救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
16 / 59

第16話 一方そのころ、王国では②


 王国の主要街道。
 本来であれば、交易馬車が行き交い、人の気配が途切れることのない道だ。


 だが今は違う。
 道の脇には、魔獣の死体がいくつも転がっていた。いずれも鋭い斬撃で急所を断たれた痕があり、討伐からそれほど時間が経っていないことが見て取れる。血はまだ乾ききっていない。

 原因は明白だった。
 王国全体を覆っていた結界に、わずかな乱れが生じている。本来、街道に近づくことのない魔獣が、境界を越えて現れ始めていたのだ。


 白銀の鎧をまとった騎士が、その街道を馬で進んでいた。

 その右手には、まだ血の名残を帯びた剣がある。乾ききらない赤が刃の溝に残り、彼は布で静かに拭っていた。

 ルシアン・ヴェイル。
 アルマティア王国近衛騎士団、その筆頭である。

 王命を受け、極秘裏に辺境へ向かっている最中だった。

 表向きの任務は、結界異変の確認と対処。
 だが、彼自身が胸に抱いている目的は、ただ一つ。

(マール様……どうか、無事で……)

 辺境伯家に預けられた幼い王女。
 その安否を、自分の目で確かめるために、ルシアンは馬を走らせている。


 ――その途中で。

 (これで……何体目だ)

 街道に倒れている魔獣を思い返し、ルシアンは小さく息を吐いた。いずれも、ここへ来るまでに自分の剣で斬り伏せたものだ。

「た、助けてくれ!」

 街道の先で、馬車が横転しかけていた。
 周囲を囲むのは、二体のイノシシ型魔獣。
 結界の外縁に近い地域でなければ、まず見かけない種類だ。

 ルシアンは、ためらわず馬を下りた。


「下がってください」

 短く告げ、剣を抜く。

 動きに無駄はない。
 一撃目で間合いを詰め、二撃目で急所を断つ。
 派手な技は使わない。
 だが、確実に命を奪い、守るべきものを守る剣だった。

 ほどなく、魔獣は地に伏した。


「助かった……」

 商人たちが、へたり込む。
 次の瞬間、感謝の声が一斉に上がった。

「騎士様が来てくれたんだ!」
「神様は、俺たちを見捨てていなかった……!」

 ルシアンは、深く一礼する。

「怪我はないようで何よりです。では、僕はこれで」

 そう言って立ち去ろうとしたが、簡単にはいかなかった。

「待ってください、これを!」
「水だけでも飲んでいって!」

 気がつけば、人が集まっている。
 手当を申し出る者。
 食事を差し出す者。
 中には、同行を申し出る若い女性の姿もあった。

 ルシアンは、一人一人に応じてしまう。
 生真面目な彼は無下に断ることができない性格だった。


(……時間が、惜しい)

 そう思いながらも、背を向けることはできない。

 街道を進むたび、同じことが繰り返された。
 魔獣を討ち。
 感謝され。
 噂が広がる。

「白銀の騎士が、各地を救っているらしい」
「国のために戦っているんだって」

 ルシアンを称賛する声は広がっていく。
 だが彼が考えているのは、ただ一つだった。

(今は一刻も早く……マール様のもとへ)


 王都を出発してから、一週間ほどが過ぎた。

 街道から少し外れた、小さな村の外れ。
 ルシアンは、悲鳴に近い声を聞いて馬を止めた。

「いや……こないで……!」

 声の先には、醜いゴブリンに追い立てられている少女がいた。

 年の頃は十ほど。
 足をもつれさせ、転びそうになりながら必死に逃げている。

 またか、とは思わない。
 ルシアンが剣を取るのは国のため。たしかにマールが第一だが、民を救うことに迷いはないのだ。国王が彼に信を置いている最大の理由がそこだ。


 次の瞬間、思考するよりも早くルシアンは地を蹴っていた。

 剣閃が走る。
 ゴブリンの喉元を断ち、勢いのまま胴を斬り裂く。
 倒れる音は一つだけだった。

「……だいじょうぶですか」

 少女は、その場にへたり込んだまま、何度も頷いた。ぽぉ、と顔を真っ赤にしたまま。憧れの人を見るかのように、ルシアンの顔を見上げていた。


 村は、結界の弱体化の影響を強く受けていた。簡素な柵は壊れ、家々には補修の跡が目立つ。

「父が……ゴブリンに……」

 案内された家で、ルシアンは負傷した男を確認する。致命傷ではない。その場で応急処置を施し、村人たちに後を託した。

「できる限り早く、王都方面に逃げてください。僕の名前を出せば、領主が最低限の援助をしてくれるはずですから」

 そう告げ、さらさらと手紙を書いて渡してやった。

 呆気にとられる村人を残し、踵を返そうとしたときだった。


「ま、待って!」

 少女が、慌てて駆け寄ってくる。
 その手には、木彫りの仮面があった。

 角の生えた、鬼の面。
 粗末だが、丁寧に作られている。

「これ……持っていって」

 ルシアンは戸惑い、言葉を失う。

「魔よけのお面なの。これをつけてると、変な人が近づいてこないんだって」
「……どうして僕に?」
「だって騎士さま……優しすぎるから。たまには一人になりたいときもあるかなって」

 一瞬、返そうとした手が止まる。

「……ありがとうございます」

 ルシアンは、仮面を受け取った。


 それから。
 彼は鬼の仮面をつけて、街道を進むようになった。

 結果は、明白だった。

 声をかけられなくなる。
 人々が距離を取る。
 道を譲り、目を逸らす。

 進む速度は、目に見えて回復した。

(これはあの少女に感謝しなければいけませんね……)


 だが、ルシアンは気づいていなかった。

 鬼の仮面。
 血の付いた剣。
 言葉を発することなく、立ち去る騎士。

 その姿は、強烈な印象だけを残していく。

 噂は、事実とは異なる形で広がっていった。


「鬼に堕ちた魔人がいるらしい」
「家族を殺した魔獣を狩り続けてるんだって」
「かわいそうに……」
「人には、まったく心を開かないらしいぞ」

 王都でも、地方都市でも。
 結界の不調と魔獣被害の話題に、必ず「鬼仮面の騎士」の名が添えられるようになる。

 だがルシアンは、それを知らない。
 ただ、馬を進める。
 遠くに見える、辺境の方角を見据えながら。


(必ず辿り着く。マール様のもとへ)

 その背に向けて、“鬼仮面の騎士”という名だけが、王国中――いや、隣の龍神国まで先回りしていくのだった。

感想 5

あなたにおすすめの小説

追放された用済み聖女ですが、辺境の最強竜騎士に拾われて絶品料理で胃袋と心を掴んだら、常軌を逸した溺愛が始まりました。

黒崎隼人
恋愛
ある日突然、異世界に召喚された平凡な会社員のアカリ。 しかし「魔力がない」と用済み扱いされ、極寒の辺境へと追放されてしまう。 雪原で死を覚悟した彼女を拾ったのは、辺境を治める最強の竜騎士団団長・クロードと、傷ついたもふもふの幻獣ルルだった。 恩返しのためにアカリが余り物で作った温かいスープ。 それはなんと、食べた者の魔力や傷を劇的に回復させる「真の聖女」の力が宿った奇跡の料理だった! 「お前を、俺の砦から外へ出す気は永遠にない」 彼女の料理とその温かさに救われたクロードは、かつての氷のように冷酷な姿から一変、アカリに対して常軌を逸した過保護さと不器用な溺愛を見せるようになる。 さらに、彼女の絶品料理の虜になった強面の騎士たちや、甘えん坊の幻獣ルルにも囲まれ、アカリは辺境の砦で誰よりも幸せな日常を手に入れていく。 一方、アカリの力を失った王都は自業自得の危機に陥り、彼女を連れ戻そうとするが…… 「俺の女に近づく者は、王であろうと斬り捨てる」 最強の竜騎士が、国を敵に回してでも彼女を守り抜く! 追放された無自覚チート聖女と、不器用で一途な最強竜騎士の、最高に甘くて美味しい辺境スローライフが幕を開ける!

おせっかい転生幼女の異世界すろーらいふ!

はなッぱち
ファンタジー
赤ん坊から始める異世界転生。 目指すはロマンス、立ち塞がるのは現実と常識。 難しく考えるのはやめにしよう。 まずは…………掃除だ。

身代わりで怪物と呼ばれる大公に嫁いだら、継子達が離してくれなくなりました。

千紫万紅
恋愛
旅芸人一座の看板歌姫を母に持つヴィオラは12歳で、貴族である父のもとへと捨てられた。 引き取られた先は名門公爵家。 だがそこに彼女の居場所はなく。 継母や異母姉に『 下賎な血が流れている』と冷遇され、やがて『いないもの』として扱われるように。 そんなある日『怪物』と噂されるシューネベルク大公との縁談が公爵に舞い込む。 正妻の娘である姉アンネマリーがそれを拒絶したことで、その役目はヴィオラへと押し付けられた。 王命のもと、姉の身代わりとして嫁ぐことになったヴィオラ。 冷酷で恐ろしい怪物を想像しながら辿り着いた大公城で、彼女を待っていたのは欠陥品とささやかれる継子たち。 そして血に濡れた外套を纏う、美しくも危険な男だった。 誰にも必要とされてこなかったヴィオラ。 けれどなぜか、継子たちは彼女にだけ心を開きはじめて。 冷酷なはずの大公はいつしかヴィオラに執着するようになり―― その想いは、やがて逃げ場のないほどの溺愛へと変わっていくのだった。 カクヨムにも公開を始めました。

ハイエルフの幼女に転生しました。

レイ♪♪
ファンタジー
ネグレクトで、死んでしまったレイカは 神様に転生させてもらって新しい世界で たくさんの人や植物や精霊や獣に愛されていく 死んで、ハイエルフに転生した幼女の話し。 ゆっくり書いて行きます。 感想も待っています。 はげみになります。

夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの
ファンタジー
旧題:テンプレ展開で幼女転生しました。憧れの冒険者になったので仲間たちとともにのんびり冒険したいとおもいます。 七瀬千那(ななせ ちな)28歳。トラックに轢かれ、気がついたら異世界の森の中でした。そこで出会った冒険者とともに森を抜け、最初の街で冒険者登録しました。新米冒険者(5歳)爆誕です!神様がくれた(と思われる)チート魔法を使ってお気楽冒険者生活のはじまりです!……ちょっと!神獣様!精霊王様!竜王様!私はのんびり冒険したいだけなので、目立つ行動はお控えください!! 初めての投稿で、完全に見切り発車です。自分が読みたい作品は読み切っちゃった!でももっと読みたい!じゃあ自分で書いちゃおう!っていうノリで書き始めました。 2024年5月 書籍一巻発売 2025年7月 書籍二巻発売 2025年10月 コミカライズ連載開始

転生したらちびっ子になって、空を落ちていた件 〜もふもふたちのお世話はお任せあれ。ついでに悪もやっつけます!〜

ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした高橋凛は、お詫びとして理想の世界へ転生することに。しかし気がつけば幼児の姿で、しかも空を落下中だった!? バカ神、あいつまたミスったな!? そう思いながらも、凛はどうすることもできず、空を落ちていく。しかも更なるアクシデントが凛を襲い……。 が、そのアクシデントにより、優しい魔獣に助けられた凛は、少しの間彼の巣で、赤ちゃん魔獣や卵の世話を教わりながら過ごすことに。 やがてその魔獣を通じて侯爵家に迎え入れられると、前世での動物飼育の知識や新たに得た知識、そして凛だけが使える特別な力を活かして、魔獣たちの世話を始めるのだった。 しかし魔獣たちの世話をする中で、時には悪人や悪魔獣と対峙することもあったため、凛は、『魔獣たちは私が守る!!』と決意。入団はできないものの、仮のちびっ子見習い騎士としても頑張り始める。 これは、凛と魔獣たちが織りなす、ほんわかだけど時々ドタバタな、癒しとお世話の物語。

転生した本好き幼女は、冷徹宰相パパのために暗躍します!~どんなピンチも本の世界に入れる『ひみちゅのチート』で解決でしゅ~

青空あかな
ファンタジー
ブラック企業に勤める本の虫でアラサーOLの星花は、突然水に突き落とされた衝撃を感じる。 藻掻くうちに、自分はなぜか赤ちゃんになっていることを理解する。 溺死寸前の彼女を助けたのは、冷徹な手腕により周囲から「血塗りの宰相」と恐れられるアイザック・リヴィエール公爵だった。 その後、熱に浮かされながら見た夢で前世を思い出し、星花は異世界の赤ちゃんに転生したことを自覚する。 目覚めた彼女は周囲の会話から、赤ちゃんの自分を川に落としたのは実の両親だと知って、強いショックを受けた。 前世の両親もいわゆる毒親であり、今世では「親」に愛されたかったと……。 リヴィエール公爵家の屋敷に連れて行かれると、星花にはとても貴重な聖属性の魔力があるとわかった。 アイザックに星花は「ステラ」と名付けられ彼の屋敷で暮らすようになる。 当のアイザックとはほとんど会わない塩対応だが、屋敷の善良な人たちに温かく育てられる。 そんなある日、精霊と冒険する絵本を読んだステラはその世界に入り込み、実際に精霊と冒険した。 ステラには「本の世界に入り込み、その本の知識や内容を実際に体験したように習得できる特別な力」があったのだ。 彼女はその力を使って、隣国との条約締結に関する通訳不在問題や皇帝陛下の病気を治す薬草探索など、様々な問題を解決する。 やがて、アイザックは最初は煩わしかったはずのステラの活躍と愛らしさを目の当たりにし、彼女を「娘として」大切に思うようになる。 これは赤ちゃんに転生した本好きアラサーの社畜OLが、前世の知識と本好きの力を活かして活躍した結果、冷徹な義父から溺愛される話である。 ※最終話まで予約投稿済

ひとりぼっちの千年魔女、転生したら落ちこぼれ令嬢だったので、家族を守るために魔法を極めます! 〜新たな家族ともふもふに愛されました!〜

空月そらら
ファンタジー
千年の時を孤独に生き、魔法を極めた大魔女。 彼女は唯一の弟子に裏切られ、命を落とした――はずだった。 次に目覚めると、そこは辺境伯家の屋敷。 彼女は、魔力コアが欠損した「落ちこぼれ」の幼女、エルシア(6歳)に転生していた。 「魔力がすぐに切れる? なら、無駄を削ぎ落とせばいいじゃない」 エルシアは前世の膨大な知識を駆使し、省エネ魔法を開発。 サボり魔だが凄腕の騎士を共犯者に仕立て上げ、密かに特訓を開始する。 すべては、今世で初めて知った「家族の温かさ」を守るため。 そして、迫りくる魔物の脅威と、かつての弟子がばら撒いた悪意に立ち向かうため。 「おねえちゃん、すごい!」 可愛い弟デイルと、拾った謎の**黒猫に懐かれながら、最弱の令嬢による最強の領地防衛戦が幕を開ける!