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◆アクテリア王国編
第8話 いざ、聖なる都ジークへ
しおりを挟む立ち込めた砂煙が晴れると――
「くぅー?」
――犬がいた。
「いやいやいやいや! 菌の話してたよね?! なんで犬が? というかモンスター……なのか?」
「キャーーッ! 可愛い! もっふもふよ! もふもふ属性キター! 飼いたい! もちろん飼うのよね?!」
小型犬のサイズにクリーム色が混じった、ふわふわの白い毛並み。
トイプードルとマルチーズを合わせたような顔の犬?がつぶらな瞳をこちらに向けている。
「ていうかコレ、実家で飼ってた犬に似てるんだよなぁ。なんでだ?」
「くぅ? くぅーっ!」
気付いてくれた!と言わんばかりに尻尾をブンブン振り回し、二人の間を駆け回る犬。
実家の犬を懐かしく思い抱き上げると、またもやぼわん!と煙を上げた。
「きゅきゅきゅー!」
「「カメェエエエ?!」」
今度は俺の手に、掌サイズの亀がいる。
わしゃわしゃと手足を動かし、必死に存在をアピールする亀。
「こ、コイツは小学生の頃、縁日で買ってもらったミドリガメ、その名も安息香酸! 略してアンさんじゃないですか! お久しぶりですぅ!!」
ちなみにこんなフザケた名前を付けたのは、当時高校生だった俺の姉だ。苦手な有機化合物を覚えるためだけに命名されてしまった記憶が蘇る。
「ちょ、ちょっと。どういうことなのか私に説明しなさいよ!!」
もふもふから一転、首をウネウネと卑猥に動かしている亀。改めアンさんを見たロロルが悲鳴のような声で叫ぶ。
「うぅーん。恐らくだが、俺にくっついて転移してきた菌が原因かもしれん。転移の影響と俺の魔力が何らかの作用を起こし、突然変異を起こしたのかな?」
「はぁ? そんな馬鹿なことが起こるわけ……」
「じゃなきゃ、俺が実家で飼っていた動物に変化するハズもないし。ん? もしかして実家に居たGに変化したりしないよな? 擬人化して『じょうじ』とか言い出したらシャレに――ひっ!?」
アンさんを見ながらそんなことを言うと、亀の頭でニヤァと笑った幻覚が見えた気がした。
◆◆◇◇
「それで、この子はどうするワケ? 有害そうには見えないけど……」
「うん、それは心配ないと思う」
何となくだけど、アンさんの意思を感じ取れるんだよな。だからこちらに害を及ぼすことは無いと思う。
「そ、そんなことって……ゔっ。わ、分かったわよ! 分かったから二人して頭をウネウネするのやめてよ! なんか卑猥だし、気持ち悪いったらないわ!」
「キモイとは心外な! 俺はともかくアンさんはメスだぞ!」
「逆に心配になるわ!!」
ロロルの必死の説得により、普段は犬形態となることに決定したアンさん。
「んー仲間も増えたし、旅も楽しみだな!」
「私はよく分からないのが増えて不安が増したわよ……」
◆◆◇◇
愉快な旅の仲間を増やし、俺たちは何事もなく目的の都市、ジークに着いた。
この聖都ジークは、王都モノガルの東に位置する。
この街の目玉といえば、なんといっても大聖堂カシードラだ。ここは女神を信奉するマーニ教の総本山であり、大陸の各地、果ては世界を超えて人々が訪れ、神に祈りを捧げている。
信徒だけではなく、王都との交通の便も良いため商人の往来も多いこともあり、王国第二の都市として発展した経緯を持つそうだ。
「王城にも負けないという巨大な大聖堂か……観光スポットにオススメってガイドブックに書いてあったが……なんじゃこりゃあ?!」
見上げた先には、確かに巨大な大聖堂が建っている。
ただし、超がつくほどのファンシーである。
「これはファンタジーっていうより、ファンシーだぞ……」
五つある尖塔はソフトクリームのような形をしている。
全体的にパステルカラーの黄色やピンクで彩られ、入口にある五角形のレリーフには、大きな文字で"まーに"と書かれている。
「え? 可愛くない?」
「ロロルの美的センスはどうなってるんだ……」
ロロルは何の違和感も持っていない様子だ。これも異世界特有の価値観何だろうか……。
「……まぁ、可愛さは置いておくとして。これだけ街が発展していれば、ご当地グルメは期待できそうだな! なになに? ジーク焼きにマーニサンド? おいおい"女神まん"ってなんだよ?! 女神様のおっぱいと同じ大きさ? もちろん二個セット? 下ネタじゃねーか!」
「おいおい兄ちゃん、馬鹿にしちゃいけねーよ。俺ァこの女神まんに人生かけてんだ! 長年この味を守ってきてんだぜ?」
俺がツッコミを入れていると、店主のオッチャンがムッと反論を返す。どうやらこの街のれっきとした名物だったらしい。
それは悪いことをしたな、と思っているとオッチャンの背後から大柄な女性がやってきた。
「なーにが『俺がこの味を守ってきた』よ! アンタが女神様のおっぱいが好き過ぎて始めた商売だろう!」
「げっ! 母ちゃん!」
「ほら! 店先でサボってないで、アンタは追加の仕込みでもしてきな!」
鬼のような奥様は、おっちゃんの耳を片手で掴んで、店の奥に引きずっていってしまった。
「……さぁ、行きましょうか」
「そ、そうだな」
観光はあとにして、俺たちはさっさと目的の大聖堂へと向かうことにした。
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