救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
8 / 16

第8話 マール、はじめての採取依頼

しおりを挟む

 朝食のあと、レグルス隊はその足でギルドへ向かった。

 街の中央通りは朝市の活気に満ち、焼き魚の匂いや香草の香りが風に混じって流れてくる。マールはきょろきょろと首を動かしながら、小さな靴で一生懸命について歩いた。


「今日受けるのは、軽い採取依頼だ」

 レグルスの言葉に、マールの目がぱちっと輝く。

「たべられる草?」
「……いや、食べるためではなく薬を作るための草だ。絶対にその場で食べるなよ」
「う、うん……たぶん!」

 なんとなく後ろの三人が「あの反応は絶対食べるな……」という顔をしていたが、今は見なかったことにされた。


 ギルドの扉を押すと、今日も傭兵たちのざわめきでいっぱいだった。依頼ボードの前でわいわい騒ぐ者、戦利品を自慢する者、受付の女性に必死にアピールする者。

「お疲れ様です、レグルス隊のみなさ――っ!?」

 受付の女性は、レグルスの背後からひょこっと顔を出した“ちっちゃい男の子”を見つけて固まった。

 レグルス隊が帰還した際もマールがいたはずだが、今は身だしなみも整っているので別人に見えているらしい。

「え、えっ……かわ……いえ、こほん。どちらのお子さんです?」
「拾った」

 レグルスが真顔で言い、後ろの三人が(説明放棄した!)と内心つっこんだ。

「それで、依頼ボードの一番右下にある依頼なのだが」
「(拾ったってどういうことなの……)あぁ、あの採取依頼ですね? 薬草“シソバジル”の収集は、傭兵見習いさんのお小遣い稼ぎ用でして。街の小さい子でも入れるほど森の浅い場所ですし、危険度は低いですよ」

 そう言いつつも、受付嬢はまだマールを凝視している。

「……本当に男の子? 髪も目もこんなに綺麗で……」
「き、きれい……っ?」

 マールは固まった。褒められることに慣れていないせいで、顔が真っ赤になる。レグルスはさりげなくマールの前に立ち、受付嬢の視線を遮った。

「この依頼を受ける。場所は把握しているので大丈夫だ」
「あっ……は、はい! いってらっしゃいませ!」

 受付嬢がまだ名残惜しそうにマールの姿を追う中、レグルス隊はギルドを後にした。


 街の喧騒が遠ざかり、ほどなくして木々の影が地面を覆い始める。魔の森といっても、入り口付近は明るい日差しが差し込み、鳥の声すら聞こえる――だが、その奥に広がる危険を知っているのは大人たちだけだった。


 アッポロが前に出て、太い腕で茂みをがさりと押しのける。
「あぁ~、腹が減った」

 フリッツは低い姿勢で地面を確認し、罠や魔獣の痕跡がないか確かめる。
「いや、朝メシを食べたばかりだろ!?」

 ドクペインは木々の葉を一枚ずつ見て、毒草の位置取りを淡々と説明していく。
「ならこの毒草を味見してみませんかアッポロ。三日三晩、下痢で苦しみますが」


 マールはというと――小さな靴でとてとて歩きながら、レグルスの隣にぴたりと寄り添っていた。胸の奥で“初めての依頼”への期待がぽわぽわ膨らんでいる。

「シソバジルはコイツだ。紫色の葉で、触ると少し冷たい。匂いを嗅げばすぐ分かるはずだ」

 レグルスはしゃがみ込んで、そっと葉の特徴を教える。その大きな体に影が落ち、マールは目をぱちぱちさせながら真剣に聞いていた。

 こくこくと頷き――しかし次の瞬間、目がきらりと光る。

(……食べたら、どんな味かな……)

 完全に別方向へ走り出した思考に、背後の三人は同時に顔を引きつらせた。

(((絶対食べる気だ……)))


 魔の森に生えるものはすべて毒。もちろんシソバジルも例外ではない。

 だが初心者向けの採取依頼でもあり、“根を土から抜かず、茎を切る”という正しい手順さえ守れば安全だ。逆に根を引き抜くと、葉っぱがぷくぅっと膨らんで――ぼんっ、と毒液を撒き散らす。


 そんな恐ろしい仕様を聞かされつつ、マールはきらきらと目を輝かせたまま、紫色の葉にそっと指を伸ばした。

「……きれい……」

 朝の光に透けるそれは、毒々しさよりも宝石のような美しさをまとっていた。小さく息をのんで、地面近くの茎を“ちょきん”とハサミで丁寧に切り取る。

 そして両手で大事に抱えて、レグルスの前に差し出した。

「レグルスおじさん、これ……!」

「……よし。よくできたな」

 短いが、まっすぐな褒め言葉。マールの顔がぱあっと花開いたように明るくなる。

「えへへ……!」

 その後も――

「レグルスおじさん! これもシソバジル?」
「それは違う。触るな。毒が強い」

「これは?」
「それは正解だ。切り取れ」

「これは?」
「……ただの雑草だ」

 レグルスのもとへちょこちょこ走っては、確認して、また走り去り、また戻ってくる。その健気さに、アッポロたちの表情はどんどんゆるんでいった。


「なんか……癒されるっすね」
「隊長の声がやわらかい……!」
「尊い……」

 やがて、かごいっぱいにシソバジルが集まった。マールは胸をぐっと張り、誇らしげに宣言する。

「マール、がんばったよ!」

 大人たちは自然と拍手した。
 レグルスも、ほんのわずかに口元を緩める。

「……ああ。よくやった」

 その一言で、マールの小さな胸は達成感いっぱいに満たされた。


 ◆

 採取を終えた森の帰り道。
 マールは抱えたかごを胸の前でぎゅっと持ち、鼻歌まじりにとてとて歩いていた。足取りは軽く、頬はほんのり赤い。

「マール、できる子!」

 跳ねるように言う声に、アッポロたちは思わず目を細める。

「調子いいな、ちび!」
「今日は本当によくやったっすよ」
「えぇ、とても有意義な採取でした……ふふ」

 ただ一人、レグルスだけは険しい視線を周囲に巡らせていた。

「……気を抜くな。森は帰るまでが仕事だ」
「はぁい!」

 返事は元気よく。しかし、心が浮き立っていたマールの視線は、すでに次の“紫色の葉っぱ”を探して、キョロキョロと泳ぎ始めていた。

 そんなとき――


「あっ、あっちにもシソバジルがあるよ!」
「おい、待て!」

 レグルスの声が届くより早く、マールはぱたぱたと草むらへ駆けていく。だが、そこで草陰がぴくりと震えた。

「えっ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

【完結】妹は庶子、文句があるか? 常識なんてぶっ飛ばせ!

青空一夏
ファンタジー
(ざまぁ×癒し×溺愛) 庶子として公爵家に引き取られたアメリアは、 王立学園で冷たい視線に晒されながらも、ほんの少しの希望を胸に通っていた。 ――だが、彼女はまだ知らなかった。 「庶子」の立場が、どれほど理不尽な扱いを受けるものかを。 心が折れかけたそのとき。 彼女を迎えに現れたのは、兄――オルディアーク公爵、レオニルだった。 「大丈夫。……次は、俺が一緒に通うから」 妹を守るためなら、学園にだって入る! 冷酷なはずの公爵閣下は、妹にだけとことん甘くて最強です。 ※兄が妹を溺愛するお話しです。 ※ざまぁはありますが、それがメインではありません。 ※某サイトコンテスト用なので、いつもと少し雰囲気が違いますが、楽しんでいただけたら嬉しいです。

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

愛を騙るな

篠月珪霞
恋愛
「王妃よ、そなた一体何が不満だというのだ」 「………」 「贅を尽くした食事、ドレス、宝石、アクセサリー、部屋の調度も最高品質のもの。王妃という地位も用意した。およそ世の女性が望むものすべてを手に入れているというのに、何が不満だというのだ!」 王妃は表情を変えない。何を言っても宥めてもすかしても脅しても変わらない王妃に、苛立った王は声を荒げる。 「何とか言わぬか! 不敬だぞ!」 「……でしたら、牢に入れるなり、処罰するなりお好きに」 「い、いや、それはできぬ」 「何故? 陛下の望むままなさればよろしい」 「余は、そなたを愛しているのだ。愛するものにそのような仕打ち、到底考えられぬ」 途端、王妃の嘲る笑い声が響く。 「畜生にも劣る陛下が、愛を騙るなどおこがましいですわね」

処理中です...