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第43話 和解とすれ違い
しおりを挟む「アタシは託されたのよ。ヴェルお姉ちゃんを助けてほしい、ってね」
森から帰還した私たちは、馬車に乗ってやって来たトラスと共に世界樹の城にある客間にやって来ていた。
部屋の中心にあるテーブルの周りに一同が座っている。相変わらずメイド服姿をしているオーキオさんがお茶を出してくれたけれど、私はそれに手を付ける気にはとてもなれない。ソファに座って真剣な表情を浮かべるトラスを、私はただ固唾を飲んで見つめていた。
私の隣に座る男性――トラスの本来の婚約者であるコルテ様は、私をチラリと見てから口を開いた。
「託された、というのはいったい誰になんだ?」
「……母よ」
母というのはトラスの母だろうか。彼女の母は聖女あがりだった私の実母と違って、良く居るタイプの貴族令嬢だった。気位が高く、私や母を蔑んでいたはずだけど……。
私が信じられないといった顔をしていると分かったのだろう。トラスは首を横に振った。
「アタシにヴェルお姉ちゃんを託したのは、デディカ様よ」
「なんですって!?」
「その、デディカ様というのは?」
「私を産んだ方の母です。今はもう亡くなってしまいましたが……」
トラス様は私たちの複雑な家庭事情に、頭痛を覚える仕草を見せた。
「デディカ様は、お姉ちゃんが地下牢獄に入れられてから、ずっと苦しみ続けていたわ。娘を助けてやれなかったって」
「そんな……私があんな能力を授かったのが悪いのに」
お母様……。
不精の娘でごめんなさい。お母様は何も悪くないのに……。
「アタシがずっと看病を続けていたんだけど、お父様の死をキッカケにどんどん弱ってしまって……死の間際、アタシに託したの。ヴェルデのことをお願い、って」
腕に付けた形見の腕輪を撫でながら、トラスは涙目で語る。
「お母様がトラスに……」
思わぬところで母の愛情を知らされ、私は目頭が熱くなった。
だが話を聞いていたコルテ様が不思議そうに首を傾げた。
「でもどうして腹違いであるはずのトラス嬢が、ヴェルデの母上の願いを叶えようとしたんだ? 実母は嫌がらなかったのか?」
「あんなアタシを産んだだけの女なんて、母親と思ったことなんかない!! お兄様ばっかり構うアイツより、愛情を向けてくれたデディカ様こそがアタシのお母さんだった!
「トラス……」
「それからはずっと、ヴェルお姉ちゃんを救うことだけを思って生きてきたんだよ……?」
そんな……私、トラスの事を全然知らなった。
てっきり私のことを恨んでいると思っていたのに……。
「じゃあ私の追放が決まったあの時、トラスが私に酷いことを言ったのは……」
私の頬を叩き、自分と同じ血が半分も流れていることを汚らわしそうに言っていた。
「あれは……その、ごめんなさい。あれもヴェルお姉ちゃんを護るためには必要だったの」
トラスが申し訳なさそうに人差し指どうしを突きながら、事情を説明する。
「デディカ様は言っていたわ。ラッコルタが聖火主義である限り、あの子が受け入れられる未来はないって……」
たしかに何も起きなければ私は地下牢獄で死ぬ運命だっただろう。お母様がトラスにそう言ったのも分かる。
「だからどうにかして、お姉ちゃんをあの国から出す必要があったの」
「私を助けるために、わざとトラスはお兄様の味方のフリを?」
「そう……アタシしかできないからことだからって、十年間ずっと頑張って……」
トラスは悲しげな顔をしながら、今までの苦労を振り返る。
「トラス……」
「お姉ちゃん」
私はトラスの肩をそっと抱き寄せる。
てっきり私はあの国には味方をしてくれる人なんて誰もいないと思っていた。
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「ありがとう。そして貴方にまで辛い思いをさせてごめんなさい」
「ううん、アタシがもっと上手くやっていれば……」
「そんなことはないわ。トラスは十分やってくれた……貴方が救い出してくれなかったら、私は今もあの暗い世界で絶望したままだったわ」
私がそう言うと、トラスは泣き出した。
そのまま傍に寄り抱き締めると、背中をさすってやった。
「ヴェルお姉ちゃん……だからアタシは、このエルフ王に嫁がなきゃいけないの」
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