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第15話 双眸の先が交わって

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「……まあ、エルフの国には居ないタイプの令嬢なのは認めますよ。ですが、彼女はドワーフ王が婚約者として寄越した姫ではないんでしょう?」
「ふふ。ヴェルデちゃんってば、純粋で可愛かったものねぇ。……ねぇ、陛下くん。どうせお嫁さんにするなら、悪い噂のある姫よりも、ヴェルデちゃんの方が良いと思わない?」

うぐっ、姉さんはなんてことを言うんだ。たしかにヴェルデは見た目も愛らしいし、ひねくれたエルフと違って性格も素直だったと思う。
王という仕事柄、日頃から相手にするのは一癖も二癖もある奴らばかり。言葉の裏を一々読み解くことに疲れている僕にとっては、これ以上ない好条件な相手なんだけど……。

「……そんなこと、できるわけがないじゃないか」

そんな甘いことを言っている場合ではないのだ。
僕の我が儘でドワーフとの同盟が破棄されてしまえば、将来的に我が王国は再び危機に陥ることになるのだから。

そんな僕の考えを察してか、姉さんは静かに言った。


「あら、そうかしら? あの国との契約は、聖女であるドワーフの姫を受け入れることでしょう? ヴェルデちゃんも立派な姫なんじゃない?」
「……あれ!? そういうことになるのか?」

そういえばさっき、トラス姫を妹だと言っていたな。
おかしいな、ドワーフ王は妹は一人だと言っていたはず。だからこそ、僕は彼女がトラス姫だと思っていたのだし。

いや、そもそも僕は彼女のことを何も知らなかったな……。

「って、そうじゃない! 彼女の気持ちも知らずに、そんなことを勝手に決められないじゃないか」

姉さんのペースに乗せられそうになっていた僕は、慌てて思考を切り替えると彼女に抗議した。
そうだ。彼女の気持ちが一番大事じゃないか。それなのに勝手に話を進めてしまったら、僕はただの冷徹な人間だと思われてしまう。それは断固として避けなければ。
だがそんな僕の思惑などお見通しなのか、姉さんは噴き出すように笑い始めた。

「あはははっ。王ともあろう人が、何を怖気づいているのよ。まったく、これだから童貞は……」
「ど、童貞って言うな! 不敬だぞ!! それに姉さんだって、恋人ができたことないじゃないか!」
「あらぁ? それはどうかしら? ぷっ、くくく……」

さすがの僕も怒りが込み上げてきた。いくら従姉妹とは言え、言って良いことと悪いことがある。

しかし、姉さんはまったく悪びれた様子もなく言葉を続けた。


「まぁ、陛下くんは昔から年下の可愛い子が好きだったし? ヴェルデちゃんのことも気に入らないわけがないわよね」
「はぁ……そう思いたければ勝手に思っていてください。僕には国と民を守るという大事な使命があるのです。色恋沙汰なんかに現を抜かしている暇なんてありませんよ――それより姉さん」
「もう、つれないんだから。まあいいわ。なに?」

オーキオ姉さんはグラスを手に取り、蜂蜜酒を口に含んで喉を潤した。

「ドワーフの赤い瞳は燃えあがる火のごとし。……でもヴェルデの眼は違うことに気が付きましたか?」
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