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第34話 魔王様、開墾です
しおりを挟む「農業の発展において、重いものを運べる牛や豚の存在はとても大きくてな。昔の人は大事に可愛がるあまり、彼ら家畜を神の遣いや神そのものとして扱っていたんだ」
俺は用意した牧草を食んでいるケルベロウシの白黒ブチな背中を優しく撫でながら、リディカ姫に講義を行う。
ちなみにケルベロウシは三つ頭なので、餌箱も一頭に付き三つ必要になる。ちょっと非効率だが、これはこれで可愛らしい。
「過去の先輩方に倣って、俺もケルベロウシたちを使った農業をしてみようと思ったわけだ」
「だからって、ケルベロウシは魔物ですよ? ちょっと危険じゃありませんか?」
「いや、こいつら意外と大人しいし、頭も良いから大丈夫だよ」
リディカ姫が心配そうにケルベロウシを見る。まぁこの巨体だし、いきなり襲われたらビビるよな。
実際、俺たちがこの村でケルベロウシたちを見かけたときは、大群で押し寄せてきたからかなりビビったもんだ。
「ほら、リディカ姫も撫でてみろよ」
「う、うぅ……本当に大丈夫なんですか?」
リディカ姫が彼らから、一歩だけ離れた状態で恐る恐る手を伸ばす。それを見たケルベロウシは、嬉しそうに自分から寄ってくる。
「な? 平気だろ?」
「……あ、ふわふわしていて、意外と気持ちいいですね」
彼らはそれに応えるよう、ボゥボゥと低い声で鳴いた。可愛い奴め。
「ふふ……なんかちょっとかわいいですね。あっ、ちょっと順番に撫でてあげるからケンカしないの」
ケルベロウシは基本、大人しい草食の魔物だ。他の魔物や動物のテリトリーには、彼らは入って来ない。なのでこちらから手を出さない限り、人間を襲うことはまず無い。
魔物とはいえ彼らも生物なので、餌を与えたり運動をさせたりすれば懐いてくれるのだ。特に姫は魔物から好かれやすい体質なのか、ケルベロウシにすり寄られている。ただ頭が三つあるせいで、取り合いで揉みくちゃにされてしまっていた。
「それじゃあリディカ姫。そろそろ始めるとしようか」
「はい!」
今回俺が用意したのは、馬鍬と呼ばれる櫛状の農機具だ。
漢字で書くと『冊』という字に似ているシロモノで、これをケルベロウシに牽かせると、固まった土を掘り起こすことができる。
ナバーナ村のゲンさんに説明して、ケルベロウシ用にわざわざ作ってもらった特注品だ。
「まずは左右の頭に首木をつけるんだ」
「この半円状の木ですか?」
「そうそう。首輪みたいにつけることで、後ろの鍬が固定されて安定するんだ」
普通の牛だとこの首木がズレて不安定になったり、石を牽かせて練習させたりと手間が掛かるのだが……。
「おぉ、一発で上手くいったな!」
「すごいです! ぐんぐんと畑が耕されていきますね!」
ケルベロウシ三頭はその大きな体を器用に使って、畑の開墾に勤しむ。
鞍が繋がれていない真ん中の頭が、歩く途中で地面の雑草を摘まみ食いしたりと、ほのぼのとした光景だ。
よしよし、予想以上に順調だな。これが終わったらさっそく、魔族領で手に入れてきた例の邪悪な種を蒔いてみよう。
「頼むぞケルベロウシ~、仕事をした分はしっかりお礼をするからな」
俺が声を掛けると、彼らは『分かってるさぁ』と言いたげに、大きく体を振るわせて答えた。
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