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第44話 ……を愛しています
しおりを挟む「……え?」
今までの話からどうしてそうなった? だけどトラスの表情は真剣そのものだ。
「だってアタシが王妃になれば、ヴェルお姉ちゃんを侍女として傍に置いておけるでしょ? 安心して、エルフ共にはお姉ちゃんに手出しなんかさせないんだから」
「いや、それは……」
「大丈夫だよ。王妃としての務めだってちゃんとこなすから。コルテって王様はちょっとジジ臭いエルフだけど、アタシの色香でコロコロ~って手の平で転がしておけばどうにかなるわ!」
フィオレが自信満々な様子で言う。
この子、こんな性格だったっけ……? たしかにトラスのいう事には一理ある。
たしかにトラスは私と違って背も高いし、スタイルも良い。美形揃いのエルフにはお似合いかもしれないけど……なんだろう。心がモヤモヤする。
「ヴェルお姉ちゃんだって、あの国に居るよりも、エルフの国に居たいでしょ?」
「え? う、うん……」
私は笑顔を作って答えたが、トラスの顔を見ることが出来ない。これまで自分の居場所なんて無かった私にとって、このセミナ国が唯一心が休まる場所だ。この国へ来た時はここに置いてもらえるだけで幸せだった。
でも今は……違う。それだけじゃ足りないと思ってしまう自分がいる。
それにこのモヤモヤとした嫌な気持ちは何なのか。自分でも理解できない初めての感情だった。
「ね、そういうことだから。貴方は婚約破棄なんてしないで、アタシと結婚しなさいよ。この国だって、ドワーフからの援助が無いと大変なんでしょう?」
「うぅむ……」
「コルテ様……?」
決定権を持つコルテ様を見れば、彼は少し困ったような表情をしていた。
「たしかに、今ラッコルタ国からの援助が無くなるのは困る」
その言葉を聞いた瞬間、私の中で何かが崩れ落ちる音が聞こえた。これでコルテ様はトラスの婚約者で決まり。私は絶対に彼と結ばれることは無くなった。
「やったねお姉ちゃん! ……お姉ちゃん? どうしたの、そんな怖い顔して……」
「……分かりました。私はこの国で使用人として生涯勤めたいと思います」
それが私にはお似合いだ。聖女としても使えない、教養もない、身体は貧相で目も見えない。人の幸せを羨みながら暮らしながら一生を終えるのだ。
そう思うと涙が出てきた。
本当は分かっていた。涙が証拠。もう誤魔化しきれなかった。
叶わない恋なら好きにならなければ良かった。だけどどうしようもなく、私はコルテ様に恋をしていたのだ。
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