救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
15 / 59

第15話 新たな幼女レティシア登場


 受付の女性は、まだ上機嫌の余韻を残したまま書類をまとめており、その視線は折に触れて、名残惜しそうにマールの方へと滑っていた。

「約束ですからね。絶対ですよ」

 念を押すような声に、マールは少しだけ照れたように、小さく頷く。

「……うん」

 そのときだった。

 ――バン!

 ギルドの扉が、乱暴な音を立てて開く。
 ざわめきが、一瞬で止んだ。


 現れたのは、ひとりの幼女だった。

 年の頃は、マールとそう変わらない。
 だが、纏っているものがまるで違う。

 高級素材の軽装鎧。
 魔力加工が施された装備品。
 どれも実用性と格式を兼ね備え、無駄がない。

 靴底には、土汚れ一つ付いていなかった。
 まるで戦場など歩いていないかのような清潔さ。

 額には、小さな角。
 その背後には、はっきりと感じ取れる――龍の気配。

 そして、ギルドの外。
 扉の向こうには、無造作に積み上げられたポイズンフロッグの死体の山が見えていた。

 十体以上。
 どれも急所を正確に貫かれ、一撃で仕留められた痕跡。


「……おい、あれ」
「龍帝国の……」

 誰も、その名を口にしない。
 だが全員が理解した。

 ――格が違う。


 幼女は周囲を一瞥する。
 そこに映るのは、興味とも侮蔑ともつかない無関心。

 そして、まっすぐ受付へと向かった。
 列など、最初から存在しないかのように。
 ずかずかと歩き、割り込む。

 その拍子に――

「あ……」

 受付前にいたマールの肩が押され、身体がよろけた。
 小さな体が、床に崩れる。

 一瞬。
 ギルドの空気が、凍りついた。

 次の瞬間、レグルスが一歩前に出る。
 低く、抑えた声。

「おい、気をつけろ。集会所でのゴタゴタはご法度だぞ」

 だが、幼女の尊大な態度は変わらない。
 ちらりとマールを見下ろし――炎のように真っ赤な長髪をかきあげながら鼻で笑った。

「ふん。チビ過ぎて視界に入らなかっただけよ」

 レグルスの気配が、鋭くなる。その場の全員が「お前だってチビだろ!」と内心で思っているが、誰もそれを口にはしない。


 だがその直後。
 幼女は、面白いものでも見つけたかのように目を細めた。

「って、誰かと思えばレグルスじゃない」

 何倍も年の離れた男の名を、当然のように呼ぶ。

「アンタのことは、パパから聞いてるわ。実力は認めてるって」

 一拍。

「……過去に何かあったみたいだけど、こんなところで燻ってるなんて、がっかりね」

 周囲が、息を呑む。
 かつてレグルスが所属していたのは、王国の軍だ。退役軍人をどうにかできるのは、軍でもかなりの上層か、それ以上の――。

 レグルスは、表情を変えない。


「……俺は、今の立場で十分だ」

 幼女は肩をすくめる。

「ふーん。まあいいわ」

 それだけ言うと、幼女は受付から報酬を受け取り、踵を返した。


 小さな背中が扉の向こうへ消える。
 それを合図にしたように、止まっていた声が戻り、ギルドの中にざわめきが広がった。

「……なんだ、今の」
「見たか? あのポイズンフロッグの数……」

 抑えた声が、周囲から漏れてくる。
 レグルスは短く息を吐き、マールの肩にそっと手を置いた。


「大丈夫か」

 マールはこくんと頷く。転ばされたことも、言われた言葉も、特に気にしている様子はなかった。

 一行はギルド内の一角へ移動した。レグルス隊の面々が自然と集まり、マールもその輪の中に座らせる。最初に口を開いたのは、レグルスだった。

「……さっきの子だけどな」

 声を落とし、続ける。

「名前はレティシアといって……実は龍帝国を治める“龍帝”の末娘なんだ」

 アッポロが腕を組む。
「純血に近い高位龍人だ」

 ドクペインが淡々と補足する。
「最近このカルデサックの街にやってきたようですが、ベテランでも対処が難しい魔獣を、単独で制圧しています」

 マールは黙って話を聞いていた。
 膝の上で手を重ね、視線を上げたまま耳を傾けている。

 フリッツが短く言った。
「だけど、性格に難があるんすよねぇ」

 ドクペインは事実を並べる。
「龍人は実力至上主義。つまり強ければ何を言っても許される。結果、レティシア様はどんどんと我儘な子に……」

 一瞬、沈黙が落ちた。

 レグルスが低い声で告げる。
「そういうわけで、もし見かけてもマールはあまり関わらない方がいいだろう」

 マールは、その言葉にも反応を示さなかった。しばらく何かを考えていたようだったが、ぽつりと口を開いた。


「……すごい」

 全員の視線が集まった。

 マールは、少しだけ視線を落とす。
 床を見つめたまま、ゆっくりと言葉を選んだ。

「あんなに、たくさん……ひとりで、たおした」

 それは結果ではなく、そこへ至る過程を思い浮かべての言葉だった。

(きっと……いっぱい、頑張ったんだ。誰かに、言われたからじゃなくて……だからあんなに、自信満々でいられる)

 小さな拳が、膝の上でぎゅっと握られる。

「マールと同い年なのに、自分で決めて、自分の足で……進んでる」

 顔を上げる。
 その瞳には、怯えはなかった。


「マール……ああいうの、できない。いつも……ながされて、いわれたとおりで……」

 一拍置いて、はっきりと続けた。

「だから……あんなふうに、つよくなりたい」

 少し照れたように、でも誤魔化さずに笑う。
 新たな目標をみつけた幼女を見て、周囲の隊員たちは互いに顔を見合わせた。

「あぁ、なれるさ。マールなら」
「ほんとに? ばばーんって、ポイズンフロッグも倒せる?」
「うーん、同じようには無理かもだが、結界をもっとうまく使えるようになったらできるかもな?」

 そんな会話を交わすレグルスとマール。はたから見たら完全に親子である。集会所にいる他の傭兵隊が物珍しそうな目で眺めているが、当の本人たちは気づいていない。


「それと……マール、あの子と友達に、なりたい」

 その場の空気が止まった。
 フリッツが額を押さえる。

「……マジか? さっきあんなことされて、仲良くなりたいと思えるか普通?」

 ドクペインは小さく息を吐いた。

「そういえばこの子も大概、変でしたねそういえば」

 レグルスだけが、マールを見ていた。彼女の中にあるのが、負の感情ではないことを、すぐに理解した。

 他人に与えられた力ではなく、自分で選び、積み重ねてきた強さへの憧れ。だからこそ、レティシアの強さの根源を知りたい。それが友達になりたい理由の一つなのだろう。


(また、会えるかな?)

 ギルドのざわめきの中、マールはもう一度、扉の方を見る。

 そこにレティシアの姿はない。
 だが彼女との縁がこれきりだとは、どうしても思えないマールなのであった。


感想 5

あなたにおすすめの小説

追放された用済み聖女ですが、辺境の最強竜騎士に拾われて絶品料理で胃袋と心を掴んだら、常軌を逸した溺愛が始まりました。

黒崎隼人
恋愛
ある日突然、異世界に召喚された平凡な会社員のアカリ。 しかし「魔力がない」と用済み扱いされ、極寒の辺境へと追放されてしまう。 雪原で死を覚悟した彼女を拾ったのは、辺境を治める最強の竜騎士団団長・クロードと、傷ついたもふもふの幻獣ルルだった。 恩返しのためにアカリが余り物で作った温かいスープ。 それはなんと、食べた者の魔力や傷を劇的に回復させる「真の聖女」の力が宿った奇跡の料理だった! 「お前を、俺の砦から外へ出す気は永遠にない」 彼女の料理とその温かさに救われたクロードは、かつての氷のように冷酷な姿から一変、アカリに対して常軌を逸した過保護さと不器用な溺愛を見せるようになる。 さらに、彼女の絶品料理の虜になった強面の騎士たちや、甘えん坊の幻獣ルルにも囲まれ、アカリは辺境の砦で誰よりも幸せな日常を手に入れていく。 一方、アカリの力を失った王都は自業自得の危機に陥り、彼女を連れ戻そうとするが…… 「俺の女に近づく者は、王であろうと斬り捨てる」 最強の竜騎士が、国を敵に回してでも彼女を守り抜く! 追放された無自覚チート聖女と、不器用で一途な最強竜騎士の、最高に甘くて美味しい辺境スローライフが幕を開ける!

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

身代わりで怪物と呼ばれる大公に嫁いだら、継子達が離してくれなくなりました。

千紫万紅
恋愛
旅芸人一座の看板歌姫を母に持つヴィオラは12歳で、貴族である父のもとへと捨てられた。 引き取られた先は名門公爵家。 だがそこに彼女の居場所はなく。 継母や異母姉に『 下賎な血が流れている』と冷遇され、やがて『いないもの』として扱われるように。 そんなある日『怪物』と噂されるシューネベルク大公との縁談が公爵に舞い込む。 正妻の娘である姉アンネマリーがそれを拒絶したことで、その役目はヴィオラへと押し付けられた。 王命のもと、姉の身代わりとして嫁ぐことになったヴィオラ。 冷酷で恐ろしい怪物を想像しながら辿り着いた大公城で、彼女を待っていたのは欠陥品とささやかれる継子たち。 そして血に濡れた外套を纏う、美しくも危険な男だった。 誰にも必要とされてこなかったヴィオラ。 けれどなぜか、継子たちは彼女にだけ心を開きはじめて。 冷酷なはずの大公はいつしかヴィオラに執着するようになり―― その想いは、やがて逃げ場のないほどの溺愛へと変わっていくのだった。 カクヨムにも公開を始めました。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 2024年5月 書籍一巻発売 2025年7月 書籍二巻発売 2025年10月 コミカライズ連載開始

転生したらちびっ子になって、空を落ちていた件 〜もふもふたちのお世話はお任せあれ。ついでに悪もやっつけます!〜

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした高橋凛は、お詫びとして理想の世界へ転生することに。しかし気がつけば幼児の姿で、しかも空を落下中だった!? バカ神、あいつまたミスったな!? そう思いながらも、凛はどうすることもできず、空を落ちていく。しかも更なるアクシデントが凛を襲い……。 が、そのアクシデントにより、優しい魔獣に助けられた凛は、少しの間彼の巣で、赤ちゃん魔獣や卵の世話を教わりながら過ごすことに。 やがてその魔獣を通じて侯爵家に迎え入れられると、前世での動物飼育の知識や新たに得た知識、そして凛だけが使える特別な力を活かして、魔獣たちの世話を始めるのだった。 しかし魔獣たちの世話をする中で、時には悪人や悪魔獣と対峙することもあったため、凛は、『魔獣たちは私が守る!!』と決意。入団はできないものの、仮のちびっ子見習い騎士としても頑張り始める。 これは、凛と魔獣たちが織りなす、ほんわかだけど時々ドタバタな、癒しとお世話の物語。

転生した本好き幼女は、冷徹宰相パパのために暗躍します!~どんなピンチも本の世界に入れる『ひみちゅのチート』で解決でしゅ~

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。 ※最終話まで予約投稿済

ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら
ファンタジー
千年の時を孤独に生き、魔法を極めた大魔女。 彼女は唯一の弟子に裏切られ、命を落とした――はずだった。 次に目覚めると、そこは辺境伯家の屋敷。 彼女は、魔力コアが欠損した「落ちこぼれ」の幼女、エルシア(6歳)に転生していた。 「魔力がすぐに切れる? なら、無駄を削ぎ落とせばいいじゃない」 エルシアは前世の膨大な知識を駆使し、省エネ魔法を開発。 サボり魔だが凄腕の騎士を共犯者に仕立て上げ、密かに特訓を開始する。 すべては、今世で初めて知った「家族の温かさ」を守るため。 そして、迫りくる魔物の脅威と、かつての弟子がばら撒いた悪意に立ち向かうため。 「おねえちゃん、すごい!」 可愛い弟デイルと、拾った謎の**黒猫に懐かれながら、最弱の令嬢による最強の領地防衛戦が幕を開ける!