11 / 45
◆アクテリア王国編

第11話 教会の役目

しおりを挟む

「ああっ、すみませんリタ様ぁぁあ! 俺はロクに仕事もできない、無能なブタ野郎なんですぅう! もっと叱ってくださいぃいい!」

「欲しがりさんですねぇ! いいですよ、ケツを僕に向けるといいですっ!」
 
 新たに知り合った神官リタの職場見学に来たのだが、そこにはSMプレイとしか思えない光景が広がっていた……。


「……大丈夫なのコレ?」

 ここって大聖堂ですよね?
 神聖な場所でHENTAIプレイなんてしていいの?

「えぇ、ココはこの為の部屋ですのよ」
「そのための部屋……?」

 一見すると、教会にある懺悔室。
 しかし、そのやり取りは懺悔とはかけ離れている。


「ここでは民の不満や願いを、神の代理として私達が聞き届けるの。だけど普通に告白しようとしてもなかなか言い出せないでしょ? だからこうしてるの」
「えぇ……神様も困惑しません?」
「そんなことないわ。それに民の意見を権力のある我々が吸い上げることで、国政にも反映できているのよ」

 職人や下っ端商人、丁稚など下働きの人間の言葉など、貴族以前に上役に握り潰される。嘆願書を書いても、役人や貴族の目を通している間にたらい回しにされ、手遅れになる。

 そこで教会が声を聞き、必要があれば直接国王へ上奏するし、違法な扱いが行われていれば憲兵が立ち入る事もある。
 ましてや枢機卿は王妹である。
 政治と宗教は分離されるべきであるが、それはそれだ。民に利がある分には有効となる。

「この部屋では多少の暴言や悪口も、女神様の慈悲で見逃してくれるんです」

「うーん、じゃあ良いのか? でもレイナさん……コレ、本当は諜報も兼ねてるんでしょ?」

「あら、意外に無粋な事も言うのね? まぁ生優しい理由だけじゃないのは事実よ」

 そりゃ国民たちの不穏な噂ひとつでは国は揺るがないとは思うけど。数が集まれば手遅れになることもあるしな。使えるものは全て使っていくスタイルなんだろう。


「クククク……愚痴を聞いて煽るだけで喜捨お小遣いを貰えるなんて、ボロい商売ですぅー。人の秘密で食べるご飯は最高ですぅ! あぁ、関係者にある事ない事噂流してメチャクチャにしてやりたい!ですぅー!」



「…………」
「か、彼女はちょっとだけ特殊だけどね」


◆◆◇◇


「ふぅ~今日も立派にお勤め金稼ぎしたです! アキラ様も一度どうです?」

「いや、なんの不平や不満もないんで大丈夫です……と言うよりそこまで気に入ってる職業みたいなのに、俺にくっ付いて旅に出て良いのか?」

「はいです! そもそも、ボクが自分で行きたいとお願いしたであります。アキラ様の旅に同行させて貰えれば、ボクが住んでいた村にも行けるかもしれないです」

 あぁ、リタは故郷である第二世界からこっちに飛ばされてきちゃったんだっけ。そりゃ機会があれば帰りたいと思うか。

「……もし家族が死んでしまっていても、せめてお墓を作ってあげたいんです。それが神官でもあり、家族としての役目でもあると思うです」


 大きな瞳で真っ直ぐに俺を見つめる、背の小さな女の子。おちゃらけた性格は、もしかしたら彼女のつらい過去を誤魔化すために身に付いた結果なのかもしれないな……。


「そうか。うん……分かった。勇者としての務めは最優先にさせて貰うけど、どうせ世界を回る旅だ。ちょっとぐらいの寄り道はできるよ」

 先を急ぐ旅ではあるけれど、それぐらいは許されるだろう。

「チョロいわね~」
「チョロ可愛いわぁ」
「うるさいなあ!」



 ◆◆◇◇

「ともかく、新しい武器である神器は無事手に入ったな」

「アンタの身体から出てきた奴よね」

「あぁ。この大聖堂にあった神器は聖剣クラージュって言うんだっけ?」

「そうよ。と言っても扱う者によって姿形も違えば、性能も違うわけだけど。アンタのそれは随分と変なフォルムね」

「随分刀身の部分が短いわねぇ。短槍かしら?」


 ロロルとレイナは不思議そうに俺の持つ聖剣を眺める。


「これは俺が居た世界ではメスって呼ばれていたんだ。って言っても本来は掌サイズの刃物なんだけど。皮膚を切り開いて、病気になった内臓などを切除するのに使ったりしたんだ」

「ピョッ?! アキラ様の世界の医者は悪魔でありますか?!」

「ん~やっぱり、この世界では外科的なことに対する感想はそうなるんだよなぁ。治療魔法が存在しているし」

「アキラ君の言う治療法も、悪い部分は取ってしまえ、と言う点は理解できるわ。でも私たちは、何がどういう理由で臓器が悪くなっていて、どういう処置をすればいいのかまではまだ分かってないのよ」


 この世界はモンスターという共通の敵がいるため、国家同士であまり戦争をしない。人に対する化学兵器は開発されないし、人体実験など教会が許さない。

 民間レベルで医師たちが病理解剖などをするかもしれないが、それでも限界があるのだろう。

 王城の図書にも書かれていたのは僅かだったし、城下の診療所も同レベル。せいぜい軍医がモンスターにやられた傷の治療を行なっていたぐらいだ。


「まぁこの世界の医療事情はおいおい話すとして、だ。俺もこの世界に来てから、多少は剣の訓練はしてきた。だけど兵士との対人戦だし、モンスター相手じゃない。だから武器の調整がてら、この辺りのモンスターで肩慣らしをしたいんだけど……どうかな?」

「いいんじゃない?」
わたくしもそう思いますわ」
「ボクも、勇者の力を見てみたいです!」

「よし、それではある程度の期間はここを拠点とし、モンスター狩りをしよう!」

「じゃあボクが安くて料理の美味しい宿を紹介するです」

「そういえばアンタ、冒険者機関に登録はしたの? モンスターを討伐したら報酬が出るわよ?」

 おっ、そうなのか!
 そりゃそうだよな、異世界と言えばそうこなくっちゃ。

「まずギルドに行くのは定番だったよな~。んで、顔の怖い先輩に絡まれちゃったりして、返り討ちにするだろ? それで影で見ていたギルマスが「お前はSランクだ!」とか言っちゃって~」

「アンタがなにを言ってるか分からないけど、冒険者機関は各国が加盟してる公的機関よ? そんな横暴なことをしてる奴が居たら、問答無用で牢屋行きだわ」

「……で、ですよね~。まぁ平和なのは良いことだ。よし、行ってみよう!」


 まだ仕事があるレイナと別れ、意気揚々と大聖堂を後にした三人と一匹。「ボクに着いてくるです~」とリタに案内してもらったのだが……


「なんだよ、大聖堂の真ん前じゃないか」

 目的の冒険者機関は、道路を挟んだ向かいの建物だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~

黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』

宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?

転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流

犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。 しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。 遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。 彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。 転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。 そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。 人は、娯楽で癒されます。 動物や従魔たちには、何もありません。 私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!

処理中です...