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3-2 王の威厳と特権
しおりを挟む――グォオオオオッ!!
「これは……」
「間違いない。モンスターの襲来だ!」
響き渡るモンスターの雄叫びと進軍による地震のような揺れが人々を襲う。
女神祭の開始を目前にして、平和になったはずの王都に危機が訪れようとしていた。
「キャアアッ!!」
「にげろっ、早く逃げるんだ!!」
「逃げるってどこへだよ!」
「知るかっ!! どこでもいい、早くっ!」
「どうしてモンスターが王都にっ! 魔王は討伐されたんじゃねぇのかよっ」
モンスターがここへやってくるかもしれないという恐怖から、我を忘れて逃げ惑う民衆たち。
元々この中央広場には沢山の人が集まっていたことが災いして、一気に混乱が周囲に伝播してしまった。
はぐれのモンスターがどこかの村や小さな町をたまたま襲うことはそう珍しくはないのだが、ある程度大きな街であれば普段から守備隊や監視員が事前に処理をしていた。ならば彼らが職務を怠慢したのか?
その答えは否である。そもそもの話、魔王が討伐されればモンスターの動きは膠着するはずだったのだ。王の命令で守備隊は解体され、ミケの騎士団に編入という形で移動となりモンスターからの手薄になってしまっていたという事情があった。
とはいえ、王都が襲われるなど過去の歴史を見ても前代未聞だったのだ。
ましてや直前まで誰も気付かずにここまで攻め込まれるなんて事態は初めてであり、危機管理の行き届いた現代日本と違って、こうした祭りのさ中で避難するための場所も定められていない。
誰もどこへ行けばいいのか分からず、悲鳴を上げ、蜂の子を散らすように四方八方へ闇雲に走り出している。
中には屋台をなぎ倒し、人をかき分けるようにして自分だけでも助かろうとする者までいる始末だ。そのせいで押し倒され蹲る老人や、親とはぐれてしまって泣きだす子どもまで出始めてしまっている。もはやこれでは避難をするどころではない。
居合わせていた兵たちも、この場にあまりに人が多すぎて統制をとることもままならないようだ。
「どうしよう、お姉ちゃん……」
「まずは冷静さを取り戻させないとだわ。……ミケ」
「あぁ、それは大丈夫。ほら、見て」
こんな緊急事態だというのに、演説をする予定で設置されていた舞台の上に登っている人物が居る。だがそれは決して不審者ではなく、彼はこの事態を収拾させることが出来る唯一の存在だった。
「――静まるのだ、みなの者」
――ざわっ。
「静粛に~!! フレイ国王陛下のお言葉である!! 全員、静粛にせよ!!」
壇上の人物は、たったひと言で逃げ惑う民衆の足を止めさせてしまった。
そしてさらにミケが追い打ちをかけるように声を張り上げ、かの人物へと注視させる。
キラキラと光り輝く金色の冠を頭にかぶり、豪奢な細工杖を右手に持った初老の男性。
それはこの国の頂点。フレイ=ルネイサス王、その人であった。
「みなの者、よく聞いてくれ。急なモンスターの襲来で我を失うのも分かる。……だが、何も心配することはないっ!」
声を出すだけではなく、恐らく魔法を使って王都中の人々に届くようにしているのだろう。広場だけでなく遠くのざわめき声もピタリと静かになった。
王の威厳と父に諭されるかのような安心感に、さらに民衆の表情が変わる。
「既に我らの王都守護隊が、モンスター討伐のために防壁の外へと向かっておる!! それにお主ら……何かを大事なことを忘れておらぬか?」
「ちょっと……嘘でしょう……?」
余裕たっぷりにそう告げる王に、民達はお互いの顔を向き合わせてから不思議そうに傾げる。王の質問にピンときていたのはモナ、そしてミケだった。
「ん? どうしたの、お姉ちゃん」
「あぁ、もう。役目は終わったと思ったのに……」
「まさか父上……」
絶望のような表情を浮かべる二人。もういっそ彼らはこの場から逃げたしたい気分だっただろう。
リザはまだ分かっていないようだが、フレイ王は楽しそうに答え合わせを続けた。
「ふふふ、今日は何のための日だったかの? ――そう、ここには魔王を討伐した英雄たちが集まっておる!」
「ええぇ……アタシたちぃ?」
「「あぁ……やっぱり!!」」
驚きの声を上げるリザと、遂に頭を抱え始めたモナとミケ。
せっかくお祭りを楽しもうとやってきたのに、ここでも仕事をさせられると決定してしまったのだ。そんな情けない姿を晒したくもなる。
「我が国を救った彼らが居ればまさに百人力。いや、千人力であろう!! さぁ、今こそ英雄の力を見せ付けてくれようぞ!!」
「そうだ! 俺たちには勇者が居る!!」
「そうよね、彼らが居れば私たちは大丈夫よね!?」
「「勇者ばんざい!! フレイ国王陛下ばんざぁい!!」」
ざわざわとしていた民衆たちはあっという間に勇者コールを始めてしまった。こうなったらもうモナたちも逃げることは出来なくなった。
……ところで、肝心の勇者は不在なのだが。
「あぁ、もう……仕方ない、こうなったら行くっきゃないわよね」
「う、うん。そうだね……みんな、父上がすまない……」
「しょーがないよ、ミケ。まぁアタシ達がババーンと殲滅すればいいんだし? 王都の皆にもアタシの魔法の威力を見せつけてあげるよ~!!」
三人はお互いの顔を見合わせると、不敵にニヤっと笑い合った。
そして彼らをのんびりと見ながら、ぬるいエールの入ったジョッキに口をつける人物が一人。
「おう、お前ら頑張って来いよ~」
「「「師匠(ヴィンチ)も行くんだよ!」」」
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