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第5話 大勢のエルフの前で
しおりを挟むエルフの国に着いたらしく、ドライアードがピタリと歩みを止める。
枝の上でずっと俯いていた私は恐る恐る顔を上げると、そこには巨大な門があった。
すでに門は開け放たれており、視界の中心には世界樹がそびえ立っているのが覗き見えた。岩でできているドワーフの城と違って、エルフの国は世界樹が城になっているようだ。
視線を門へと戻すと、大勢のエルフたちがこちらに向けて武器を構えていた。どうやら歓迎されている雰囲気ではないようね……。
もはや森に一人で住めないかな……と思い始めた私を、ドライアードは枝を使って問答無用で地面に下ろしてしまった。うぅ、やっぱり駄目よね。
「ありがとう、アルベルトさん。短い間でしたけれど、楽しかったです」
ドライアードのアルベルトさんに振り返り、私はペコリと頭を下げた。
本当は彼が話せると知ってから、森での移動中に自己紹介を含めていろんなことを聞くことができた。おかげでエルフの国についても、多少は知ることができたんだけど……。
「…………」
相変わらず彼は滅多に喋らない。けれどこれは元々、ドライアードたちに会話をする習慣が無いからだそうで。普段はエルフとも話さないと聞いた時は、さすがにビックリした。
でも誰とも話さないって寂しくないのかな。
私は十年の間、ずっと独りぼっちで人恋しかったけれど……。
「……もし何かあれば、世界樹の森に来ると良い」
「アルベルトさん……はい。お時間ができれば、必ず遊びに行きますね。それでは……行ってきます!」
彼のぶっきらぼうな優しさが心にしみる。自分を受け入れてくれる人がひとりできただけでも、私の人生にとっては宝物みたいな出来事だ。
私は最後にもう一度頭を下げると、意を決して後ろを振り返った。
「あれがドワーフの姫……?」
「ドライアードに話し掛けていたぞ?」
「それにしても、あれが――なのか?」
エルフの方々は、私を見てヒソヒソと話しながらこちらの様子を窺っている。
中には睨むように鋭い目付きの兵隊さんもいる。そんな視線に晒されながらも、私はなんとか声を振り絞って自己紹介をした。
「わ、私はドワーフの国からまいりました、聖女のヴェルデと申します。ご迷惑をお掛けしてしまうこともあると思いますが、どうかよろしくお願いします」
「……」
私が挨拶をしても、誰一人として反応してくれない。
まるで聞こえていないかのように無視されている。
それでもめげてはいられない。私は必死に言葉を続けようとした。
「あの……」
「取り敢えず、ドライアードが連れてきたという事は、貴女が噂のドワーフ姫なんだろう?」
「え? あ、はい。例の?」
「念のため、監視付きで入城を許可する。だが我が国の陛下に挨拶する前に――すまない。どうか、そのボロボロな身なりを整えてほしい」
そう言われ、あらためて自分の姿をかえりみる。
うん、アチコチ破れていて服より下着に近い。っていうか、ほとんど裸だ。
――あれ? 私、痴女だと思われてる!?
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