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街一番のヤブ医者
しおりを挟むここは街にある宿だから安心して、と言って僕は少女から一旦離れた。
――明らかに彼女の様子はおかしい。
やはり僕には手が負えないと判断し、ゴーンという街のヤブ医者を呼んでくることにした。
ちなみにヤブ医者と言っても腕が悪いわけじゃない。
むしろ街一番の名医と言ってもいいだろう。
ただ性格に難があって、『女はタダ、男は金貨』という法外な値段をふっかけるような奴なのだ。
ちなみに金貨一枚で半年は暮らせる額だし、僕だったら一年は余裕で暮らせるぐらいの大金だ。
「何だいその顔は。アタシは可愛い子が好きなだけだよ。なんか文句があるのかい?」
「……別に何も無いよ。ただ男に対して、もっと優しくしてやれと言いたいだけだ」
「ふんっ、ナニを取ったらアンタもタダで診てやるよ」
「それは本気で勘弁して」
治療に使う細いナイフを片手に、ニヤっとこちらを見てくるゴーン。
すでに婆さんと言っていい年齢だが、小さな身体から放たれる得体の知れない圧力に僕は思わず縮み上がりそうになる。
「で、どうだったんだよ。本当に彼女は目が見えないのか?」
「あぁ。と言っても、これは怪我や病気というより、元からさね。だからアタシの祝福でも治療することはできないよ」
「……そうか」
ベッドの上でニコニコとしている少女に聞こえないように、僕とゴーンは壁際でコソコソと話し合っていた。
怪我や病気じゃなかったのは良かったのだが、結局のところ何も解決していない。
仕方がない。厄介ごとの予感しかしないけれど、事情を聞くしかないか。
僕はなるべく驚かせないようにゆっくり近付くと、穏やかな口調で彼女に話し掛けた。
「お待たせ。念のために医者に診てもらったけど、問題は無かったようだよ。……あ、そうだ。自己紹介が遅れて申し訳ない。僕はメージュ。クリスティアの街で冒険者をしている者だ」
彼女には見えていないだろうが、ベッドの前で膝立ちをして目線を合わせながら自己紹介をする。
冒険者らしくない振る舞いだけど、これはもう僕の癖なのだ。
それを何となく感じ取ったのか、ベッドの上の少女は背筋を伸ばしてから口を開いた。
「あっ、さっきの男性……ご親切にありがとうございますっ! 私はリアラと申します。あのっ、私……生まれつき目が見えなくて。なにか失礼なことをしていたらごめんなさい……っ」
見えない不安からか、慣れない環境に置かれたせいか。
少しおどおどとしながらも、リアラと名乗った少女は礼儀正しく答えてくれた。
「ふふっ。ここは安全だから、何も心配いらないよ。だけど目が見えないってことは、普段キミはどうしていたんだい?」
ここはなるべく、いきなり核心を突かないようにやんわりと聞いてみる。
「普段……メイドのシーラが私の面倒を見てくださっていました。そうだ、シーラ!! 彼女が居てくれたから私は……」
何かを思い出したのか、突然泣き始めてしまったリアラ。
だがそのメイドが居た、という手掛かりは得られた。
どうやら彼女はどこかの御令嬢だったようだ。
これ自体は全く良い情報では無かったけれど……。
「おい、メージュ!! ちょっとコッチに来な!」
「……話の途中ですまない。ゴーン先生に呼ばれたから、ちょっと席を外させてもらうね……」
そう言って再び僕は壁際に立っているゴーンの元へ逃げ戻る。そこでは思った通り、ゴーンは怒りの形相で僕を睨みつけていた。
分かってる、言いたい事は分かってるってば……!!
「ちょっと、どうするんだい!! メイドなんて貴族の家にしか居ないじゃないか!! なんつーもんを拾っちまったんだい!!」
「ど、どうしよう……僕が貴族の令嬢を拾ったなんてバレたら、タダじゃ済まないぞ……」
もう嫌だ、今からでもダンジョンに返しちゃダメかな……ダメだよな、うん。
とにかく……もっと詳しい事情を聞いてみよう。
もしかしたら温厚な家族で、今も彼女を探しているかもしれない。
無事に送り届ければ何も問題はないはずだ。
僕はサッと気を取り直し、ベッドサイドに戻る。
リアラはさっきよりも少しは落ち着いた様子だったが、涙は止まらない様子だ。
何があったか分からないが、よほどそのメイドが大事なのだろう。
これ以上泣かせたくはないけれど……仕方がない。
「申し訳ない。事情を把握するために、キミのことを聞かせてもらえるだろうか?」
なるべく僕は傷付けないように、優しくそう問いかけた。
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