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3-6 聖女の異変
しおりを挟む「我がルネイサス王国が誕生して二百年の節目に、魔王は再び世に混沌をもたらした……」
中央広場の壇上に上がったフレイ王が重苦しい雰囲気で言葉を紡ぐ。
民衆は固唾を飲んで彼の演説を聞いていた。
「そして今日。女神祭という最もめでたい日に、この王都はモンスターたちによって危機に襲われた……しかしっ!」
王は同じく壇上に上がらせていた勇者たちを差し、声を張り上げた。
「我々には女神が居る!! そして神に選ばれし勇者が居る!! 見よ、この築き上げられしモンスターの屍の山を!!
「「「おおおっ!!」」」
大仰な仕草で演説を続ける王と、若干恥ずかしそうな勇者メンバーの面々。
モナたちが討伐したてホヤホヤのモンスターの死骸を積み上げられた山々を見て、民衆が感嘆の声を上げた。
「安心してくれ、みなの者。ここにいる勇者たちによって魔王は討伐された。魔王の怨念かはしらんが、嗾けられたモンスター共も女神の鐘によって退けられた!! そう、この国は女神たちによって完璧に護られておる!!」
「「「うおぉぉおおっ!!」」」
(ちょっと……それは言い過ぎなんじゃ……)
魔王に対してのアンチ発言の連続に、ウルの口がヒクヒクと痙攣している。
恐らく今回のモンスター襲来の一件を自分のせいにされて怒っているのだろう。
「何度邪悪な魔王が復活しようとも!! 我々が女神を信ずる限り、我らが屈することは決してない!! さぁ、女神を讃えるのだっ!!」
「女神様ばんざぁい!! フレイ国王陛下ばんざぁいい!! 勇者ばんざーい!!」
大歓声が広場に響き渡り、より一層の大盛り上がりを見せる観衆たち。確かに女神の鐘でモンスターたちが引いたのは事実だ。
これで教会に訪れる信者は明日から爆上がりするに違いない。この演説をどこかで聞いているであろうモナの母であるレジーナも、魔王の影響で減りつつあったお布施が増えるとニッコニコ顔だろう。
……隣に居るウルとは違って。
「ウル……」
「だいじょうぶ。分かってるよ。こんなところで魔法を放ったりなんてしないって」
冷静なトーンの声が逆に怖い。
言葉とは裏腹に、ウルの目はどんどん剣呑になっていっていく。
魔力の高まりを感じて心配になったモナが思わずウルの左手を握った。
彼の手は驚くほど冷たく、氷のようだった。
そんな死人のような手をどうにかしたくなって、モナは自分の体温が伝わるように、ギュッと強く握る。
どれくらいの時間が経っただろうか。王の演説はまだ続いているから一瞬だったのかもしれない。
気付けば彼を中心に渦巻いていた魔力は収まり、モナの右手に彼の温もりが感じられるようになった。
「……ふぅ。ゴメン、もう大丈夫だから。落ち着いたよ」
「本当に? もう怒ったりしていない?」
「ほんとう。モナのお陰だよ」
「……うん」
彼の生まれた境遇を考えれば殺されて祝われるなんて屈辱以外の何物でもないだろう。
誰ひとりとして生まれた事を祝われず、存在を否定され続けていたのだから。
「では代表して勇者にも挨拶をして貰おう! 勇者レオナルドよ!!」
「……じゃ、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
王に指名され、レオの身体に入った魔王のウルが壇上にいる王の隣へと歩いていく。
さっきまでの彼の状態なら不安だったが、今のウルは勇者としての顔つきをしているように見えた。
「みんな、聞いてくれ……再び現れた魔王によって実際に家族を失ったり、大事な仕事ができなくなったりした人も居るかもしれない。今日の事も、ケガをした老人や怖い思いをした子どももいるかもしれない」
これを聴いている民衆もみな、何か覚えがあるのかお互いに顔を見合わせて頷いている。
少なかれ、どんな人もモンスターによる苦しみに苛まれていたのだ。
「だけど今回の事を思い出してくれ。陛下をはじめ、教会の人たちや兵士たち、孤児院の子どもたちだっていい。一人一人が勇気を出して手を差し伸べれば勇者になれるチャンスがあったということを。俺ひとりの手では届かなくても、皆がヒーローになれるんだ。だから今日のこの日を忘れずに、君たちの隣にいる人たちと助け合って生きてくれ」
勇者らしい、みなが一致団結すれば助けられる人が居るということをアピールする魔王様。
なんだかチグハグだけど、彼が言っていることは正しい。
「わぁああぁぁあっ」
民衆も英雄である彼の言葉を聴いて自身の中にある良心を燃え上がらせた。
そういって締めくくった演説は盛況のうちに終わり、四人は壇上から降りた。
「良かったぜ、レオ。あのセリフ聞いたら、俺なんかよりよっぽど士官向きだと思うぜ」
「そんなことないですよ。思ったことを言ったまでで」
「僕もそう思うよ。まったく、僕らが完全にオマケ扱いだったじゃないか」
「そうだよー!! レオはいいとこばっかり!!」
和やかに受け入れられ、控室の方へと戻っていく一同。
さぁこれから祭りを楽しみ直そうかというところでモナが居ないことに気付いた。
「あれ? お姉ちゃんは?」
「おい、あそこに倒れているぞ!?」
ヴィンチが指を差した先には、地面で横になり荒い息を吐くモナの姿があった。
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