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第37話 魔王様、ぴよぴよです。

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「ここが鶏舎けいしゃだ。どうだ、可愛い奴らだろ」
「元気な子たちですねー! それに小さくて、白くてフワフワで……こんなに可愛い動物たちがたくさんいるなんて!」

 畑から少し離れた場所で、ゲンさんご自慢の家畜を見せてもらった。

 鶏舎は人が住む平屋建てぐらいの広さがあり、中を見てみると、柵で囲まれた広いスペースにニワトリみたいな鳥が何羽も歩き回っていた。普通の鶏よりも二回りくらい小さくて、ヒヨコのまま大人になったような見た目がなんとも愛らしい。

 その周りを、リディカ姫がウロチョロと歩き回っていた。


「ストラゼス様! 見て下さい、餌をねだってきましたよ~」

 目をキラキラさせながらこちらに手を振るリディカ姫は、まるで天使に囲まれているかのようだ。
 その光景はすごく尊いんだが……本来の用事を忘れないでね、お姫様。

「あっ、すみません! 今まで動物と触れ合う機会がなかったので、嬉しくてつい……」
「いや、構うこたぁねぇさ。むしろ人族の姉ちゃんがこんなに喜んでくれるなんて、嬉しいもんだぜ」

 そんなリディカ姫の様子を見ながら、ゲンさんは満足そうに笑った。


「この村は、この『コッケ』を飼ってるんだ」
「コッケ? なんか聞いたことあるような……」

 俺が首をひねっていると、リディカ姫は何か知っているようだった。

「確か大陸の南にある、小さな島国で育てられている鳥のことですよね?」
「そうそう、嬢ちゃんよく知ってるな!」
「えへへ、本での知識ですけど」

 なるほど、そんな遠いところからコッケを仕入れたのか。


「外敵のいない島に棲んでいたせいか、コイツらは飛べないし、力もない。だが、滋養のある貴重な卵を産むんだ」
「へぇ、卵か……いいな。ウチの村でも飼えないかな」

 俺がコッケを覗き込むと、コッケたちは「コケッ!?」と驚き、一斉に逃げだしてしまった。

「ああこら! お前たち!」

 ゲンさんがそう叫ぶと、コッケたちが慌てて戻ってきた。
 だがやはり俺に対して警戒心があるのか、一定の距離まで近付くと止まってしまう。


「ストレスに敏感でなぁ。図体がデカい男を見ると、ビビってすぐに卵を産まなくなっちまうんだ」

「そっかぁ……じゃあ今のプルア村じゃ育てるのは厳しそうだな」

「ヒナの頃から育ててやると、かなり懐くんだがな」

 聞けばゲンさんはコッケを譲ってもらうために、その南の島に一年ほど住み込んだそうだ。

 それほどまでにデリケートな生き物なら、まだ環境が整っていないウチの村に連れて行ったら可哀想だよな。


「いつかは飼えるようになりたいですね!」
「あぁ、そうだな~。そのうち、チャレンジしよう」

 悲しいかな、今日の目的はウンコ。鶏糞けいふんなのだ。

 ゲンさんの案内で、俺たちは鶏舎の脇にある倉庫へと移動する。


「これがコッケの糞か……」
「あぁ、ウチではこの鶏糞を畑に撒いてる」

 牛糞、豚糞、鶏糞と動物性の肥料にはいろいろ種類があるが、それらには違いがある。

 たとえば牛。メインの食事が牧草なので、糞も植物の繊維が多くなる。牛は胃袋が何個もあるんで、長く消化され、凄く細かい繊維が排出されるそうだ。

 その繊維質が土に混ざることで、クッションの役割を果たしてフカフカになる。

 一方で、鶏は穀物を食べている。
 穀物にはミネラルが豊富で、他と比べても肥料としての力が強い。

 これらを用途に分けてバランスよく使ってやるのが、農業のコツなのだ。


「へぇ、やるじゃねぇか。ストラの兄ちゃんは、どっかの農家の出身か?」
「いや俺は孤児で……あぁ、いや。プルア村の出身だよ。旅の途中で会った農家の爺さんに、たまたま教えてもらったんだ」
「……そうか。勇者にも色々あったんだな」

 あ、危ない。思わず変なことを口走るところだった。
 リディカ姫も怪訝けげんな顔をしている。もしや怪しまれたか……?


「うっし、そんじゃお次は豚舎の方も見てみるか? ウチのピグーは東の砂漠から連れてきた、変わった奴でな~!」
「お、いいね。頼むよゲンさん!」

 話題を変えてくれたゲンさんに乗っかり、俺は笑顔で答えた。胸を刺す罪悪感を必死にしまい込みながら。

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