24 / 45
ヘリオス王国編
第24話 大海原の上にて
しおりを挟む本日も快晴、風は穏やかな追い風。
絶好の船出日和だ。
「……ロロルさんが作る"てるてる坊主"のおまじない、効果あり過ぎて怖くなってくるんだけど」
ロロルは毎晩、「あ~した天気にな~れ~」と呟きながら、人間と等身大の人形を何体も、何体もせっせと作っている。
そして人形の首に紐をくくりつけ、ウッキウキで天井に吊るしているのだ。
彼女が作る人形は日を跨ぐたび、倍々に増えている。今朝見た時には、ついに二十体を越える人形が部屋で首を吊っていた。
……アレを夜中に見たら、恐怖で失神すると思う。
「あれ、言ってなかったっけ? それが私のスキル、呪願の一つよ」
「おいおいおい。そんな話、初めて聞いたぞ」
「アンタに私の能力を聞かれた時に言ったわよ? 『私の武器は口よ』って」
そんなんで分かるかぁあ!
ていうか口が武器ってなんだよ!!
ただの毒舌かと思ったわ!
「っていうか呪願ってなに!? すごく不穏な響きなんですけど?」
「私が想いを乗せた言葉は、スキルによって魔力を持ち、周囲に効果をもたらすの。願う効果が強力なほど、その分かかるリスクやコストが大きくなるんだけどね。だから何でもかんでも自由に願いを叶えられるってワケじゃないわ」
……そんなのムチャクチャだ。
裏を返せば、コストさえ用意できれば天変地異だって起こせるってことだろ? 実際、天候まで操っていたってことだし。
「なんでも願いを叶えるって、これ以上ないチートじゃないか!! 下手すりゃ魔王だって討伐できるんじゃ……」
あれ?
勇者である俺って本当に必要なのか??
「だからかなり制限があるんだって。死ねって願えば簡単に死ぬわけじゃないもの。スキルの発動には呪文を口にしたり、特定の儀式をする必要があるわ。それに回数制限や必要な魔力も尋常じゃ無いの」
だからてるてる坊主が大量に集団自殺させられていたのか。
吊るされた人が日毎に数が増えていたのは、コストが倍になるからか?
「まぁそういうワケで、必要最低限しか使えないから、あまり期待はしないで? あくまで運動会の日を晴れにするくらいの能力なのよ」
「いや、それでも十分ヤバい能力だと思うが……」
運動オンチの俺としては、運動会は雨にして欲しいなぁ。
……ん? そういえば雨には出来ないのか?
アレ? 逆に吊るせば雨だっけ??
ぶっ壊れ性能のスキル持ちだったとしても――ロロルはロロルだ。……毒舌が多少レベルアップしただけだと考えよう。
アレコレ悩んでいるうちに、船の荷物が積み終わり、出航の準備が整った。
「クククク! アキラ様がドンドン無能キャラになっていくですねー!!」
あぁ、そうだ。毒舌なのはもう一人居たんだった……。
押し寄せる絶望と恐怖から逃げるように、俺は船に乗り込むのであった。
◆◆◇◇
「うぉーっ! 帆船って初めて乗ったけど、スゲェ速いんだな!! 気持ちイイ~!!」
「ガハハハ! そうだろう、そうだろう!! ウチの船乗りは風魔法が得意だからスピードはピカイチだぜ!」
それに海は自由で開放的だ!
いや~、最高だよな~。
「って、いやいやおかしくない? さっきから気付いてはいたけど、なんで組合長のはずのトゥーリオさんがこの船に居るんだよ!?」
船の甲板に立つのはゴリラのような体躯に、ピッチリとしたビキニパンツ姿の組合長。どういうわけか知らないが、トゥーリオさんが居た。
顔が強面なので、船乗りというより海賊にしか見えない。
「なんでって、俺ァ船持ち共のトップだからよ。トリメアの街をモンスターが襲った一件で、ヘリオス国の方へも報告の為に面ァ出さなきゃなんねーのよ」
あー、そうか。
国家間の付き合いがあると、そういうやり取りも必要になるのか。
それにしてもわざわざ組合長が報告に行くって大変だな……。
「組長は仕事ほっぽり投げて、自由に船に乗りたいだけでさぁ。まぁ、ガキのワガママみてぇなもんですから、ほっといてやってくだせぇ!」
「そういうテメェも、同じ穴のムジナだろぉがよ!」
「「がははは!!」」
「…………」
「アキラ、この人たちは放っておきましょ」
「そう、だな……」
呑気に笑い合うバカたちは、もう視界に入れないことにした。
◇◇◆◆
「我が海に戻った時に確認したが、ピギールの群れはもう大人しくなっておったよ。結局街を襲った理由は分からんかったが、アキラが使った策があればまた襲撃があっても大丈夫じゃろう」
レジーナさんがアルコール入りのグラスを片手に、優雅に語りかけてくる。中身はすっかり彼女のお気に入りとなった、アキラ特製プリュネ酒だ。
「気に入ってくれたのは嬉しいけど、このペースじゃヘリオスに着くまでに全部飲み尽くされそうだなぁ。まぁあれから梅も買い足したし、船の上でまた作るからいいけど」
あとは梅酒以外にも梅干しを作る予定だ。いやぁ、楽しみ楽しみ。
「んふー。このような美しい酒こそ、麗しき我にピッタリじゃろ? もっと沢山作って、どんどん我に献上するがよい! ンフフフ!」
グラスを眼前に掲げ、日光で煌めいたプリュネ酒の琥珀色の色彩を楽しむレジーナさん。
彼女はちょっと尊大な態度だけど、喜ぶ仕草が可愛いので俺は満足だ。
「そういえばヘリオス国側の港街の名前って、"テトリア"って言うんだっけ?」
トリメアとテトリア。名前の語感がちょっと似ている街だ。
「そうじゃ。たしか数代前のアクテリア王国の王子と、ヘリオス王国の王女同士が結婚したんじゃったかの? その友好の証に、其奴らの子の名前を、街の名前にしおったのじゃ」
「リタも知ってるですよ!! その話は今でも、演劇の題材になってるですっ! アクテリア第三王子とヘリオス第四王女の、国と海を越えた大恋愛は世の中の女性のあこがれなんです! そのお二人は船での商売を始めて、のちに貿易王と呼ばれたですよ!」
手を組み、目をお金の単位に変えてウットリするリタ。
……そのリタの理想って、大恋愛うんぬんじゃないよね? ただ王族と結婚してお金が欲しいとかじゃないの?
「おっ? なんだ、俺の曾祖父さんの話か! そうそう! やっぱ男は海に出なきゃだよな!」
「「「「はい?」」」」
「ん? 貿易王の話だろ? 俺っちがその孫。トリメアとテトリア、トゥーリオ。似てるだろ?」
「えぇぇえぇえぇぇぇぇ~!?」
ビキニパンツ一丁で仁王立ちになりながら、「ガハハハ!」と笑うトゥーリオさん。
こ、コイツ……まさかの王族関係者だった。
ん? 待てよ……じゃあ俺が召喚されたときに世話になったあの国王とも、遠いながらも血が繋がってるってこと??
「なんだか複雑ね」
「全然似てないです……」
あのイケメンの国王と、この海賊ゴリラが親戚関係だと考えると――遺伝子の悪戯はこうも残酷なんだな、と感じてしまう勇者一行なのであった。
11
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
異世界に召喚されたけど、戦えないので牧場経営します~勝手に集まってくる動物達が、みんな普通じゃないんだけど!?~
黒蓬
ファンタジー
白石悠真は、ある日突然異世界へ召喚される。しかし、特別なスキルとして授かったのは「牧場経営」。戦えない彼は、与えられた土地で牧場を経営し、食料面での貢献を望まれる。ところが、彼の牧場には不思議な動物たちが次々と集まってきて――!? 異世界でのんびり牧場ライフ、始まります!
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
『異世界に転移した限界OL、なぜか周囲が勝手に盛り上がってます』
宵森みなと
ファンタジー
ブラック気味な職場で“お局扱い”に耐えながら働いていた29歳のOL、芹澤まどか。ある日、仕事帰りに道を歩いていると突然霧に包まれ、気がつけば鬱蒼とした森の中——。そこはまさかの異世界!?日本に戻るつもりは一切なし。心機一転、静かに生きていくはずだったのに、なぜか事件とトラブルが次々舞い込む!?
転生能無し少女のゆるっとチートな異世界交流
犬社護
ファンタジー
10歳の祝福の儀で、イリア・ランスロット伯爵令嬢は、神様からギフトを貰えなかった。その日以降、家族から【能無し・役立たず】と罵られる日々が続くも、彼女はめげることなく、3年間懸命に努力し続ける。
しかし、13歳の誕生日を迎えても、取得魔法は1個、スキルに至ってはゼロという始末。
遂に我慢の限界を超えた家族から、王都追放処分を受けてしまう。
彼女は悲しみに暮れるも一念発起し、家族から最後の餞別として貰ったお金を使い、隣国行きの列車に乗るも、今度は山間部での落雷による脱線事故が起きてしまい、その衝撃で車外へ放り出され、列車もろとも崖下へと転落していく。
転落中、彼女は前世日本人-七瀬彩奈で、12歳で水難事故に巻き込まれ死んでしまったことを思い出し、現世13歳までの記憶が走馬灯として駆け巡りながら、絶望の淵に達したところで気絶してしまう。
そんな窮地のところをランクS冒険者ベイツに助けられると、神様からギフト《異世界交流》とスキル《アニマルセラピー》を貰っていることに気づかされ、そこから神鳥ルウリと知り合い、日本の家族とも交流できたことで、人生の転機を迎えることとなる。
人は、娯楽で癒されます。
動物や従魔たちには、何もありません。
私が異世界にいる家族と交流して、動物や従魔たちに癒しを与えましょう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる