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5-14 エピローグには花束を
しおりを挟む教会での女神との戦いが終わり、数日が経った。
モナは治療の甲斐あって、無事に生還した。
母レジーナ、妹のリザもかすり傷程度だった。
ウルが死んだからか、それとも契約期間が過ぎたからか。
魔王ウルとの契約は終了し、モナの身体に会ったタトゥーも消え去っていた。
もちろん、彼の気配もどこにも感じられない。
あの戦いの後、モナたちはフレイ=ルネイサス王へと事の顛末を報告した。
最初は信じられないと言っていたが、先代聖女レジーナが受けた被害を事細かに説明すると彼は納得し、激昂した。
王の命令のもと詳細な調査が行われ、様々な事実が判明した。
王子ミケは騎士団を私物化し、部下を利用してスラムの悪党どもと繋がっていたという証拠が見つかったのだ。
だが英雄の一人である彼を汚職を公表するわけにもいかず、病死扱いとなった。
ただし、モナたちが王族を弑した事実は変わらない。
その事実を以って、王はモナ達一族の聖女の任を永久に解くとした。
だが実質はモナを役目から解放するための、王から娘への謝罪のつもりなのだろう。
レオの遺体はあの思い出のタンポポ畑の隣りに弔われた。
墓にやってきたモナは、彼が好きだった赤ワインを手向ける。
世界を救った勇者にしては随分と質素な墓だが、モナは彼らしくていいと思っている。
「私ね……あの最後の戦いで女神のチカラを取り込まれた時に見たのよ。歴代の勇者の戦いを。最初の魔王、その能力を」
誰に言うでもなく、墓標に向かってポツリ、ポツリと独り言を呟くモナ。
そんな彼女に音も無く近寄る人物が居た。
モナは構わず、話を続けている。
「彼の能力は乗っ取りすることだったわ……ねぇ、ジャック。貴方が最初の魔王だったのよね? 外側の人間っていうのは……貴方も私と同じく異世界から来たということ。そして最初からレオもウルも、貴方だった」
女神が最初からウルやレオを乗っ取れなかったのは、ジャックが先に身体を掌握していたから。だから女神は中に居たジャックを槍で殺そうとしていたのだ。
背後に居たジャックはカボチャお化けの仮面を取ると、レオと同じ顔で微笑んだ。
「その通りだよ……でもなぜ俺がウルやレオと同じだって分かったんだ?」
「以前あなたとの会話で天使と悪魔って言葉を言ったわよね?」
「……まさか、たったそれだけで!?」
「ふふふ、そうよ。だって、この世界には神は居ても天使は居ないわ」
存在しないものを言葉にして出せるわけがない。
そしてそれを理解することもあり得ない。
「まさかそんなことで……そうさ、俺はあの女神によって異世界から呼びよせられ、魔王に仕立てられた。女神からずっと逃げ続け、俺はこの機会をうかがっていた」
「私が貴方と同じく、異世界で生まれた魂があると知って利用しようとしたってこと?」
モナは立ち上がると、ジャックの方へと向かい合う。
身体は変わっても、彼は彼のまま。
ウルであり、レオであり、ジャックでもある。
「御名答。だけどボクも元々は女神に作られた身。完全に自由にすることは出来なかったけどね。それにまさか、キミのことをこんなにも愛してしまうだなんて、思ってもみなかったよ」
参った、と頭をかきながら、少し気まずそうにジャックは自分の墓を見下ろしていた。
そんな彼にモナがそっと抱き着いた。
「いいのかい、モナ。俺は何度もキミを利用し、嘘までついた男だよ?」
自分で言っておきながら、ジャックは本当に辛そうな表情を浮かべている。
女神からの呪縛に解放されるためとはいえ、彼も苦渋の決断だったのだろう。
モナは気にしないで、とふんわりと柔らかい笑顔で微笑んだ。
「もういいの。貴方がいれくれれば、それだけで」
「モナ……」
「私はあの時、もう貴方に堕ちてしまったのだから。それにもう……私のお腹には……」
ウルに全てを委ねたあの日、モナの身体には新たな生命が宿っていた。
そしてそれは魔王と聖女の力、つまりは女神の分け御霊でもある。
おそらく、この子がこの世界の新たな神になるだろう。
だから同じことが繰り返されないように、親としてしっかりと育てていかねばならない。
「モナ。これからは契約ではなく、夫婦の契りを交わし、永遠の愛をもって俺と共に暮らしてくれるかい?」
「えぇ。でもあんな嘘はもう無し。当然、ペナルティもね?」
二人のクスクスと笑いあう声と共に、タンポポ畑には暖かく優しい風がいつまでも流れていた。
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