【本編完結】二度も殺されたくないので最強魔王になりました

ましろはるき

文字の大きさ
51 / 96
三章

51 レナードという聖騎士

しおりを挟む
 それからもクロヴィスのもとには様々な貴族が集まってきた。王族であるクロヴィスのご機嫌うかがいに加えて、冒険者イスミという存在が客寄せパンダ的な役割を果たしたのだろう。俺はクロヴィスの面目を潰さないよう挨拶に励んだ。

 試合という名の虐殺が一通り終わると、貴族たちは闘技場に設えられたサロンへと移動していった。中に入れるのは貴族籍を持つ者の中でも特に身分の高い者だけ。俺は従者や護衛のために用意された待機室から抜け出して廊下に出た。
 黄昏時。輝く夕陽が廊下にも差し込んでいる。俺が景色を眺めていた時間はそう長くない。待ち合わせをしていたわけでもないのに、レオは迷わず俺のもとへやってきた。
 険しい顔立ちのレオは俺の間合いにまで接近して睨みつけた。
 貴族たちと挨拶を交わしている間も、レオの射殺すような視線をずっと感じていた。
 ――いや、レオではない。聖騎士レナード。
 アルティメット・ドラゴンで一番最初にアーサーの仲間になるキャラクターだ。防御力が高く、勇者の盾となって戦う忠臣。
 しばらく睨み合ってから、レナードは重々しく口を開いた。

「貴様、なんのつもりで王都にまで潜り込んだ」
「おやおや、久しぶりの再会だというのに随分なご挨拶じゃないか」

 真剣なレナードを茶化すように軽く受ける。決して和らぐことのない鋭い眼差しに、俺は肩をすくめた。

「なに、クロヴィス閣下のお目にとまってね。可愛がっていただいているだけさ」
「何をいけしゃあしゃあと! 魔物の分際でクロヴィス閣下に取り入るとは……!」
「この私が魔物? 何を根拠に?」
「魔物の技を使っていたではないか! それに、アリスとソフィの遺体を――」

 そこまで言いかけて、レナードは唾棄するように顔ごと俺から目を背けた。
 レッドドラゴンが放った炎で焼かれた二人。その遺体を、俺は貪った。それを目撃した者からすれば、俺は魔物にしか見えないだろう。
 再び俺に向き直ったレナードの眼には、あの日の炎が未だ宿っているかのように、憎悪で燃えている。
 
「邪悪なものは討たねばならない。この世界を守るために。それが勇者たるアーサー殿下にお仕えする私の務めだ」
「ほお、大層な志だ。魔物に奴隷を虐殺させて楽しめる素晴らしい世界を守るために、せいぜい頑張るといい」
「私とて望んでここにいるわけでは……っ」

 最後まで言い切らないうちにレナードは口をつぐんだ。レナードは王太子であるアーサーの家臣。正義感あふれるレナードは闘技場の存在をよく思ってはいないだろう。だが立場上それを口にすることはできない。そんな境遇に嫌気がさして、出奔して冒険者をしていたのかもしれない。そうして邪悪なイスミに出会い――自らの力量不足を悟り、勇者の力にすがった。
 苦々しく口をつぐんだままのレナードを、俺は低い声で威嚇する。
 
「忘れてはいないだろうな。私のことを口外すればどうなるか」
「――わかっている」

 レナードが歯を食いしばる音が聞こえてくるようだった。
 しばらく俯いていたレナードだったが、やがて顔を上げて――なんともいえない表情を俺に向けた。なんだ? 本当になんとも言えない、すっとぼけた顔だ。

「あの、だな。身内は大切だが……別に、あの、ニ……平民の商人のことなどは、もうどうでもいいが」

 平民の商人、と言う前に、明らかに声が震えた。口にしかけたのは、間違いなくニールの名だ。

「……確か、ニールとかいったな」
「そ、そんな名前だったかな。気まぐれに相手をした平民のことなど、もう忘れたから……私を脅す材料にはならないぞ」

 ――いや。いやいやいや。そんなすっとぼけた顔で、棒読みで目を泳がせて言われても! 嘘が下手にも程があるだろ! 全然忘れてないじゃん! めちゃくちゃニールに未練あるじゃん!!

「それに、ニールだって、きっと私のことなど忘れているだろうし……」

 今度は肩を落としてしゅんとする。これは演技ではなく本心のようだった。
 ともかくレナードの意図はわかった。イスミの脅威からニールを守るために嘘をついているのだ。俺はレナードの嘘の下手さに動揺しながらもうなずいた。

「ま……まあ、私とて、たかが平民の動向などいちいち気にしていられないからな……あんな者はどうでもいい」
「そう! そうだ、どうでもいいんだ」

 ぱっと顔を輝かせるレナードに「あからさまにほっとした顔をするなよ!」と怒鳴りたいのをなんとか堪える。普通だったらこんな下手くそな嘘、通用しないからな! このバカ! バカバカバカ!
 そんな俺の気も知らず、レナードは咳払いをして再び俺を睨みつけた。

「アーサー殿下は悪を滅ぼす勇者と予言されたお方だ。いずれ貴様を倒すために立ち上がるだろう」

 ――覚悟しておくといい。それだけ言い残して去っていくレナードの背中を見送る。レナードの髪が夕陽を受けてオレンジ色にきらめいている。柱の影にいる俺には、光は届かない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界魔物大図鑑 転生したら魔物使いとかいう職業になった俺は、とりあえず魔物を育てながら図鑑的なモノを作る事にしました

おーるぼん
ファンタジー
主人公は俺、43歳独身久保田トシオだ。 人生に疲れて自ら命を絶とうとしていた所、それに失敗(というか妨害された)して異世界に辿り着いた。 最初は夢かと思っていたこの世界だが、どうやらそうではなかったらしい、しかも俺は魔物使いとか言う就いた覚えもない職業になっていた。 おまけにそれが判明したと同時に雑魚魔物使いだと罵倒される始末……随分とふざけた世界である。 だが……ここは現実の世界なんかよりもずっと面白い。 俺はこの世界で仲間たちと共に生きていこうと思う。 これは、そんなしがない中年である俺が四苦八苦しながらもセカンドライフを楽しんでいるだけの物語である。 ……分かっている、『図鑑要素が全くないじゃないか!』と言いたいんだろう? そこは勘弁してほしい、だってこれから俺が作り始めるんだから。 ※他サイト様にも同時掲載しています。

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

秘匿された第十王子は悪態をつく

なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。 第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。 第十王子の姿を知る者はほとんどいない。 後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。 秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。 ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。 少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。 ノアが秘匿される理由。 十人の妃。 ユリウスを知る渡り人のマホ。 二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

辺境伯は嵌められた元令息から目が離せない

コムギ
BL
冤罪により、辺境の地へ追いやられた元侯爵令息ユベール。 だが彼は、あまりのことに気を病んで――はいなかった。 野山を駆け回り、虫を捕まえ、草花をスケッチし、のんびり釣りをする。 それはすべて、侯爵家の令息として縛られていた頃には許されなかった自由だった。 そんな生活から一年。 冤罪を証明できそうだと、幼なじみの王太子から報せが届く。 ――王都へ戻れる。 それは同時に、あの窮屈で冷たい場所へ戻るということでもあった。 迷うユベールの前に現れたのは、これまで静かに見守るだけだった辺境伯ラドヴァン。 「ならば、ずっとここにいろ」 「俺と婚約すればいい」 不器用に、しかし真っ直ぐに差し伸べられた手。 優しく(時に暑苦しく)包囲してくる辺境伯と、元侯爵令息の恋物語。 ※他サイトにも掲載しています。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

その捕虜は牢屋から離れたくない

さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。 というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

処理中です...