29 / 55
3-7 魔王様の手厚い看病
しおりを挟む「あれ……? ここは?」
モナが目を覚ますとベッドの上だった。
だが彼女はベッドで寝ていた記憶はない。
直前の記憶と言えば、モンスターの王都襲来後に女神祭で演説のために壇上に居たことぐらい。演説が終わった後に、仲間たちと控室に戻ろうとしていたハズなのだが……
「起きたか、モナ」
「ウル……!! どうして!?」
気付けば部屋の扉のところにウルが立っていた。
あたりを良く見れば、ここはレオの家だった。
「キミはあの演説の後に倒れたんだ。きっとあの大型のモンスターとの戦闘で疲労していたんだろう。モナの母上がみてくれて、大きな傷は無かったとは言っていたが……」
部屋の中に入って来ると、モナの頭を撫でてくる。
たぶんケガが無いのか確かめているんだろうが、なんだかくすぐったい。
「大丈夫よ。もう痛むところはないし、お母さんが回復魔法を掛けてくれたんでしょ?」
手の中に回復効果を高める教会印の護符が握らされていた。これは先代聖女であるレジーナが内職がてらずっと作っているものだ。モナも幼い頃から修行がてら制作の手伝いをしていたので、誰が作ったかなど一目瞭然だった。
おそらくモナが倒れたと誰かがレジーナを呼びに行ってくれたのだろう。
「でも、キミの綺麗な顔に傷がついていたら大変だ」
「そ、そんなこと……」
前髪を上げ、小さな傷が無いかまじまじと見つめる。そして、額にそっと口付けを落とした。
「まぁ傷物になっていても俺がちゃんと貰うけどね」
「もうっ、ばかっ!!」
(そもそもコイツには私をあげないっつーの!!)
傍目から見れば、まるで恋人がイチャついているようにしか見えない。少し前までは殺し合いをしていたはずなのに、お互いのことを知れば知るほどに友人以上に分かり合えるような、安心感が心を温めてくれる。
「それで、なんで私はレオの部屋に居るの?」
「あぁ、運んだのが俺だったのと、広場から一番近い家がここだったから」
(きっと誰かが余計な気を利かせてここで寝かせたのね。まったくあの人たちは!)
リザとヴィンチのニヤついた顔がモナの脳裏に浮かぶ。あの二人のことだ、あわよくば手を出されてしまえばいい、とでも思ったのだろう。
「ありがとう。じゃあ私はもう帰らなきゃ」
「おっと、まだ動かない方が良い。あれから丸一日近く寝ていたんだ。それに母上も大事を取って今日の午前中まではゆっくり休んでいろってさ」
「えっ……そう、なの……」
窓から差し込む光が明るいと思っていたが、数時間では無くもっと長い間眠っていたようだ。ウルの言う通り、身体には怪我はないようだが、身体はまだちょっと重い。あの戦闘でずいぶん疲労が溜まっていたのかもしれない。
ウルの言葉に甘えて、もう少しだけベッドで休むことにした。
「ん……?」
ベッドの背もたれに寄りかかった時、部屋の中央にあるテーブルに湯気の立つ木のお皿があることに気が付いた。
「それはなに?」
「あぁ、俺が作った麦のおかゆ。起きたらモナが食べるかと思って……でもあんまり美味しくないから、捨てようかと思って」
「ええっ!? だめよ、せっかく作ってくれたのに!」
まさかの、魔王様の手作り粥である。
いったい誰が病人のために試行錯誤してキッチンに立つと思うのか。
若干照れたようにして、お粥を持って部屋の外に出ようとするのをモナが引き留める。
「食べる!」と言ってきかないモナに折れたウルはその粥を手に取ると、彼女の隣りに座った。
そして匙で掬うと、ふーふーと冷まし始めた。
「……自分で食べられるわよ?」
「いいから、待ってて……ふぅふぅ……はい、あーんして」
「えぇっ、ホントに食べさせる気なの? ううぅ……あぁん」
食べるまでは動かないとばかりに、じいっと見つめられては断れない。
モナは目の前に差し出された粥の乗った匙をパクリ、と口に含んだ。
「んぐんぐ。んんっ……あっ、美味しい……」
思っていた以上に、美味しい。
優しい味で、どこかで食べたことがあるような。
(そういえば前世で私が風邪で寝込んだ時、旦那が慣れない料理をして作ってくれたんだっけ。あの味に少し似ているのかも……)
「お粥なんて初めて作ったんだけど、舌にあったようで良かった」
「ウル……ありがとう……とっても美味しいよ」
もぐもぐと味わって食べている様子を見て、ウルもホッとしたようだ。
にへら、と本当に邪気のない笑顔を見せる。
それは、本当にウルなのかと見間違うほどの優しい表情だった。
――トントントン
もう一口、といったところで玄関の方からノックをする音がする。どうやら来客のようだ。知り合いの少ない彼に客とは珍しい。
「誰かが来たようだ。ちょっと出てくる」
残念そうな表情で、席を立って部屋から出て行くウルをモナが見送る。
ちょっとだけ味の変わってしまったお粥を食べながら、部屋の中を改めて見回してみた。
家のレイアウトは以前とほとんど変わっていない。
違うのは家主だけだ。
机の上には、どこで手に入れたのかも分からないような、手書きの魔法陣が書かれた本が山となって積まれている。
彼は何かの魔術の勉強でもしているのだろうか……
「なんだか騒がしいわね……」
帰ってこない今の家主を心配していると、ガヤガヤという複数の人の話し声が聞こえた。
何かトラブルでも起きたのかと思い玄関の方に向かってみると、困惑しているウルが片手にカゴを持って立ちつくしていた。
0
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜
紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま!
聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。
イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか?
※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています
※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる