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第16話 小鳥の宝物(ピィSide:後編)
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それからあたしたちはストラゼスお兄ちゃんの子分になった。子分だけど、前の領主様みたいに横暴なことはしてこなかった。
「今日は魚料理だぞー!」
「やったのニャ! ストラ兄の焼き魚は格別なのニャ!」
「僕はお肉がいいです!」
「お肉なー、こんど森に行って狩ってくるか」
フシとクーは餌付けされて、すっかりお兄ちゃんに心を開いていた。
フシなんてゴロゴロと喉を鳴らしちゃって、誰に対しても警戒を解かなかったころが信じられないくらい。
「ピィは魚が好きか?」
「虫がいいー」
だけどあたしは、どうしても信じられなかった。フシとクーほど、信じてはいなかった。
お父さんが昔言っていたんだ。人族には良い顔をして騙してくる悪いやつもいるって――人族は信用できないって。
もしそんな人族と一緒に暮らすことになったら、その生活の中でふとした拍子に裏切られるかもしれないから注意しなさいって……そう、お母さんが言っていたんだ。
だからあたしは。心の底から信じることはしなかった。
でも……。
「これをやるよ、ピィ」
買い出しに来ていたティリングの街から帰る間際。ストラゼスお兄ちゃんは、あたしに手を出すように言ってきた。
「……なに、これ?」
あたしの手の平に乗せられたのは、小さな赤いリボン。
たぶん髪に飾るやつ。領主様の娘がしていたのを見たことがある。
「普通の髪飾りに、ちょっとだけ細工をしてな。魔力を注いで発動させると、少しだけ空中を飛べる仕組みにしてみたんだ」
「空を飛べる、魔道具……?」
「そう。まぁ効果は数分だけど」
お兄ちゃんは「上等な魔石でもあれば、もっと良いのが作れるんだけどなー」なんて言っていたけれど。あたしは驚いて言葉が出なかった。
簡単に言っているけれど、魔道具を人族で作れる人なんて聞いたことが無いよ!? しかもいつ作ったの? 今!? 嘘だよね!?
「ほら、ティリングに向かっているときにさ。ピィは自分で飛びたさそうだったから」
「どうしてそれを……」
「分かるよ。口に出せなくても、ピィの目を見たらな」
お兄ちゃんは笑いながら、あたしの手を握ってきた。
「ピィにも翼があるんだ。自由に飛んでいいんだぞ?」
優しい、お父さんみたいな手で――。
「っ……あたしは……」
ああ、どうしよう……涙が出てきちゃう。
だって本当に嬉しいんだもん。空を飛べるって聞いて、胸が弾んじゃうよ……!
「えっと、あの……ありがとう……!」
あたしはなんとかお礼の言葉を口にして、ストラゼスお兄ちゃんの足に抱きついた。その拍子にリボンを落としちゃったけど、お兄ちゃんは拾ってあたしの頭に付けて、優しく撫でてくれた。
「ピィ、よく頑張ったな。辛かったよな」
お兄ちゃんは、あたしが今まで頑張ってきたのを、全部分かってくれているみたいだった。あたし自身も気付いていなかった気持ちを、優しく教えてくれたんだ――。
帰宅後。
あたしは領主館の居室にある鏡の前でポーズを決めていた。
「ピィが気持ち悪い顔になってるのニャ」
「そのリボン、どうしたのです!?」
ベッドの上に寝転ぶフシが半目でこちらを向き、クーが目をキラキラさせて鏡に入り込んできた。
「ないしょー」
「あっ、これは男からの贈り物だニャ!?」
「ひみつー」
あたしが家族以外から初めてもらった、大事な大事な、たからもの。
もう一度空を飛べることよりも、あたしを想ってくれたことの方がなにより嬉しい。
生きることに必死だった生活は、もう終わり。だから今度は、あの人の夢を応援してみようと思う。
「仕方ないから、お仕事がんばるのー」
鏡の向こう側で、赤いリボンが楽しげに揺れていた。
「今日は魚料理だぞー!」
「やったのニャ! ストラ兄の焼き魚は格別なのニャ!」
「僕はお肉がいいです!」
「お肉なー、こんど森に行って狩ってくるか」
フシとクーは餌付けされて、すっかりお兄ちゃんに心を開いていた。
フシなんてゴロゴロと喉を鳴らしちゃって、誰に対しても警戒を解かなかったころが信じられないくらい。
「ピィは魚が好きか?」
「虫がいいー」
だけどあたしは、どうしても信じられなかった。フシとクーほど、信じてはいなかった。
お父さんが昔言っていたんだ。人族には良い顔をして騙してくる悪いやつもいるって――人族は信用できないって。
もしそんな人族と一緒に暮らすことになったら、その生活の中でふとした拍子に裏切られるかもしれないから注意しなさいって……そう、お母さんが言っていたんだ。
だからあたしは。心の底から信じることはしなかった。
でも……。
「これをやるよ、ピィ」
買い出しに来ていたティリングの街から帰る間際。ストラゼスお兄ちゃんは、あたしに手を出すように言ってきた。
「……なに、これ?」
あたしの手の平に乗せられたのは、小さな赤いリボン。
たぶん髪に飾るやつ。領主様の娘がしていたのを見たことがある。
「普通の髪飾りに、ちょっとだけ細工をしてな。魔力を注いで発動させると、少しだけ空中を飛べる仕組みにしてみたんだ」
「空を飛べる、魔道具……?」
「そう。まぁ効果は数分だけど」
お兄ちゃんは「上等な魔石でもあれば、もっと良いのが作れるんだけどなー」なんて言っていたけれど。あたしは驚いて言葉が出なかった。
簡単に言っているけれど、魔道具を人族で作れる人なんて聞いたことが無いよ!? しかもいつ作ったの? 今!? 嘘だよね!?
「ほら、ティリングに向かっているときにさ。ピィは自分で飛びたさそうだったから」
「どうしてそれを……」
「分かるよ。口に出せなくても、ピィの目を見たらな」
お兄ちゃんは笑いながら、あたしの手を握ってきた。
「ピィにも翼があるんだ。自由に飛んでいいんだぞ?」
優しい、お父さんみたいな手で――。
「っ……あたしは……」
ああ、どうしよう……涙が出てきちゃう。
だって本当に嬉しいんだもん。空を飛べるって聞いて、胸が弾んじゃうよ……!
「えっと、あの……ありがとう……!」
あたしはなんとかお礼の言葉を口にして、ストラゼスお兄ちゃんの足に抱きついた。その拍子にリボンを落としちゃったけど、お兄ちゃんは拾ってあたしの頭に付けて、優しく撫でてくれた。
「ピィ、よく頑張ったな。辛かったよな」
お兄ちゃんは、あたしが今まで頑張ってきたのを、全部分かってくれているみたいだった。あたし自身も気付いていなかった気持ちを、優しく教えてくれたんだ――。
帰宅後。
あたしは領主館の居室にある鏡の前でポーズを決めていた。
「ピィが気持ち悪い顔になってるのニャ」
「そのリボン、どうしたのです!?」
ベッドの上に寝転ぶフシが半目でこちらを向き、クーが目をキラキラさせて鏡に入り込んできた。
「ないしょー」
「あっ、これは男からの贈り物だニャ!?」
「ひみつー」
あたしが家族以外から初めてもらった、大事な大事な、たからもの。
もう一度空を飛べることよりも、あたしを想ってくれたことの方がなにより嬉しい。
生きることに必死だった生活は、もう終わり。だから今度は、あの人の夢を応援してみようと思う。
「仕方ないから、お仕事がんばるのー」
鏡の向こう側で、赤いリボンが楽しげに揺れていた。
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