私を毒殺しようとシタ夫と復縁するわけがないですよね?

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

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3/4話

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「……そろそろ潮時ね」

 小さく呟いたその声は、かつての私よりも遥かに力強かった。

 病床に伏していたこの数年、私はただ寝ていたわけではない。本を読み漁り、薬草学、経済、法律、そして領地経営の仕組みを、徹底的に学び続けていた。

 毒を盛られていた? ええ、もちろん気づいていたわ。


 そしてもう一つ——あの医師も、私の計画の一部だった。

 彼は元々、私の主治医でありながら、エドガーの命令で知らぬうちに私に毒を盛っていた。罪の意識に苛まれていた彼に、私はある提案を持ちかけたの。

『このままでは、あなたもただの加害者。でも、私を助けることで救われるとしたら?』

 その言葉に、彼はすぐに頷いた。

 それ以来、彼はエドガーにこう告げる役割を担うこととなった。「奥様はもう長くはありません」——私が仕組んだ“偽りの余命宣告”を。

 私はあえて病弱なふりを続けた。すべては、逆襲の準備を整えるために。

 最初こそ熱や倦怠感に悩まされたけれど、日を追うごとに耐性がつき、今ではむしろ以前よりも体調が良いほど。

「むしろ高価で遠方の貴重な毒草を、タダで提供してくれて感謝しておりますわ」

 誰に聞かせるでもなく、私はくすりと笑った。


 机の引き出しを開ける。中には分厚い帳簿と、証拠書類の束が収められている。

 私が表に出ることは少なかったが、領地の財政はすべて私が裏から動かしてきた。農業改革の進行状況、商人との契約書、収支バランスの報告書——
 それらすべてが、エドガーの“空虚な実績”を否定する動かぬ証拠となる。


 そして私は、一人の男の顔を思い浮かべた。

 ——レオン。

 幼い頃から私の傍にいた、無骨で不器用、だけど誰よりも誠実な騎士。

 彼ならきっと、私のこの“逆襲”に力を貸してくれる。

 私は身支度を整え、夜の冷たい外気に身を晒す。屋敷の裏門を抜け、城下町の一角にある小さな屋敷へと向かった。

 扉を叩くと、無造作に髪を乱したままの男が現れる。

「……ようやくその気になったか、お姫様」



 ◇

 御前会議の朝は、重苦しい雲に覆われていた。

 王都の王宮にある玉座の間——そこは、国政に関わる重臣や有力貴族たちが一堂に会する、最も格式高い会議の場だ。威厳と静けさに包まれたその空間は、普段であれば国家の重要な決定が下される場として機能する。しかし今日、その空間はひとつの家を裁くために開かれた。

 公爵家の内部問題であろうと、王家の威信と関わる以上、ここで裁かれるべきと私は判断した。
 だが、私の心は澄み渡っていた。恐れも迷いもなかった。


 玉座の間に並ぶ貴族たちの視線が、一斉に扉へと向けられる。

 私が姿を現すと、その場の空気が明らかに変わった。

 エドガーが目を見開き、口元を引きつらせた。

「セ……セシリア!? どうしてお前がここに……?」

 驚くのも当然よね、死にかけの女が現れたのだから。

 彼の狼狽する声を背に、私は静かに壇上へ歩を進めた。


「公爵夫人――いえ、現公爵にふさわしき者として、本日ここに参上いたしました」

 ざわめきが一気に広がる中、私はゆっくりと場の中心に立った。

「本日このような場にて発言の機会をいただいたこと、感謝申し上げます。まずは一つ、皆様にお詫びと報告がございます」

 朗々とした声で告げながら、私は一冊の帳簿を卓上に広げた。


「長らく病に伏していたふりをしておりましたが、それもすべて、証拠を掴むための布石でございました」

 玉座の間にいた誰もが息を呑み、次の瞬間、エドガーがわななく声で何かを言いかけたが、それは誰にも届かなかった。

 続いて、私は医師の診断記録、薬草の調合表、そして毒草の摂取履歴を提示する。

「この毒は、夫エドガー・アルフォートによって継続的に盛られていたものです」

 さらに、私が記録していた全財政資料を順に開いてみせる。

「そしてこちらが、わたくしが裏で領地経営を行っていた証拠になります。農業改革の報告書、商業ギルドとの取引契約書、税収の運用記録すべて——公爵家を支えていたのは、彼ではなく、この私です」

 玉座の間に集った貴族たちは、目を見開いて私を見つめていた。


――――――――
最終話は19:30ごろを予定しております。
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