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◆アクテリア王国編
第4話 異世界の通貨
しおりを挟む謁見の間を後にした俺たちは、今後の打ち合わせのためにロロルの案内で王城にある部屋へ入っていった。
「ふぅ。ああして話すぶんにはフレンドリーな王様だけど、一国を背負っているだけあって、オーラとかプレッシャーが凄いんだよなぁ。……ってロロルはなにしてるんだ?」
ロロルは俺の後に続いて部屋に入ると、そのまま後ろ手で素早く鍵をガチャリと閉めてしまった。
「おっと白百合ちゃん、こんな密室で真っ昼間から何するつもりかな? いや、僕はバッチコイだけど……ん?」
急に頭を抱えてどうしたんだ?
「はぁ~。勇者勇者と様々な能力貰っても、ここまで頭が悪いと最悪ね。それに私の名前は白百合じゃなくてロロルよ。お花でいっぱいなのは、アンタの頭の中だけで十分だわ。ていうか私の許可無く口を開かないでくれる? 見て、鳥肌がさっきから止まらないの」
突然人が変わったように、本気で嫌がりながら自分の身体を抱くロロル。
……さっきまでのエンジェルスマイルはどこに!?
「あぁ、言っておくけど、私に幻覚とか精神に作用するスキルとか効かないから、私を堕とそうとしてスキルを使っても無駄よ」
「ふ、ふえぇぇええ……」
「あぁ、そういえばアナタ、薬師なんですってね。そのクズっぷりだと、向こうの世界にも馬鹿につける薬は無かったみたいね。それともあまりにもおバカ過ぎて塗らずに飲んじゃったのかしら? アハハハハ」
「あは、アハハハハ! アババババ」
「うわっ泣いた! いい歳した大人が! 勇者が! アハハハ!!」
そこまで言わなくたって良いじゃないか!
こちとら元社畜人生でメンタルがボロボロなんだぞ!
そうだ。コイツが魔王だったんだ。勇者を苦しめる魔王は最初からここにいたのだ。
俺にはコイツには勝てる気がしない。ゲームオーバー。この物語はバッドエンド、はい終わり……!!
◆◆◇◇
「で、これからの旅の目的だけど」
「……」
「ねぇ、聞いてるの? 会話してるんだから反応を返しなさいよ。さっきまで頼んでもないのにしゃべくり倒してきたくせにさぁ?」
「うん」
「この旅の大目標は魔王の討伐、もしくは侵攻をやめさせる。小目標として、魔王に対抗する力を集めること」
「うん」
「……いい加減にしないと殴るわよ?」
「うん……って痛ぁ! いきなり殴ることないだろ?! しかも俺の防御チートを貫通してくるって、いったい何者?! この世界に来て、初めてダメージ受けたんですけど!?」
「あら、私が初めての人なんて光栄ね。アンタって殺しても死ななそうだし、私がそっちのバージンも奪ってあげようか?」
「やめて!? すでに心のライフはかなり失ってるから!」
「……話を戻すわよ。あの王も言ってた通り、これから私達は聖都ジークを目指すことになるわ。まぁ移動用の魔導機を使えばそう遠くはないと思う」
「魔導機?」
「あぁ、魔導機っていうのは地球で言う車ね。タイヤを無くして魔導エンジンにして、空を飛ぶ様にしたモノと考えてくれればいいわ」
「おぉ~! 街で見かけたアレかぁ。初めて見たときはこれぞファンタジー!って感動したよ」
「アレは個人で所有するには燃費が悪いし、何より燃料として魔結晶が必要だからまだ一般利用はされていないけどね。ジールについてはもう理解してるわよね?」
――ジール。
魔王との戦争の原因ともなっている、魔力エネルギーの結晶体のことだ。だが魔法が発展したこの世界でも、詳しくはまだ解明できていない。
3つの世界を創生した神が作ったシロモノだとか、魔力が濃縮されて結晶化した物だとか、様々な仮説は立てられているが……いまだ解明には至っていないらしい。
「ジールはその特性から、この世界の通貨にもなっているわ。アンタもちゃんと扱いには慣れておいてね」
「へーい。普通の硬貨より便利だってんなら、俺も歓迎だぜ」
「昔はそういうのも使っていたんだけどね……」
ロロルにこの世界の通貨について聞いてみたが、元いた地球と同じように大昔は金貨や銀貨を使っていたようだ。
しかし含有量を誤魔化した貨幣が裏で造られるようになった。
それが各地であまりにも大量に造られたせいで、本物の金が持っている価値が下がり、石ころ同然になってしまった。
「そこはこう、魔法でどうにかなんなかったのか?」
「当然、やったわ。貨幣価値を守るために、国のお抱え魔導師達が必死に真贋を判断する魔法を開発したの。でもそれを回避した偽金作りが生まれて……結局はイタチごっこだったわ」
「うーん、そうなのか……」
それぐらい貨幣制度というのは難しいようだ。
「俺がいた日本でも、ちょっと前まで自販機で海外のコインを削った偽金が使われてたぐらいだしなぁ。でも悪く言われてる金貨や銀貨だって貨幣そのものとしては実は割と優秀で、俺の国じゃ爺さんの時代でも普通に使われてたんだぜ? 技術さえあればどんな時代、場所でも使える信用のあるお金なんだよ」
今でこそ金貨や銀貨はファンタジーのお金のように扱われているが、日本においても昭和の時代まで実際に使われていたのだ。それぐらい優秀だった。
「でね、数百年前のドワーフの練金王が、貨幣に使える画期的な新素材を発見したの。魔鋼石って言うんだけど、これが凄いのよ!? 結晶体を魔鋼石に触れさせるとね、なんとビックリ。ジールの中の魔力を吸い取って蓄えてくれるの! 持ち運びも保存もこれ一つなのよ!?」
「おぉ~? まるで充電池だな」
「凄いでしょ? 取り込んだ魔力は放出することもできるのよ」
「魔力は様々なエネルギーになるのか」
「そういうこと。魔力そのものに価値があるから、お金にもなるってこと」
なるほどなぁ。さすがは不思議鉱石である。
なんでも錬金王はその発見だけで莫大な財を成し、国まで作ってしまったらしい。成り上がりドワーフドリームだ。羨ましい。
「うーん、理系としては興味深い物質だな~。元々の結晶体にエンタルピー的なモノがあって、それが移動するのか? しかしエントロピーはどうなってるんだ? 目に見えないエネルギー? 熱? いや光に近い性質なのか? 波長パターンで性質が変わる? いやそもそも生き物の魂がエネルギーになるっていうのは……」
「……全然何を言ってるの? アンタって頭が良いのか、ただの性欲馬鹿なのか分かんない人ね……」
そこは素直に褒めておいてくれませんかね!?
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