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金貨の章
♦14 手の平の上
しおりを挟む立夏の姉――山科花音は河口総合病院に勤める五年目の看護師である。
脳外科病棟に配属され、中堅の看護師として日々患者のケアに勤しんでいた。
彼女は病院のヒエラルキー上位である医師や師長にも決して物怖じをしない。間違っていると思うことはキチンと言うし、自身に対しても厳格だった。
それは命を預かる職業として当たり前だと思っていたし、誇りにも思っていた。
かといって彼女はただ厳しいだけでは無かった。
患者に対して丁寧な応対をするだけではなく、後輩のフォローも怠らない。
花音を煙たがる医師や上司はもちろん少なからず居たが、それでも彼女の仕事ぶりは認めざるを得なかった。なにより誰に対しても分け隔てなく平等に接する姿勢は、誰の目にも好印象に映っていた。
昼のラウンド――患者の体温チェックが終わり、花音は早足でナースステーションに戻ってきた。すると先輩が「花音に客だよ」だと言う。
いったい誰だろう。こっちは仕事中で忙しいんだけどなと思いつつ、その客が居るという休憩ラウンジに向かった……までは良かったのだが。
「妹が買った本を渡してほしい……?」
「はい。このままでは異能を持った殺人鬼に狙われかねませんので」
「はぁ……」
彼女は対人スキルに自信を持っていた。
しかし今、目の前にしている二人組に対して、どう接すればいいのか測りかねていた。
「取り敢えず、立ち話はなんだから座りましょう? 何だか話も長くなりそうだし」
彼女はそう言ってラウンジのテーブルを指差した。
悠真たちもその方が有り難かったので、彼女の提案に乗ることにした。
花音は二人がテーブルに向かっている間に自販機でコーヒーを三本購入してから、自分も席に着いた。
「実は……この本を巡って、とある争いが起きているんです」
紅莉はお礼を言ってからコーヒーを受け取り、口を一度湿らせてから事情を話し始めた。
立夏に説明したようなことをもう一度説明しなければならないとあって、紅莉の表情はやや疲労の色が浮かんでいる。しかも妹の立夏と比べて、花音の方が納得させるには骨が折れそうだ。
態度の節々から堅物そうで、オカルトじみたことは一切信じなさそう。
奇しくも悠真と紅莉は花音に対して同じ第一印象を抱いていた。
事実、彼女の顔は引き攣っていた。相手が妹と同じぐらいの子供だから怒鳴らないだけで、職場の同僚であれば雷が落ちていたに違いない。
どう説明しようか……と二人は視線で会話する。
だがそれは、どうやら杞憂だったようだ。
「それって、最近起こった星廻に関連した事件のこと?」
「え……?」
「花音さん、もしかして知っているんですか!?」
まさに青天の霹靂。悠真も紅莉も彼女の言葉に目を丸くした。
立夏は星廻や禍星の子について何も知らなかったというのに、花音は自分からそのワードを出してきたのだからそれもそうだろう。
「そりゃあ、ね。ふぅん、貴方たち、二人とも透影なんだ」
「どうしてそれを……!!」
「悠真君、ハメられたかも。この人、全部分かっていてこの席を選んだんだよ」
「席を? ……あっ」
悠真は周囲を見渡した。このラウンジにはテーブルや椅子の他に、患者用の公衆電話にテレビがある。さらに洗面台と――
「鏡か!」
「ふふ。御名答。貴方たち、他人に星廻のことで警告してきた割に、随分と隙だらけじゃないかしら?」
「うぐ、それは……」
「まぁいいわ。貴方たちが敵じゃないことも分かったことだしね」
「初対面の人から貰った飲み物を、何の疑いもなく飲むぐらいだし?」と笑いながら、花音は自分のコーヒーを飲み始めた。
悠真は自分の迂闊さに頭を抱えたくなった。
すっかり手のひらで転がされた上に、逆に心配までされてしまった。
二人とも同じように頬を染め、余計な事をしたと罰が悪そうに肩を落とした。
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