど一致している。
 イスミには武勇の他に、奴隷売買の噂がつきまとっていた。しかし調べを進めると、イスミは各地で死にぞこないの奴隷を買い集めては、回復させて孤児院や養護院に送り込んでいた。預けた後も定期的に寄付金を納めている形跡がある。
 そしてニールは商人として孤児たちに素材の収集や天然石の研磨などの仕事を依頼し、手に職をつけさせて自立を促していた。

「まさか、指輪をくださった時点でそこまで調べを……!?」
「いや、あのときは直感に突き動かされていた」

 クロヴィスは「その直感に間違いはなかったわけだが」と付け足して笑みを浮かべた。

「復讐に身をやつそうとも、君は決して悪しき人間ではない。魂の輝きがそう告げている。イスミに指輪を預けた後で身元の調査をさせたのは、私の直感が間違いではないという裏付けがほしかっただけだ」
「……俺は別に、善人じゃないんですよ。捨てられた奴隷を助けたり寄付をしたりしているのは、ただの自己満足です。何の解決にもならない」

 信頼のこもったクロヴィスの眼差しから逃げるように、俺は俯いた。
 俺の手で救える奴隷なんてほんの一握りだ。どれだけあがいても、すべての奴隷を救うことなどできない。でもそれが、目の前にいる、助けられる命を見捨てていいという理由にはならない。
 救いを求める手を握るのは、そうすることで俺自身が救われた気持ちになれるからだ。全部俺自身のため。

「元々王族の生まれだったとしても、俺自身はただの商人で、冒険者で……大したことはできない。俺の力では、魔力を持たずに生まれてきた子供が殺されることも、くそったれの奴隷制度も、無くすことはできないんです」

 かつて、俺と同じ時期に男娼をしていたアルルという青年は、俺が娼館を巣立ってからすぐに、客に殺されてしまった。その他の仲間たちも売られたり、捨てられたり。俺には何もできなかった。
 俯いた顔を上げて、クロヴィスを見つめる。

「俺には差別構造をなくすことはできないし、奴隷制度も変えられない。――でも、あなたなら」

 俺が国王と王太子を排除したなら、次に王位につくのはクロヴィスだ。
 重い決断を強いている。しかし、クロヴィスの沈黙はそう長くなかった。

「――私も腹を括らねばな」

 それが誓いの印であるように、クロヴィスは再び俺の手を取った。

「本来ならば、私は叔父として君の復讐を諫めねばならぬ立場ではあるのだが……国王陛下やアーサー殿下のやりようには、私も思うところがある。それに、アーサー殿下の魂は――ひどく、邪悪に感じられる」

 ――例えようがないほど醜悪な色。クロヴィスはアーサーの魂の色をそう評して、眉間に皺を寄せた。
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