魔性の王と奴隷契約 〜世界を救った聖女ですが、結婚予定の勇者に乗り移った魔王に溺愛されて困っています~

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
53 / 55

5-12 嘘つきの二人

しおりを挟む
 
 遥かなる昔、創世の時代。
 女神とは別に、この世界には神が存在していた。

 男神と呼ばれた神は現在の魔王城に住み、自分の眷属を創造していた。
 それが気に入らなかった女神は気が遠くなるほどの長い間、その男神と争った。
 二柱の神の実力はかなり拮抗していたが、女神は自身の力を込めた神殺しの槍を創り出し、遂に男神を仕留めることに成功した。


「アイツの力を、私が全て奪ってやった。その時、全能感にも似た感覚を得たのだ……」

 仮面の中でくぐもった声を出す女神。
 神のような威厳もオーラも感じないが、それが逆に得体のしれない不気味さを醸し出している。

「私は更なる贄を欲した。もっと力を得て神格を高めれば、もっと上級の神になれると確信したからだ」

 殺すことで相手の力を得ることが出来ると知った女神は、手始めに彼の眷属を皆殺しにした。

 結果、彼女に敵う者は誰も居なくなった。
 だが女神はそれでも満足できなかった。
 世界を越えて、他の神よりも強くならなければ。
 男神のように、自身の力が奪われないように。

「まだ足りない。そう思った私は、なら他の世界から連れてくればよいと思い付いたのだ」
「それって、まさか!!」

「――そうだ。その存在を魔王として育て上げ、私の分身が倒せば、更に力を得ることが出来るのだ!!」



 豊穣と愛情の権化と崇められ、民からも慕われていた女神の正体。
 それは、満たされることの無い自己への愛欲に塗れた存在だった。

「聖女モナよ。その身体を、私に寄越しなさい。そして女神像の槍を手に取るのです」

 さも当然だと言うように、身体を明け渡せとのたまう女神。
 そんな彼女がローブに包まれた腕で指差したのは、祭壇に安置されている女神像だった。
 凛々しくも美しい姿の彼女が手にしているのは、古の悪神を討ち滅ぼしたとされる神殺しの槍だ。

 実際には女神がかつての兄弟神を滅ぼし、自らが唯一神となるために生み出した特別な武器。
 肉体が滅んでも復活する男神を殺すため、精神体や魂といったものだけを確実に仕留める能力を持つと言われている。
 しかしまさか、この教会の女神像が持っている槍が本物だったとは。

「そしてその使い物にならない勇者の人形を、神殺しの槍をって破壊するのです」


 要するに女神は、魔王討伐のやり直しをモナの身体を使ってやろうとしているようだ。
 ただし今回は勇者ではなく聖女の身体を借り、レオの身体の中に居る魔王を殺す。
 神殺しの槍を使えば、彼の力は全て自分のモノとなって返って来る。


「あ、主よ!! まさか、あの像にあるのは本物だったのですか!?」
「そうだ。私がこの地上で神力を発揮するためのキーともなっている、まさに神器であるぞ」

 代理とはいえ、神の武器を持てるとあれば信徒としてはこれ以上ない程の誉れである。
 その身に女神を宿せるのも、聖女であれば喜んで差し出すだろう。
 だがそれも、今までの彼女モナであれば、だった。

「そんなこと、絶対にお断りよ」
「聖女の洗礼を受けたものは、例外なく私の分身。悪いが、問答無用で従ってもらう」
「逃げろ、モナ!! コイツは魔法でキミを操ろうとしている!!」
「魔王は黙っていろっ!!」

 警告をするウルを隣に居たミケが殴り飛ばす。
 女神はそんな二人に構わず、ガバッと両腕を上げると、ブツブツと何か呪文を唱え始めた。

 どうやら契約魔法の応用で、自分の魂を聖女であるモナに自身の魂を植え付けようとしているようだ。
 両手から放たれたオレンジ色の光球が、狙い違わず目標に命中した。
 これで聖女は再び女神の操り人形に変貌した――かと思われたが。

「な、なぜ魔法が発動しないのだ!?」
「それは当然よ? だって私、聖女じゃないもの」

 頬に手を当て、ワザとらしくふふふ、と上品そうに笑うモナ。
 やがて彼女の姿は次第にブレ始め、少しずつ本当の正体を現し始めた。

「ま、まさか……貴様は……」
「あーあ、残念だよ。アタシはミケのことを応援していたのに。愛してるとか言っておいて、お姉ちゃんのこと……聖女っていう肩書きでしか見てなかったんだね」
「お前……リザだったのか!! クソッ、僕を騙したな!?」
「ふんっ、それはお互いさまでしょ? それよりも……良かった、時間稼ぎは成功したみたいね!」

 完全にリザの姿になった彼女は、なにかを感じ取ったのか教会の入り口がある背後を振り返った。
 その視線の先には、少しグッタリとしている母レジーナの姿と、嬉しそうにピースをするモナが居た。


「ど、どうします女神様!」
「ふん、慌てるな。この場にやって来た時点で、聖女なぞ私の人形よ」



 先程と同じ呪文を使い、ノコノコと現れてしまったモナに向かってオレンジ色の魂を飛ばす。
 高速で一直線に向かったそれは、避けようとしたモナを追尾するようにして衝突した。

「お姉ちゃん!」
「「モナ!!」」
「ははは!! いいぞ、神と同化した彼女こそ僕の伴侶に相応しい!!」

 あっという間の出来事で、結界を張る隙も無かった。
 抵抗も許されず、女神の魂が身体に入ると……モナの身体がビクンと大きく跳ねた。
 そしてゆっくりと、彼女の髪が汚染されたように黒く染まっていく。

 女神の乗っ取りは成功してしまったようだ。
 だがモナは悲壮感に囚われることも無く、それ以上の抵抗することも無かった。
 何かを信じている様子で、不敵な笑みを浮かべるとウルに向かって別れの言葉を吐いた。

「ウル。貴方に最期に伝えとくわ。貴方のこと、やっぱり好きになれなかったわ。むしろこんなことになって……大っ嫌い」
「ふ、ふふふ。そうか、キミの気持ちは良く分かったよ。俺も本当はね、モナのことが大嫌いだったんだ」
「えぇ、そう。それなら……とっても嬉しいわ……この、

 最期の別れ際で、仲違いの言葉を交わし合う二人。
 完全に取り込まれてしまったのか、モナは頭をガクっと力なく垂らしてしまった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...