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第35話 魔王様、クソ野郎になる
しおりを挟む「さて、覚悟を決めるか……」
食堂にある長テーブルに両肘をつき、「ふうぅぅう」と深く長い息を吐いた。
「どうしたんですか、ストラゼス様。そんな深刻そうな声なんか出して」
「姫様か……おはよう。今日の朝食はナバーナ村のバンナの実を使った、甘味と酸味のバランスが最高に良いパンだよ」
「わっ、嬉しい! 私この前に初めてバンナの実を食べてから、大好きになっちゃったんです!」
笑顔で俺の前に座るリディカ姫。窓から差し込む朝日が彼女の銀色の髪を照らし、キラキラと輝いている。
眩しいなぁ。王城にいた頃の、俯きがちで陰鬱なオーラをまとった姫の姿はそこにはない。
そんな彼女を見ながら俺は、もう一度大きく息を吐いた。
「あの……ひょっとして何か悩み事ですか?」
「うん、まぁちょっとね……」
パンを野菜スープに浸しながら、リディカ姫は心配そうに俺の顔を覗いてきた。
この数日間で、村の復興はずいぶんと進んだ。建物も建て終えたし、井戸も復活させ、今は畑にも取り掛かっている。正直に言うと、順調すぎて怖いくらいだ。
だがそんな状態だからこそ、俺はとあることで悩んでいる。
「でしたら、遠慮なく相談してください。私は貴方のパートナーでしょう?」
「いや……今は大丈夫だよ、ありがとう」
「いいえ、駄目です。今この場で仰ってください。こういうのは、早めにスッキリさせた方が良いんですよ?」
溜め込んでは駄目です、とキッパリ言われてしまった。
う、うぅん……気持ちは有り難いが、すごく言いにくい。しかしジッと目を見つめられ、プレッシャーを掛けられ続けていると、正直に言わざるを得なくなってくる。
「いやさ、リディカ姫は……って嫌いか?」
「え? なんです? 声が小さくて聞こえなかったので、もう一度言ってもらえますか?」
「ウンコって嫌いか?」
「ぶふぉっ!?」
リディカ姫の口から、入れたばかりのバンナパンが飛び出しそうにる。
寸前でどうにか、手で口をガードすることに成功した彼女だったが――ゲホゴホと苦しそうだ。
「げほっ! ごほっごほッ! な、何を言い出すんですか突然!?」
むせながら顔を真っ赤に染め上げて、俺を睨みつけてくる。
うん、俺もこういう反応されると思っていたんだ。だから言いたくなかったんだよ!
「畑はフカフカになったんだけどさ。あまり手入れがされていなかったのか、土の状態が悪くってな。肥料を作らなきゃいけないと思うんだよ」
「なら最初から肥料って言ってくださいよ! 食事中ですよ!?」
「わ、悪かったって……」
叱られた子供のように椅子の上で小さくなる俺。
リディカ姫は呆れたように俺をジト目で睨みつけてから、バンナパンをそっと自分の皿に置いた。
「それで、肥料のために今度はう……ウンチが必要になるってことですか?」
「そういうこと。アレなぁ、作っていると臭いが付くんだよ。それも食欲が無くなるくらい臭いんだ」
肥料にもいろんな種類があるんだが、家畜の糞から作るとなると、かなりの手間が掛かる。それも数か月単位で熟成させる必要があるから、その作業をする度に俺はウンコの臭いを周囲に漂わせることになるわけで。
我が家には嗅覚の鋭い獣人娘たちもいることだし、彼女たちに「近寄るニャ!」なんて避けられたら……俺は絶対にショックを受ける自信がある。気分はまるで、成長した娘を持ったパパだ。
「わ、私は大丈夫ですよ? お風呂に入ってしまえば、きっと臭いも取れるでしょうし」
「ちなみに、牛以外にも豚や鶏の糞も使うんだが……おい、なんで椅子の距離を離すんだよ! リディカ姫!? おい聞けよ!!」
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