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ヘリオス王国編

第43話 強者の風格、勇者の闘い

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 森から現れたのは、強靭きょうじん鱗鎧スケイルアーマーを持った龍鱗狼ウルフザードだった。
 狼といっても鋭い目つきと長い尻尾、そして今にも噛み殺してやらんと言わんばかりにグルルル、と立派な歯を剥き出しにしている。
 もはや古代の恐竜として存在していたといっても信じてしまいそうな巨大モンスターが、呆然とする俺たちの面前に立ち塞がっていた。

「ちーっとコイツぁ厳しくないか? これってゲームで言えば、ラストダンジョンにポップするようなモンスターだろ。俺……まだスライムと魚しか倒してないんですけど!?」

 嘆きながら右手をグッと握り締め、気をこぶしに集めて神器を解放する。
 光り輝いて出現したのは、巨大化した医療用メスの形状をした片刃のバスタードソード。その名は『聖剣クラージュ』。
 聖都ジークにて女神より与えられた、邪をはらう聖なる武器だ。

 ……しかし対するは未曾有みぞうの敵だ。
 あの堅そうな鱗鎧を裂くことができるかは、正直に言って分からない。

 それに相手の総勢は五体。
 こいつらが狼の習性を持つならば、連携を取ってくるはず。

 そう、狼というのは群れで狩りを行うのだ。
 基本的に夫婦でペアを作り、それが複数集まって群れが形成される。
 その中で最も強い力を持つものがリーダーとして指示を行い、戦術を持って相手を追い詰めるらしい。

 つまりコチラが数で負けている現段階では、相当に分が悪い。それに……

 ――相手は

 どうして分かるかって?
 奴らは俺達が言葉を介して対策を立てようとしているのを、大人しくからだ。
 どこまで理解しているかは不明だが、どうも人間相手の戦闘に慣れている様子だ。下手すれば、俺たちがどう抵抗するのかを楽しんでいるさえもある。

 ――人間を舐めやがって。
 コイツら、俺達の会話なんて無視して襲い掛かることだってできたはずだ。
 それを何もせず見てやがった。

「クソッ、いつでも喰ってやるってか!? 調子に乗りやがって……」
「ちょっと、やめなさい!!」

 俺はクラージュを両手で握ると、ロロルの静止も無視して目の前の龍鱗狼に袈裟懸けに切り掛かった。

『グギャァアッ!?』

 経験したことのない緊張感が、アキラの付け焼き刃の剣術を更に鈍らせる。
 かろうじて龍鱗狼の左顔面を傷付け、多少怯ませることには成功したが、致命傷には全く至らなかった。
 むしろ顔半分を血に染め、残った右眼で怒りの形相ぎょうそうを向けてくる龍鱗狼。

 しかもそれは斬られた本人だけではなく、仲間達をも激昂げきこうさせてしまった。

 もはやコイツらがこれ以上、このまま様子見をしてくることはないだろう。
 その証拠に、ジリジリと俺達の周囲を取り囲むように近寄ってきた。

 俺達も死角になる背後を取られないよう三人で背中合わせに集まるが、これで容易よういに逃げることは不可能になってしまった。

 今ここで攻撃系の魔法を扱えるのは、俺だけだ。
 試しに牽制けんせいの為に炎や氷をぶつけてみるが、魔法耐性が高いのか鱗鎧に阻まれてしまい、ダメージを与えられている気が微塵もしない。

 そして更に少しずつ間を詰めてくる龍鱗狼達。
 もう俺達との距離は、コイツらが吐く生臭い息を感じられるほどに近くなっていく。

 最悪なことに、先程俺が斬りつけたのが群れのリーダーだったらしく、配下と思われる狼達の殺気がビシビシと肌を刺してくる。
 ここまで怒らせてしまったら生き残る手段はただ一つ。

るしか……ないようだな」
「もう! 各個撃破するとか、他にももっと色々と方法があったでしょ!?」
「ねぇねぇ、ロロルさん。アキラさんをおとりにすればワンチャンあるんじゃないです? ……ワンちゃんだけに」
「おい、リタ!? お前意外に余裕あんのか? ロロルもその布団叩きはタダのオモチャかよッ!」

 ってそんなケンカしてる場合じゃねぇ!
 現状を打破する方法を考えろ!
 何か無いか……このままでは不味い!!

 お互い警戒したように睨み合う。
 ついに痺れを切らしたのか、下っ端の龍麟狼が先鋒せんぽうとして飛び掛かってきた。
 狙いは――やはり小柄なリタか!!

「っ!? くうぅ……!!」


 初手、噛み付き。
 リタは咄嗟とっさメイス釘バットを口内に差し込み、初撃をどうにか耐えた。
 龍鱗狼はよだれをダラダラを垂らし、前脚で邪魔なメイスを引き剥がそうと激しい抵抗を見せる。
 そして鋭く尖がった爪の先が、リタの神官服を薄く引き裂いていく。

 相手は二メートルを超える体躯の持ち主だ。
 小柄なリタとは明らかにウェイトが異なる。
 このままでは彼女は押し潰され、直ぐに肉の餌と化すだろう。

「ヤロウ、こっちがガラ空きなんだよッ!!」

 こちらだってタダでやられるつもりはない。
 ここまで接近したら、いくら手が震えていても外さない!!
 俺は意を決し、デカイ胴体に向けて槍代わりにした聖剣を真っ直ぐに突いた。

『グァアァアオオ!!』

「クソ!! もう少しだったのに!!」

 しかし、今回はモンスターも油断することは無かった。
 他の仲間がうなり声をあげることで注意を促し、狙った龍鱗狼は素早いバックステップで回避してしまった。

 リタの方と言えば、今の一撃が相当危なかったのだろう。
 珍しく玉のような大粒の汗を顔面にかいている。

「はあっ、はぁっ……これ、何度も受け続けるのは無理ですよ!! まとまって来られたら洒落にならないです~!」
「分かってる……!! なにか打開策を……」

 とは言っても、あまりにも持てる手札が少ない。
 聖剣、魔法、ロロルの呪願プリエール、リタの打撃……なにか、何か無いのか……!?
 って、何か忘れているような?

「次、来るわよ!! ってアンタ、何してるのよ!?」
「おい……アンさん救世主はどこに行った?」




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