4 / 106
第4話 魔王様、噂されています
しおりを挟む
~いっぽうその頃、魔王城では~
「では魔王軍四天王による会議を始める」
無機質な石造りの部屋に、男性の重低音ボイスが響く。
声の主は、火の四天王であるクリムだ。
真っ赤に燃え盛る炎のような髪を逆立て、辺りを見渡す眼差しは鋭い。2メートルを超える筋骨隆々の巨体も、その威圧感を増す要因となっている。
とはいえ本来の彼は、非常に落ち着いた気質の紳士だ。
冷静な判断力の持ち主ということもあり、四天王のまとめ役を任されることも多い。
だが今に限っては、彼の表情は非常に強張っていた。それだけ、今日の議題が深刻なのだろう。
「待って、クリム。まだ風のブロウが来ていないわ」
「む、アイツはまた遅刻か?」
「あの子、しょっちゅう遅れるのよねぇ」
続いて口を開いたのは、水の四天王であるアクアだった。
水色の長い髪を床まで垂らし、気怠そうにテーブルへ片肘をついている。豊満な体を魔術で作った水の衣でまとった、セクシーなお姉さん系の魔族である。
「ぼ、僕ならここに居るんだが……」
そんなアクアの言葉に、風の四天王ブロウがオドオドと答えた。
眼鏡の奥にある顔は病的なまでに白く、唇も真っ青。オマケに痩せていることもあって、完全に病人にしか見えない。
「ああ、ブロウ居たのね」
「なんなら一番最初に来ていたんだけど……」
「あらそうなの。気付かなかったわ。それはともかく、会議を始めましょうか」
「うむ、そうだな」
ブロウの「僕への扱い、雑じゃない?」という言葉を無視して、クリムは会議をスタートさせた。
ちなみに四天王最後の一人は肉のヨシヤだ。湯気の上がった牛丼を夢中で食べているが、他の三人は彼に触れもしない。だがこれが四天王にとっての通常運転なのだ。
「本日の議題は……まぁ皆もすでに予想はついていると思う」
彼は魔術で炎を生み出し、空に浮かべた。それらがミミズのように動き、やがて文字となる。
『今後の魔族領について』
宙に浮かんだのは、そんな文字だった。
「魔王ウィルクス様が勇者と相打ちになられてから、はや一週間。魔族領内の様子はどうだ?」
「軍の再整備は完了したわ」
「ど、どうにか民の混乱も終息にむ、向かってきたよ」
「はふっ、はふはふ! はーっふ!」
魔王の死亡という一大事に、残された四天王は多忙を極めていた。
今までは魔王が居なくても、魔族同士の諍い程度であれば四天王でどうにでもなっていた。
しかし今回ばかりはそうもいかない。魔族が人族に敗北したことで、国中が大混乱に陥ったからだ。
そのためクリムたち四天王は、鎮圧に奔走する日々が続いていたのである。
「そうか。だがまだ問題は残っているだろう」
「ええ、そうね」
「こほっ……ふうっ……そうだね」
軍や民の問題は一応の解決が見えた。
残る悩みのタネとなっているのが――。
「怒り狂ったシャルン様をどう鎮めるかだな」
彼らは互いに顔を見合わせたあと、一斉にため息を吐いた。
ウィルクスの一代前の魔王。
十年ほど前に病気で亡くなっているのだが、彼にはひとりの娘がいた。
彼女の名はシャルン。
そして現魔王の名でもある。
「でも、シャルン様の気持ちも分かるわぁ」
アクアがほうっと息を吐いてからそう呟いた。
「彼女、ウィル様のことが大好きだったもの」
先々代の魔王が亡くなった時、シャルンに残された家族はウィルクスだけとなった。直接的な血のつながりは無くとも、彼女はウィル兄様と言って慕っていたのである。
シャルンが内心でどんな感情を持っていたかは、当人にしか分からないことだが……少なくとも、恋愛感情に近い想いがあったのは間違いない。
そんな人物を敵の人族に奪われ、自身は魔族の王という責任ある立場になったのだ。今、どんな心境か想像に難くない。
同じ女性であるアクアにも、共感できる部分があったのか、優しい眼差しで宙を見つめている。
「ぼ、僕だって人間族に復讐したい。でも、あの人はそんなこと、望んじゃいない」
ブロウが眼鏡の位置を直しながら、震える声でそう言った。
「そうだな。あの人は魔王でありながら、常に平和のことを考えていらっしゃった」
「あれほどまでに優しい魔王は、歴史を見ても居ないわよねぇ」
「ぼ、僕はそんな陛下だから慕っていたんだ。あの人ほど、上に立つべき人は居ない、と思う」
三人とも敬愛する魔王ウィルクスの思い出話に花を咲かせる。
性格も戦闘スタイルも異なる彼ら四天王をはじめ、クセの強い魔族軍をたった一人でまとめ上げてきたのだ。
そして最後は自ら勇者と戦い、散っていった。すべては魔族のため、この国のため。彼を魔王として認めない者は、魔族領に誰ひとりとしていなかった。
「さて、いつまでも昔話に花を咲かせている場合ではないぞ」
クリムの言葉に、他の二人の表情が引き締まる。
そう、問題は現状なのである。
「我らはウィルクス様のご遺志を継ぐ者。であれば命を賭してでも、シャルン様の復讐を止めねばなるまい」
クリムの言葉に、他の二人が頷く。
こうして四天王による会議は、さらに白熱していくのであった。
そのウィルクスが勇者の体を借り、別の方法で世に平和をもたらそうとしているとは知らずに――。
「では魔王軍四天王による会議を始める」
無機質な石造りの部屋に、男性の重低音ボイスが響く。
声の主は、火の四天王であるクリムだ。
真っ赤に燃え盛る炎のような髪を逆立て、辺りを見渡す眼差しは鋭い。2メートルを超える筋骨隆々の巨体も、その威圧感を増す要因となっている。
とはいえ本来の彼は、非常に落ち着いた気質の紳士だ。
冷静な判断力の持ち主ということもあり、四天王のまとめ役を任されることも多い。
だが今に限っては、彼の表情は非常に強張っていた。それだけ、今日の議題が深刻なのだろう。
「待って、クリム。まだ風のブロウが来ていないわ」
「む、アイツはまた遅刻か?」
「あの子、しょっちゅう遅れるのよねぇ」
続いて口を開いたのは、水の四天王であるアクアだった。
水色の長い髪を床まで垂らし、気怠そうにテーブルへ片肘をついている。豊満な体を魔術で作った水の衣でまとった、セクシーなお姉さん系の魔族である。
「ぼ、僕ならここに居るんだが……」
そんなアクアの言葉に、風の四天王ブロウがオドオドと答えた。
眼鏡の奥にある顔は病的なまでに白く、唇も真っ青。オマケに痩せていることもあって、完全に病人にしか見えない。
「ああ、ブロウ居たのね」
「なんなら一番最初に来ていたんだけど……」
「あらそうなの。気付かなかったわ。それはともかく、会議を始めましょうか」
「うむ、そうだな」
ブロウの「僕への扱い、雑じゃない?」という言葉を無視して、クリムは会議をスタートさせた。
ちなみに四天王最後の一人は肉のヨシヤだ。湯気の上がった牛丼を夢中で食べているが、他の三人は彼に触れもしない。だがこれが四天王にとっての通常運転なのだ。
「本日の議題は……まぁ皆もすでに予想はついていると思う」
彼は魔術で炎を生み出し、空に浮かべた。それらがミミズのように動き、やがて文字となる。
『今後の魔族領について』
宙に浮かんだのは、そんな文字だった。
「魔王ウィルクス様が勇者と相打ちになられてから、はや一週間。魔族領内の様子はどうだ?」
「軍の再整備は完了したわ」
「ど、どうにか民の混乱も終息にむ、向かってきたよ」
「はふっ、はふはふ! はーっふ!」
魔王の死亡という一大事に、残された四天王は多忙を極めていた。
今までは魔王が居なくても、魔族同士の諍い程度であれば四天王でどうにでもなっていた。
しかし今回ばかりはそうもいかない。魔族が人族に敗北したことで、国中が大混乱に陥ったからだ。
そのためクリムたち四天王は、鎮圧に奔走する日々が続いていたのである。
「そうか。だがまだ問題は残っているだろう」
「ええ、そうね」
「こほっ……ふうっ……そうだね」
軍や民の問題は一応の解決が見えた。
残る悩みのタネとなっているのが――。
「怒り狂ったシャルン様をどう鎮めるかだな」
彼らは互いに顔を見合わせたあと、一斉にため息を吐いた。
ウィルクスの一代前の魔王。
十年ほど前に病気で亡くなっているのだが、彼にはひとりの娘がいた。
彼女の名はシャルン。
そして現魔王の名でもある。
「でも、シャルン様の気持ちも分かるわぁ」
アクアがほうっと息を吐いてからそう呟いた。
「彼女、ウィル様のことが大好きだったもの」
先々代の魔王が亡くなった時、シャルンに残された家族はウィルクスだけとなった。直接的な血のつながりは無くとも、彼女はウィル兄様と言って慕っていたのである。
シャルンが内心でどんな感情を持っていたかは、当人にしか分からないことだが……少なくとも、恋愛感情に近い想いがあったのは間違いない。
そんな人物を敵の人族に奪われ、自身は魔族の王という責任ある立場になったのだ。今、どんな心境か想像に難くない。
同じ女性であるアクアにも、共感できる部分があったのか、優しい眼差しで宙を見つめている。
「ぼ、僕だって人間族に復讐したい。でも、あの人はそんなこと、望んじゃいない」
ブロウが眼鏡の位置を直しながら、震える声でそう言った。
「そうだな。あの人は魔王でありながら、常に平和のことを考えていらっしゃった」
「あれほどまでに優しい魔王は、歴史を見ても居ないわよねぇ」
「ぼ、僕はそんな陛下だから慕っていたんだ。あの人ほど、上に立つべき人は居ない、と思う」
三人とも敬愛する魔王ウィルクスの思い出話に花を咲かせる。
性格も戦闘スタイルも異なる彼ら四天王をはじめ、クセの強い魔族軍をたった一人でまとめ上げてきたのだ。
そして最後は自ら勇者と戦い、散っていった。すべては魔族のため、この国のため。彼を魔王として認めない者は、魔族領に誰ひとりとしていなかった。
「さて、いつまでも昔話に花を咲かせている場合ではないぞ」
クリムの言葉に、他の二人の表情が引き締まる。
そう、問題は現状なのである。
「我らはウィルクス様のご遺志を継ぐ者。であれば命を賭してでも、シャルン様の復讐を止めねばなるまい」
クリムの言葉に、他の二人が頷く。
こうして四天王による会議は、さらに白熱していくのであった。
そのウィルクスが勇者の体を借り、別の方法で世に平和をもたらそうとしているとは知らずに――。
31
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる