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第14話 政治的なタテマエとホンネ
しおりを挟む僕は日々の公務で疲れた身体を引き摺るようにして、寝室の隣にある秘密の部屋にオーキオ姉さんを連れ込んだ。
これは何かあったとき用の小さな部屋で、密談に使ったり、人に見られたら困るものを置いたりしている。あとは賊に襲われたときのパニックルームも兼ねているかな。
「それで? どういうつもりなのか説明してくれるんだよね?」
「あら、何のことかしら」
メイド服姿の姉さんはケラケラと笑いながら、部屋の棚に並んでいた瓶をひとつ手に取った。ちょっと待って、それは僕秘蔵の蜂蜜酒じゃないか。寝酒用に大事に保管してある高級なお酒なのに、彼女は断りもなく飲むつもり?
「なに? 文句でもある?」
「……いえ、なんにも」
まぁ仮にダメだと言ってもゴネて飲むだろうから、あえて止めないけど。それよりも今は、話を進めないと。
僕は先に、部屋の真ん中にある小さな丸テーブルの席に着くと、先程のやり取りについて追及することにした。
「そのお酒は譲りますけど、代わりに惚けないでちゃんと説明してくださいよ。裸のヴェルデを僕の部屋のベッドに放置したのは、オーキオ姉さんですよね?」
「まぁ! 人を悪者みたいに言わないでくれる? 私はただ、ヴェルデちゃんと陛下くんが仲良くなってほしかっただけなのに」
琥珀色の蜂蜜酒が注がれたグラスを手で転がしながら、姉さんは楽しそうに言った。
まったくこの人は……言っている内容の割に、ちっともショックを受けた様子がないじゃないか。
僕は彼女からボトルを奪うと、グラスは使わずにそのまま直接飲み始めた。
「……はぁ。やっぱり勘違いで酷いことを言ってしまったみたいだ。後でヴェルデに謝らないと……。言っておきますけど、全部姉さんのせいですからね!?」
「あら、私は良かれと思ってやったのよ? それに陛下くんが早とちりするからいけないんじゃない」
ぐぬぬ……。たしかに僕にも非はある。だけどそもそも姉さんが紛らわしいことをしなければ、こんな勘違いをすることもなかったんだ。
「姉さんのそういう自由奔放なところは嫌いではないですけど、程々にしてもらえませんかね。振り回されるこっちの身にもなってくださいよ!」
「えぇー、いいじゃな~い。っていうか、陛下くんはその枯れた性欲をどうにかしたらどうなの? まだ五十歳で女のカラダに興味が無いって、かなりの問題よ?」
姉さんは僕を馬鹿にしたような態度をしているが、これでも王族の一人。こう見えて内心では本気で心配しているのは、僕にも分かっている。
特に国内でとある問題が起きている今、世界樹の管理をしている王族の血を絶やすわけにはいかない。
だからオーキオ姉さんは、僕が嫌々ながら結婚を決めたことを喜んでいるんだろうけれど……だからって全裸の女性をベッドに用意するのは、いくらなんでもやりすぎだろう。
つい先ほどのヴェルデの姿を思い出してしまった僕は、グラスをテーブルの上に置くと、両手で顔を覆った。
「ふぅ。冗談はこれぐらいにしておきましょうか」
指の隙間から覗くと、急に真面目な表情になった姉さんと目が合った。テーブルに頬杖をつきながら、姉さんは僕の瞳をジーっと覗き込んでいる。
「勝手に貴方よりも先に会っていたのは謝るわ。でも相手は、この国の将来を左右する王妃様……さすがの私も気にするわよ?」
「……さっきも本人に言いましたが、今回の婚姻は政治上の都合です。建前上そういう関係になっただけで、相手がどんな人物であろうと関係ありません」
あくまでもラッコルタ王国から援助を引き出すための取引だ。それに僕はこの国の王。愛のある結婚だなんて、最初から期待していない。
そう伝えると、姉さんはニタァと含みのある笑みを浮かべた。
「でも、ヴェルデちゃんは悪い子じゃなかったでしょう?」
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