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新しい家と新しい旦那様?③

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「そういえば私、明日から仕事どうしよう……」

 研究所を追い出される形で、リケット男爵と結婚してしまったし……こんな状況の私が復職するのは難しい。リケット男爵は研究所に出資していたみたいだし、スポンサーの顔に泥を塗ってしまったから。
 それにピペット課長が私を許すはずもないし……。


「だったら、民間の研究所に入ったらどうですか?」

「民間かぁ……」

 たしかに、私が勤めていた国立の研究所以外にも、民間に研究所が存在する。

「もちろん先輩なら引く手数多でしょうし、今すぐにでも働き口が見つかると思いますけど……」

 ローグ君はそこで一度言葉を切ったあと、不安そうにこちらを覗き込んできた。

「民間の研究所は国立と強い繋がりがありますからね。今ごろもしかすると、男爵やピペット課長たちが……」

「私がどこにも転職できないように、根回しをしている可能性はあるわね」

 あの人たち、すっごい陰湿そうだから。プライドを傷付けられたことを根に持って、とことん潰しにかかってきそう。私にも貴族のやり口っていうのが、何となく分かってきたわ。

 いっそのこと、夢を諦めて他の職業に就いてみようかしら?


「先輩、良かったら僕の研究所に来ませんか?」

「んー、そうねぇ。ローグ君の研究所なら私も安心して勤められそ……えっ、どういうこと!?」

 私の聞き間違えじゃなければ、“ローグ君の”って言った?

「はい。実は母の病気を治療した後、僕はあの職場を辞めて新しく自分の研究所を開いたんです。だけど思った以上に研究員の人手が足りなくて……」

「え、でもそれって……私なんかが居たら邪魔なんじゃ……?」

「とんでもない! 先輩なら大歓迎です!」

 ローグ君は私の不安を吹き飛ばすかのように、ハッキリと言い切った。


「それに先輩が新薬開発で功績を積めば、叙爵されて貴族になれる可能性があります」

「私が貴族に?」

「そうすれば、平民だ何だのと言われることも無くなります。それに自由に結婚や離婚もできるでしょう」

 そっか……そうだよね。ローグ君のためにも、さっさとこの仮面結婚を終わらせてあげないと。いつまでもこんな私に付き合わせていたら、彼に申し訳ないわ。

(でもちょっとだけ残念、なんて思っちゃったり)

 目の前の食卓を見て、心がズキリと痛む。彼と結婚したら、幸せな生活を送れそうだったから。

(いやいや、何を言っているのよ私は。結婚はもう男爵で懲りたじゃないの。すっかり彼の優しさに甘えちゃったけれど、彼だって本当は自分の好きな人と結ばれたいでしょうし)

 決して“ローグ君が私を好いてくれているかも”なんて、勘違いを起こしてはいけないわ。


「もし先輩が協力してくれたら、僕は魔法薬をより多くの人々に広めることができます。それが僕の新しい夢なんです」

「ローグ君……」

「僕、どうしても先輩と一緒に、夢を叶えたくて……」

 そんな彼の熱い気持ちに感動した私は、思わず泣きそうになってしまったけれどグッと堪えた。年上の先輩として、威厳を保つためにもね!?


「正直に言うと、ある人に出資をしてもらったんですけど、まだまだ資金繰りが大変で。僕としても新しい薬を開発できれば、ある程度は楽になれると思うんですけど……」

 たはは、と恥ずかしそうに笑う彼に私は言った。

「だったら、私でできることは何でも言って! 全力で協力させてもらうわ!」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 こうして私たちは手を取り合い、再び同じ職場の同僚になった。

(ふふふっ、見てなさいよリケット男爵。本当に必要とされる魔法薬師になって、貴方たちの鼻をへし折ってやるんだから)

 この頼りがいのある後輩君となら、きっと何でもできる気がする。

 そんな気持ちを抱きながら、心の中でそんな物騒な考えを巡らせる私であった。
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