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第65話 魔王様、素直になるのー
しおりを挟む「はぁ……。どうしたら良いんだ、俺」
俺は自分の頭をガシガシと掻いた。
リディカ姫にはああ言ったが、さすがに村の来訪者たちを放り出すわけにはいかない。それに一度受け入れたからには、彼らも俺の大事な住人だ。
だが今の状態では安心して任せられないのも事実……うーむ。
そんなことを考えていると――ふいに部屋のドアがコンコンとノックされる音がした。誰が来たんだろう? まぁいいや、とりあえず入ってもらおう。
「どうぞー」
「お邪魔するのー」
部屋に入ってきたのは、鳥獣人のピィだった。
彼女は黄色い髪を左右に揺らしながら、俺に声を掛けてくる。
「変なかおしてるー? もしかして、リディカお姉ちゃんとケンカー?」
まるで見ていたかのような言い方だが……きっと怒った姫様と廊下ですれ違ったんだろうなぁ。
「まぁ……うん、ちょっと」
そんな俺の歯切れの悪い返事を聞いて、彼女は何かを察したようだった。
「ピィで良ければ話を聞くのー」
そう言いつつ、俺の膝にちょこんと座ってくる。
「……聞いてくれるのか?」
「もちろんなのー! あたしはお兄ちゃんが大好きだからー!」
“大好き”という言葉に少しドキッとしたが……考えてみれば彼女の場合は親愛的な意味だろう。
でもまぁ、今はありがたい限りだ……誰かに聞いてもらいたかったんだ。
俺は先ほどのやりとりを、かいつまんで彼女に話した。
姫様は“魔王様”に憧れていて、その魔王を殺した俺に反発している……というところまでは話したが、さすがに「実はその魔王は俺なんだよね!」とは言いにくいので割愛する。
「うーん。お兄ちゃんもおとなげないのー」
ピィはそう言うと、俺の膝からぴょんと飛び降りた。
「お兄ちゃんは、リディカお姉ちゃんに嫌われたくないだけなのー」
「うっ……」
ハッキリ言われるとちょっと胸が痛いな……。
でもそうかもしれない。俺は彼女が魔王様に憧れていることを否定したいわけじゃないんだ。むしろそんな憧れが、彼女の心の支えになってくれるなら良いとも思っている。
だからこそ“魔王はただのお人好し”なんて言葉を使ったのが間違いだった……いや、それでもあれは俺の本音だからなぁ。どうしたもんか……。
「お兄ちゃんは、リディカお姉ちゃんが大好きなの?」
「へ!?」
そんなことを考えていたら、いきなり核心を突く質問をされた。
大好きって……そりゃ好きだけどさ。でも恋愛感情的な意味じゃないよな? いやまぁ、彼女ならそれでも良いんだけども!
ちょっと考え込んでしまった俺を見て、ピィはクスクスと笑いだす。
「やっぱりそうなのー」
「うーむ……?」
どうやら俺は相当に分かりやすい人間らしい……まったくもって否定できないところが悲しいな。
「だったら素直に自分の気持ちを伝えるべきなのー」
「気持ちって……それは……」
「お兄ちゃんがリディカお姉ちゃんのことを好きならー、ちゃんと気持ちを伝えるのー」
「……あぁ」
そうだな。やっぱり彼女にも俺の気持ちを素直に伝えよう。
俺は彼女が好きだし、これからも一緒に生活したい。だから彼女を守りたいという気持ちに噓偽りは無いんだ……と伝えてみよう。その上で彼女の意思を尊重することにしよう。
……よしっ!
「ちょっと、姫様に会いに行ってくるわ!」
「お兄ちゃんの恋路を応援してるのー! 頑張ってなのー!」
俺の決意表明を聞いて、ピィが嬉しそうに笑った。
そうしてピィに見送られて部屋を出ていくと……玄関ホールから姫様の悲鳴が聞こえてきた。
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