5 / 106
第5話 魔王様、ご到着です
しおりを挟む
暗転した視界に光が戻ると、そこは室内ではなく、自然あふれる森の中だった。
お城から一緒に連れてきたリディカ姫は、俺の腕の中で目をクルクルと回している。
「あ、あの……ストラゼス様っ、い、いまのはいったい……?」
「ああごめん、驚かせちゃったな」
どうやら転移魔法特有の激しい眩暈にやられたらしい。謝りつつ、何をしたのか説明した。
「転移魔法、ですか? ……ってぇえええぇえ!? ホントに!? ここ100年は成功させた者が居ないという、あの伝説の?」
「大丈夫、ちゃんと成功してるから」
俺はそう言ったのだが、リディカ姫は信じられないといったご様子。彼女は抱きかかえられたまま、辺りをきょろきょろと見渡し始めた。
たしかに魔法が得意な魔族の中でも、転移魔法を使えるほどの実力者は、先代の魔王か俺ぐらいだったしなぁ。しまったな、人族の前で迂闊に使うと怪しまれてしまうか。
「ところで、ここはどこなのですか?」
「プルア村の近くにある森だよ。多分人族の地図には載っていない」
一度訪れたことのある場所なら、ピンポイントで転移することができる。だけど俺自身は来たことがないので、近くに行くことしかできなかった。
「さて、森を抜けて村へ向かおう。もうすぐ日が暮れる時間だ」
「……」
「ん、どうした?」
「……ストラゼス様って、実はもの凄い方だったんですね」
リディカ姫が感心した様子ではぁ~と口を開けた直後。腕の中から「きゅるるる」と、可愛らしい音が聞こえてきた。
「……す、すみません」
互いに顔を見合わせていると、リディカ姫の顔はみるみる赤くなっていった。
城で夕飯を食べ損ねたし、お腹が空いちゃったんだろうなぁ。
うん俺も実はお腹空いてる。でも今はまずは村へ行くのが優先だ。
「よーし、それじゃあ急ぎで向かいますか」
「えっ、待ってくださいストラゼス様。私は重いのでもう降ろして……きゃああっ!」
俺は問答無用で再び彼女を抱きかかえると、そのまま村の方角へ向けて森の中を駆けだしたのだった。
「ぜぇ……はぁ、もう、強引な男性は嫌われますよ!?」
叫びすぎて息も絶え絶えなリディカ姫が、親の仇を見るような目で俺を睨みつけてきた。そんな彼女を俺はゆっくりと地面に立たせながら、思わず苦笑する。
「でもお陰で早く着いただろ?」
「まぁ……はい」
リディカ姫は照れくさそうに頷くと、小さく微笑んだ。
一国のお姫様なら、城から出ることもあまりないだろうし。そんな人が、整備がされていない森の中を歩けるわけがないもんな。
それは本人も分かっているから、あんまり怒らなかったんだろう。なにより、早くしないとお腹の虫がもっとうるさくなるだろうしね。
「さぁ、もう少しで村に着くはずだ」
俺が指差す方向、木々の間から森の外がチラリと見えた。
そうして俺たちは一緒に歩いて森を抜ける。
視界には一面に自然が広がる、長閑な田舎の風景が広がっている――はずだった。
「あの、ここが本当にプルア村なのですか?」
「そのはずなんだが……様子がおかしいな」
傍を流れる川の水は紫色だし、田畑には何も植えられていない。
村にある建物もまばらで、人の気配が全くなかった。
「あの、ストラゼス様……あれはいったい?」
さらに何かに気が付いたリディカ姫が、指を差した。
その先には、村の外周に沿うように作られた木製の柵が見えるが――その全てが無残なまでに破壊されている。
「ちょっと村の中心の方へ行ってみよう」
リディカ姫の手を握り、早足で進む。
村の中心部にやってくると小さな広場があり、そこには大きな鐘が転がっていた。
それは王都にあるような立派なものではないけれど、村の人達が集まる目印としては十分だったのだろう。
だが今は――その鐘さえも壊されていた。鐘の表面には深々と爪痕がハッキリと残っている。やはり魔物がこの村を襲ってきたのだろう。
「酷い……」
リディカ姫は今にも泣きそうな顔で俺を見上げてくる。俺はそんな彼女の背中をさすりながら、村の様子を見て回ることにした。
「ストラゼス様……村の方々は……」
「……おそらく、魔物が来る前に慌てて逃げ出したんだろう」
どの家も荒らされた形跡があったものの、幸か不幸か人が襲われた様子はなかった。
だが彼らはどこへ行ったんだろうか。何か情報がないか、領主が住んでいた館に行ってみることにした。
「おいおい、領主は役目も果たさずトンズラかよ……」
館からは、家財道具や金目の物が一切無くなっていた。
さらにメイドが残したと思しき日記には、領主一家が村と民を捨てて逃げ出したと書き殴ってあった。
「そんな! 領主でありながら、民を守るどころか真っ先に逃げるなんて!」
主の居なくなった執務室で、リディカ姫は悔しそうに唇を噛んだ。
他にも領主の悪行が日記帳に書かれており、領民は相当な苦労を負わされていたことが分かった。
「まったくだが、居ない奴のことを考えても仕方ない。今は俺たち二人でどうにかするしか――」
そのとき、部屋の外でゴトンと何かが落ちる音が聞こえた。
「リディカ姫、こっちに隠れろ」
「きゃっ!?」
俺はリディカ姫をテーブルの下に押し込み、自身もその影に隠れた。
「……誰かいるんですか?」
「分からない。もしたしたら魔物が残っていたのかもしれないが」
俺はリディカ姫をその場に残し、息を殺して物陰から音のした方をそっと窺う。
「おいおい、マジかよ……」
するとそこには――三人の幼い獣人たちが床でうずくまっていた。
お城から一緒に連れてきたリディカ姫は、俺の腕の中で目をクルクルと回している。
「あ、あの……ストラゼス様っ、い、いまのはいったい……?」
「ああごめん、驚かせちゃったな」
どうやら転移魔法特有の激しい眩暈にやられたらしい。謝りつつ、何をしたのか説明した。
「転移魔法、ですか? ……ってぇえええぇえ!? ホントに!? ここ100年は成功させた者が居ないという、あの伝説の?」
「大丈夫、ちゃんと成功してるから」
俺はそう言ったのだが、リディカ姫は信じられないといったご様子。彼女は抱きかかえられたまま、辺りをきょろきょろと見渡し始めた。
たしかに魔法が得意な魔族の中でも、転移魔法を使えるほどの実力者は、先代の魔王か俺ぐらいだったしなぁ。しまったな、人族の前で迂闊に使うと怪しまれてしまうか。
「ところで、ここはどこなのですか?」
「プルア村の近くにある森だよ。多分人族の地図には載っていない」
一度訪れたことのある場所なら、ピンポイントで転移することができる。だけど俺自身は来たことがないので、近くに行くことしかできなかった。
「さて、森を抜けて村へ向かおう。もうすぐ日が暮れる時間だ」
「……」
「ん、どうした?」
「……ストラゼス様って、実はもの凄い方だったんですね」
リディカ姫が感心した様子ではぁ~と口を開けた直後。腕の中から「きゅるるる」と、可愛らしい音が聞こえてきた。
「……す、すみません」
互いに顔を見合わせていると、リディカ姫の顔はみるみる赤くなっていった。
城で夕飯を食べ損ねたし、お腹が空いちゃったんだろうなぁ。
うん俺も実はお腹空いてる。でも今はまずは村へ行くのが優先だ。
「よーし、それじゃあ急ぎで向かいますか」
「えっ、待ってくださいストラゼス様。私は重いのでもう降ろして……きゃああっ!」
俺は問答無用で再び彼女を抱きかかえると、そのまま村の方角へ向けて森の中を駆けだしたのだった。
「ぜぇ……はぁ、もう、強引な男性は嫌われますよ!?」
叫びすぎて息も絶え絶えなリディカ姫が、親の仇を見るような目で俺を睨みつけてきた。そんな彼女を俺はゆっくりと地面に立たせながら、思わず苦笑する。
「でもお陰で早く着いただろ?」
「まぁ……はい」
リディカ姫は照れくさそうに頷くと、小さく微笑んだ。
一国のお姫様なら、城から出ることもあまりないだろうし。そんな人が、整備がされていない森の中を歩けるわけがないもんな。
それは本人も分かっているから、あんまり怒らなかったんだろう。なにより、早くしないとお腹の虫がもっとうるさくなるだろうしね。
「さぁ、もう少しで村に着くはずだ」
俺が指差す方向、木々の間から森の外がチラリと見えた。
そうして俺たちは一緒に歩いて森を抜ける。
視界には一面に自然が広がる、長閑な田舎の風景が広がっている――はずだった。
「あの、ここが本当にプルア村なのですか?」
「そのはずなんだが……様子がおかしいな」
傍を流れる川の水は紫色だし、田畑には何も植えられていない。
村にある建物もまばらで、人の気配が全くなかった。
「あの、ストラゼス様……あれはいったい?」
さらに何かに気が付いたリディカ姫が、指を差した。
その先には、村の外周に沿うように作られた木製の柵が見えるが――その全てが無残なまでに破壊されている。
「ちょっと村の中心の方へ行ってみよう」
リディカ姫の手を握り、早足で進む。
村の中心部にやってくると小さな広場があり、そこには大きな鐘が転がっていた。
それは王都にあるような立派なものではないけれど、村の人達が集まる目印としては十分だったのだろう。
だが今は――その鐘さえも壊されていた。鐘の表面には深々と爪痕がハッキリと残っている。やはり魔物がこの村を襲ってきたのだろう。
「酷い……」
リディカ姫は今にも泣きそうな顔で俺を見上げてくる。俺はそんな彼女の背中をさすりながら、村の様子を見て回ることにした。
「ストラゼス様……村の方々は……」
「……おそらく、魔物が来る前に慌てて逃げ出したんだろう」
どの家も荒らされた形跡があったものの、幸か不幸か人が襲われた様子はなかった。
だが彼らはどこへ行ったんだろうか。何か情報がないか、領主が住んでいた館に行ってみることにした。
「おいおい、領主は役目も果たさずトンズラかよ……」
館からは、家財道具や金目の物が一切無くなっていた。
さらにメイドが残したと思しき日記には、領主一家が村と民を捨てて逃げ出したと書き殴ってあった。
「そんな! 領主でありながら、民を守るどころか真っ先に逃げるなんて!」
主の居なくなった執務室で、リディカ姫は悔しそうに唇を噛んだ。
他にも領主の悪行が日記帳に書かれており、領民は相当な苦労を負わされていたことが分かった。
「まったくだが、居ない奴のことを考えても仕方ない。今は俺たち二人でどうにかするしか――」
そのとき、部屋の外でゴトンと何かが落ちる音が聞こえた。
「リディカ姫、こっちに隠れろ」
「きゃっ!?」
俺はリディカ姫をテーブルの下に押し込み、自身もその影に隠れた。
「……誰かいるんですか?」
「分からない。もしたしたら魔物が残っていたのかもしれないが」
俺はリディカ姫をその場に残し、息を殺して物陰から音のした方をそっと窺う。
「おいおい、マジかよ……」
するとそこには――三人の幼い獣人たちが床でうずくまっていた。
30
あなたにおすすめの小説
三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る
マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息
三歳で婚約破棄され
そのショックで前世の記憶が蘇る
前世でも貧乏だったのなんの問題なし
なによりも魔法の世界
ワクワクが止まらない三歳児の
波瀾万丈
男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。
カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。
今年のメインイベントは受験、
あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。
だがそんな彼は飛行機が苦手だった。
電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?!
あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな?
急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。
さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?!
変なレアスキルや神具、
八百万(やおよろず)の神の加護。
レアチート盛りだくさん?!
半ばあたりシリアス
後半ざまぁ。
訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前
お腹がすいた時に食べたい食べ物など
思いついた名前とかをもじり、
なんとか、名前決めてます。
***
お名前使用してもいいよ💕っていう
心優しい方、教えて下さい🥺
悪役には使わないようにします、たぶん。
ちょっとオネェだったり、
アレ…だったりする程度です😁
すでに、使用オッケーしてくださった心優しい
皆様ありがとうございます😘
読んでくださる方や応援してくださる全てに
めっちゃ感謝を込めて💕
ありがとうございます💞
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる
街風
ファンタジー
「お前を追放する!」
ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。
しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる