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第45話 ○んでしまいそう
しおりを挟む「ちょっと待ってください! ヴェルお姉様は私のものですよ!?」
「え?」
そう言って急に立ち上がったのは、隣の席にいたフィオレ様だった。
「なによ、アンタ。急に出てきた上に、あまつさえアタシのお姉ちゃんに向かってお姉様ですって!?」
対抗してトラスも席から立ち上がり、火花を散らし合う二人。
「待って、二人とも落ち着いて……」
「お姉様も何を呑気なこと言っておられるのですか!? あの娘はお兄様を狙っているのですよ!?」
「うっ、それは……」
フィオレがこちらを振り向いて必死に訴えかける。
たしかに彼女の言う通りなのは分かっているけど……。
「ヴェルお姉様は命の恩人。心から慕っておりますわ。血は繋がっていなくたって、私にとってはお姉様よ!」
「なにその理論!?」
「それに貴方……黙って聞いていれば、自分が結婚してやるから安心しろですって? そんなの、お姉様の気持ちなんて一切考えていないじゃないの!」
「なんですって!? エルフのアンタに何が分かるっていうのよ!」
牙を向くように怒るトラス。ドワーフ特有の真っ赤な瞳が、燃えているようだった。
「ちょ、ちょっとトラス……」
ますますヒートアップしていく二人。どうしよう、もう私の言葉も届かないみたいだ。
このままじゃ王族同士で取っ組み合いの喧嘩に発展してしまいそう。
オロオロするしか出来なかったけど、さすがに止めないとマズいと思って立ち上がろうとしたそのとき。私の肩に手が置かれた。
「いいから、貴方はそのまま座って見てなさい」
「オーキオさん……」
オーキオさんは優しく微笑む。私の肩を押さえる手はビクともしない。意外に凄い力だ。
「ヴェルお姉様はようやく自分で何ができるか、自分の足で立ち上がろうとしているのよ!? それなのに貴方は使命だか何だか知らないけれど、ヴェルお姉ちゃんのためとか言って、本当は自分のためなんじゃないの!」
「そ、そんなことは無いわ!!」
「私はお姉様の幸せを願っております。だから私の傍に置いて一緒にこのエルフの国を盛り立てて、ゆくゆくは男女の垣根を越えたパートナーとして……」
「え、ちょっとフィオレ様!?」
隣の席から身体を乗り出したフィオレ様が、私を横からギュッと抱きしめた。
う、うん? フィオレ様が私のことを想ってくれていたことに感動していたのに、途中から雲行きが怪しくなってきた。
何この状況!?
「ちょっと、離しなさいよ! 私のお姉ちゃんよ!」
「いやですわ!」
フィオレ様に次いでトラスまで逆側から抱きしめてきた。どちらも私を抱き締めたまま離してくれないのだ。しかもその力はどんどん強くなっているような気がする。
いや、気のせいではない。絶対に気のせいじゃない!! 痛い! ちょっと待って二人とも。これ以上抱き締められたら死んじゃう!
あぁー……。
意識が遠退いて……。
「ヴェルデ!」
ギリギリのところでふっと身体が軽くなる。
コルテ様が私を抱えて、二人から引き離してくれたのだ。
「大丈夫だったか?」
「は、はい……ありがとうございます」
危なかった。もう少しで天国の門をノックするところだったわ。ってあれ? 今私のこと、ヴェルデって呼ばなかった? コルテ様を見ると、彼は顔を背けた。よく見ると耳まで赤い。
助けてもらえたのは嬉しいけど……この状況、恥ずかし過ぎる……!!
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